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ハズレガチャの空きカプセル  作者: 京衛武百十
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<努力>というものが嫌い

 一真と琴美の両親は、<努力>というものが嫌いだった。なんでも楽して結果だけを得ようとする人間だった。そんな人間が<努力>の何を語れるというのか。

 そもそも努力してない親の子が、

『<努力>ってなんだ?』

 となってもおかしくないだろう。どうすることを<努力>というのか、教わってさえいないからだ。

 それとも、一真と琴美の両親のように、

『子供のための給付金を自分達のために使い込むという悪知恵を働かせる』

 ことを<努力>と言うのか? そんな<努力>を目の当たりにしてきた子供にただ、

『努力さえすれば何とでもなる!』

 などと言葉で殴りかかって何が伝わると思うのか。

 事実、一真も琴美も、

『<努力>とはなにか?』

 を知らない。子供が自ら努力するために支払われる給付金さえ自分達の遊興のために使い込む親の下で、何の努力ができると言うのか? 塾に行くにも習い事をするにも、参考書一つ買うにしたって金は要る。その金を子供のために使わない親の下で何が努力できるというのか? そんな親にどんな<恩>を感じればいいと言うのか?

 一真も琴美も、それを考えるための心の余裕さえ、両親の理不尽な振る舞いにより奪われてきた。そんな状況で何ができるのか、やってみたことがあるのか?

 現実を知らない者の戯言など、何も伝わりはしないのだ。なるほど確かに、<虚構を信じたい者>に<好みの虚構>を与えてやれば喜んで信じたりすることはあるのも事実ではあるが。

 それでも……

 それでも一真と琴美は、<努力>という言葉の何たるかは分からなくとも、ただ自分が生きていることを貫こうとしている。

『なぜ生きるのか?』

『何のために生きるのか?』

 そんなことはどうでもいい。今自分がこうして生きているのなら、ただ生きるだけだ。その先に何があるのかさえ、関心がない。いつか自分の呼吸と鼓動が止まり死を迎えるまで、ただ生きる。

 今の二人には、それしかなかった。

 だからこそ、今の自分にできることを、琴美はしている。好きじゃない勉強を淡々と、ただ淡々と。

 おかげで、成績は中の上程度にはなれていた。そのくらいでは全くアドバンテージにはならないだろうが、少なくとも、好きでもない地味な作業を淡々とこなすことには慣れているだろう。ただ、それが活かせるのは、多くの場合、<社会のお荷物>と呼ばれる程度の収入しか得られない職であろうが。

 地味で単調な作業を延々と繰り返す研究職などもあるとしても、そちらとてどの程度の給与が得られるものか。

 そういうことも、琴美は薄々悟っていた。悟りながらも、他にどうすればいいのか分からないので、今はとにかく学校に行く用意をするしかなかったのだった。



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