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陰陽亭〜安倍緋月の陰陽奇譚〜  作者: 祇園 ナトリ
第三章 鴉天狗の里編
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九話 三つ巴の鴉天狗

「いやぁ、お騒がせしました……」


「あはは、流石は疾風様っすね〜! そんじゃ、自分らはこれで!」


「うん、ありがとう!」


 事態の収束後、駆け付けてくれた兵士たちに礼を言いながら見送る疾風。そんな彼を、紅葉は苦笑しながら見つめているのであった。


「ふぅ……一件落着! 気を取り直して話を続けよう、うん!」


 そう言いながら胸を張り、ゆるゆると座り直す。その事態を引き起こしたのは疾風自身なのだが、紅葉はそのことを黙っておいた。


「うーんと……この里の説明って言っても何話せばいいか分かんないんだよなぁ。紅葉ちゃん、なんか聞きたいことある?」


「え? えっと……そうだな、聞きたいことがありすぎて何から聞けば……」


 疾風は気を利かせて問うてきたが、あまりにも聞きたいことが多く、紅葉は逆に答えに(きゅう)してしまった。

 ここは一体何なのか、彼らは一体何者なのか、何故襲撃されたのか――そして、どうして緋月のことを知っている者がいるのか。


「あーだよね〜」


「――こちらですです! お客人様、失礼致しますです!」


 話は平行線、という所で突然(ふすま)が開かれた。驚いて紅葉がそちらを見れば、そこには見知った顔と見知らぬ顔が一つずつ。


「ん〜助かったんよぉ、ありがとうなぁ」


「――!? ハク!?」


 見知った顔の正体はハク。てっきり緋月に着いて行ったと思っていた紅葉は瞠目して彼女を見つめた。


「ん、ハクさんなんよぉ……あ、緋月なら大丈夫やと思うんよ? ちぃと飛ばれて見失ってもうたけど、身の危険は感じひんもん」


 視線に気付いたハクはにこやかに手を振る。そうして、紅葉が案じていた緋月の身の安全についても口にした。


「やや! 疾風様! もしや水仙(すいせん)、お邪魔をしてしまいましたですか!?」


 そうして一人、見知らぬ顔。紅葉と同じくらいか、もしくはもっと下に見える少女が、()()()()()を振りながら慌てふためいていた。


「んーん、大丈夫だよ仙ちゃん! まだ何も話してなかったし!」


 どうやら彼女は疾風の知り合いの様だ。ここは彼の暮らす場所の為、それもそうかと紅葉は一人思い直した。


「それならば良かったですです! それでは水仙、これにて失礼致しまするです!」


 そうして幼い少女はあどけない笑みを見せると、()()()()()()()()姿()()()()()


「え? あれ!?」


「あはは、びっくりした? 仙ちゃん――水仙ちゃんはね〜見習いの忍鴉(しのびからす)なんだけど、見習いでも凄腕なんだ! まだちょっと変化(へんげ)は苦手みたいだけどね」


 少女が姿を消したことを目を白黒させた紅葉に、疾風は笑いながら少女――水仙のことを説明する。どうやらあんなに幼い少女の姿をしていても、侮ってはいけない相手らしい。


「と、それで……お客さんが紅葉ちゃんの言ってた爺さん……な、訳ないよね? 蒼が連れてったのは赤の子だけって言ってたから……ってあれ? ちょっと待って、それじゃ計算合わなくない!? 蒼が一人、ここに本当は二人……残りの二人どこ行っちゃったの!?」


 疾風はハクに目線を移しながら、機関銃の様に喋り出す。その途中でようやく前提からおかしいことに気付き、素っ頓狂な声を上げていた。

 やはり、この里の者には途中からハクとヤタの姿が見えていなかったらしい。


「ウチが残りの二人の内の一人なんよぉ。まぁ、()()、やなくて()()、やけどねぇ」


 ほわほわと笑いながら、ハクはやんわりと自身の正体を明かす。その遠回しな物言いが、疾風に伝わったのかは定かでは無いが。


「ひ、ひとはしら……? えーっと……お客さん、本当は家とか? いやいや、そんな訳無いか……」


 伝わっていなかった様だ。疾風は何とか理解しようと頑張っている様だったが、絶望的に見当違いである。


「んもぅ、ほんまここやと誰にも伝わらへん! ウチはハク、緋月の式神が一柱――つまり、ウチは神様ってことですぅ」


 何やらこの部屋に来る前にも一悶着あったらしい彼女は、ぷくーっと頬を緋月みたいに膨らませると、ふいとそっぽを向いて自身が神であることをはっきり口にした。なんとも可愛らしい仕草である。


「か、神様ぁっ!? え、えぇっ!? 紅葉ちゃん凄い人……あ、人じゃないや、神様と知り合いなんだね!?」


 大袈裟に仰け反り、声を荒らげ、次の瞬間には机に身を乗り出し目を輝かせて紅葉へ尊敬の念を向けた。


「え? あ、そうか……普通神って言われたらそんな反応するのか……」


 紅葉はあまりにも神が身近な存在であった為、傍に居ることが普通だと思っていた。それに加え、現し世で出会った(あずま)のこともあった為、疾風の反応がとても新鮮に感じたのである。


「んふふ、ウチを崇め(たてまつ)るといいんよぉ。ところで……お兄さんは何者(なにもん)? 随分紅葉と仲良うなっとるみたいやけど……」


 いつもの様に口元だけに笑みを貼り付けて、ハクは琥珀(こはく)色の目を細めた。その様子は紅葉が現し世のテレビで――正確には緋月が、だが――見ていた危ない組織のドンとやらにそっくりだ。


「えっ!? はっ! ははぁーっ! 俺、あ、私は青の里次期棟梁(とうりょう)の疾風と申します! この場には里の説明の為に馳せ参じました! どうかご慈悲を!」


 その鋭い眼光に当てられた疾風は仰々しくその場にひれ伏し、自身の立場と名を告げる。恐らくこれも素でやっているのだろう。


「……ん、ふふ……くく、あは! お前さん、すごーくノリが良うてウチびっくりしてもうたわぁ。ふふふ、冗談やんか、普通にしてええんよ? えぇと……ふふ、疾風な? すごーくええ子やわぁ、覚えたんよぉ」


 しばらくの間の後、ハクは堪えきれないといった様子で吹き出していた。口元を抑えて上品に笑う彼女は、茶目っ気たっぷりに「冗談だ」と告げる。その言葉は最後まで楽しそうであった。相当疾風が気に入ったらしい。


「はは……って、いやちょっと待て疾風兄さん!? 今……()()()()とか言わなかったか!?」


 その様子を見ながら疾風の言葉を反芻(はんすう)していた紅葉は、あることに気が付き声を荒らげた。棟梁とは確か、全てを取りまとめる唯一神の様な存在を指す言葉であったはずだ。


「へ? うん、そうだよ! こう見えても俺、次期棟梁なんだよね〜、父様が青の一族の現棟梁でさ! もう一人正式な候補がいたんだけど、そいつが『俺には向かん』とか言っちゃって、結局俺になったんだ〜」


「な……」


 何でもないこと語るかの様に笑う疾風の態度に、紅葉は思わず絶句した。だが不意に、彼が先程口にした「みんなと対等でいたい」という言葉を思い出して、一人納得する。


「ふぅん。もう一人おったってことは、疾風兄弟おるん?」


「うん、いるよ! 蒼――蒼嵐って言うんだけど……あ、兄弟って言っても義兄弟ね、どっちが兄とかも無いし! 俺は父様に拾われて、養子になったんだ。だから、正式な跡継ぎは蒼だったんだけど……その蒼が断ったから俺になったって訳」


 どうやら疾風はこの里の出身では無いらしい。その上、襲撃者の青年――蒼嵐と義兄弟であるときた。紅葉は驚きに僅かに目を見開き、関心に息を漏らした。


「蒼嵐? ……あぁ、あの襲撃してきた子ぉなんね」


 ハクは緋月同様耳が良い。その為、この里に来るまでの間に行われていた緋月と蒼嵐の会話も聞いていた様だ。聞き覚えのある名前にピクリと耳を動かすと、思い当たったように頷いていた。


「はっ! それに関しては本当にごめんね! よりにもよって赤だったからさ……てっきり赤の一族の敵襲かと思ったんだと思う」


「あ、それ! その、赤の一族とか……青の一族って何なんだ?」


 この上なく申し訳なさそうな疾風の言葉を聞いた途端、紅葉の中に(くすぶ)っていた疑問が顔を覗かせた。先程から青の一族や赤の一族という単語を耳にするのだが、それが何のことかさっぱり分からないのだ。


「ん? あぁ、それね! えっと、俺たち鴉天狗には沢山の派閥があって、それぞれが領地を持ってるんだ。ただ、それが原因でずっと前から領地の奪い合いが起こってて……大きな勢力で言うと、赤の一族、黄の一族――そして、俺たち青の一族。この三勢力が主立って争ってる状態なんだ」


 ようやく出された質問に、疾風は人当たりのいい笑顔を浮かべ、すらすらと聞き取りやすい声で説明を並べていく。ただ、その言葉が後半になるにつれて彼の笑顔も悲しい物へと変化していった。


 どうやらこの地では長年争いが起こっている様だ。


「あ……なるほど、だから赤い服を着てた緋月が……」


 その事実に、紅葉は襲撃を受けた理由を理解した。自分たちが足を踏み入れたのは青の一族の領地。そこに赤色の服を着ている緋月が居れば、当然勘違いもされるだろう。


「そう、青の一族……俺たちの領地に入って、勘違いされちゃったって訳! あ、ちなみに俺たち青の一族は全てを守る為だけに戦ってるから、他の力の弱い一族も連合軍として加わってるんだ。さっきの仙ちゃん――忍鴉の一族は紫、俺の母様なんか緑の一族の出身なんだよ!」


 疾風は大きく頷きながら、紅葉の考えを肯定した。そして、ついでと言うように青の一族の信念について語る。


「へぇ守る為、か……何かいいな、それ!」


 それはとても素晴らしい物で、紅葉は思わず口元を(ほころ)ばせて呟いた。


「へへ、でしょ? 赤も黄も、両方とも奪う為に襲ってくるから……いくつも弱い一族が滅ぼされてるんだ。俺は、そんなこと見過ごせない。俺たちの一族に加わったんならもう家族なんだ。だから、蒼も勘違いして襲っちゃったんだよ。ごめんね? 許してもらえる、かな……?」


 賛同を貰った疾風は嬉しそうにはにかむと、すぐさま(かぶり)を振るって真剣な表情になる。「赤も黄も奪う為に戦っている」と言う彼の顔はどこか苦しげに歪められており、まるで自分の痛みの様に感じている様であった。


「そんな、そっちが謝る話じゃないだろ!? 許すも何も、悪いのはこっちだぜ! ごめんなさい……」


 言葉の最後に付け加えられた謝罪の言葉に、紅葉は「とんでもない」と首を横に振った。事情を考えれば、どう見ても悪いのは自分だ。


「紅葉ちゃん……じゃあ、お互い様ってことで!」


 疾風は交わされた謝罪の言葉に、思わず苦笑を漏らしていた。それから「お互いに許し合えばいい」と言いたげに手を差し出した。紅葉も頷いて、その手をしかと握る。


「よーしそれじゃあ! 今からこの里を案内しながら色々説明するよ! ハクさんも行こう!」


 そうして彼は太陽の様な笑顔を見せて立ち上がり、意気揚々と歩き始めた。紅葉とハクは互いに顔を見合せて笑うと、その嬉しそうな背中を追いかけるのであった。

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