表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレガチャの空きカプセル  作者: 京衛武百十
5/108

攻撃してこないから味方

 けれど、そうやって二人で寄り添い合うように寝ていたら、

「てめーら! なにそんなトコで寝てんだ!! どけっ!!」

 と怒鳴られて思い切り蹴られた。


「……っ!?」

 というところで目が覚めた。思い切り体がビクッと竦んだのが自分でも分かった。

『夢……か……?』

 そう。夢だった。

『またすぐあいつらが戻ってくるかもしれない』

 そんな不安が夢という形で現れたのだろう。

 体格はもうすでに父親よりも上だ。加えて父親は明らかに怠惰な生活で体がなまっていることが、風呂に入る時に視線を向けなくても見えてしまうだらしない体つきでだいたい察せられる。

 けれども、力で反抗する気にはなれなかった。それを試してなおも敵わなかったらと思うと怖くてできなかったというのもあるし、逆に自分が父親を圧倒できてしまったりしたらそれこそもうタガが外れて殴り殺してしまうかもしれない。それが怖かった。そんなことになってしまったら、自分は別にいいとしても、琴美の人生まで滅茶苦茶にしてしまう。それが嫌だったのだ。

 別に自分に優しくしてくれるわけでもない妹だが、けれど、両親のように攻撃はしてこない。自分を痛め付けようとはしてこない。それだけでも<味方>と言える存在だった。

『攻撃してこないから味方』

 などと考えられてしまうほどの殺伐とした家庭だった。

「……」

『父親が帰ってきた』というのは事実ではなくただの夢だったことを実感できてホッとした一真だったが、いつそれが正夢になるかもしれないと考えると気が気じゃなかった。だからそれ以降は、ほとんど眠れなかった。

 ただ、琴美が穏やかに眠れているのを見ると、それもまたホッとした。決して仲がいいとは言えないかもしれないにしても、自分にとっては唯一のまっとうな家族だったからだ。彼女がいるからまだ正気を保てているのだと感じる。

 そうして、琴美の寝息をずっと聞きながら、半覚醒状態のままで一真は横になっていたのだった。


 そして朝、ようやく寝付けたところでアラームに起こされ、

「……」

 一真は重く感じられる体を起こした。気分は最悪と言ってよかったが、それでも両親がいないという事実には救われる思いだった。部屋を見回してもあの二人は本当にいないのだ。だから自然と顔はほころんでしまう。

 そんな何とも言えない寝覚めの中でも、いつも通り朝の準備を始める。

 すると気配を感じたらしい琴美も起きてきて、

「……」

 黙ったままコンロが一口しかないミニキッチンに立って、ベーコンエッグを作り始める。

 これまでならまだ両親は寝ている状態なので、起こさないように会話はしない習慣が身に沁みついているのである。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ