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ハズレガチャの空きカプセル  作者: 京衛武百十
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キレやすい性質

 大森海美神(とりとん)は言う。

「私さ、お母さんやお父さんがちゃんと信号とか守ってたのが自慢だったんだ。信号とかで止まる度に、私を見てくれたりしたんだよ。だから信号を待ってても退屈じゃなかった。早く行きたいと思っても、我慢できた。だってお母さんもお父さんも、私を見てくれるから。

 お父さんが言ってたよ。『こうやって信号を守るのは、自分に精神的な余裕があるかどうかを確かめるためなんだ。普通に待ててたら青信号。待てるけど苛々してたら黄信号。待てずに無視したら赤信号って。そういう自分を客観的に見るためのバロメータなんだ』ってさ。

 他の人は『自動車とか来てなかったら待つのとか時間の無駄だろ!』って言うけど、こんな信号を守る程度の余裕もないって、逆にヤバくない? 信号無視して作った何十秒とかの時間をネットで他の人とレスバに使ったりとかって、そっちの方が時間の無駄だと思うんだけどな。私、こうやって信号は守るけど、レスバとかで時間を使ったりしないんだ」

 次の交差点で信号待ちをしている時に、海美神はそう語ったのだ。

 琴美はその話に聞き覚えがあった。結人(ゆうと)が似たようなことを言っていたのを思い出す。

「俺って、やっぱ実の親がそうだったからかキレやすい性質でよ。そんな自分をコントロールするためにも、自分が今、どういう精神状態にあるのかを確かめるようにしてるんだ。信号とか待ったり、スピード違反をしないようにしたり、違法駐車しないようにしてるのもそれ。苛々せずにそれができたら大丈夫ってことで、それができる自分でいようと心掛けてんだよ。煽り運転する奴とか見ると、『あ~あ……』って思う。くっだらねえことで苛々してるとか、<小物感>しかねえよな」

 言い方は悪いが、言ってることは同じだと感じた。

 改めて海美神を見る。ずっと、明るくて朗らかで無茶苦茶幸せそうで悩みなんかなさそうな彼女のことが苦手だった。海美神(とりとん)なんてキラキラした名前を付ける感性の持ち主である彼女の両親も、そういう部分は『変わってる』かもしれなくても、間違いなく娘を愛してるのが伝わってくるのが、どこか妬ましくさえあった。けれど海美神の本質は、ただ、

『無駄に誰かを傷付けてそれでトラブルを起こさない』

 というだけのことだったのだと分かった。決して自身の境遇をタネにしてマウントを取ろうとしているのではない。結人(ゆうと)や、沙奈子(さなこ)や、千早(ちはや)や、そして一真と同じ。

『誰かを傷付けようとすればそれだけ自分の幸せが減ってしまう』

 と考えているだけなのだ。



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