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陰陽亭〜安倍緋月の陰陽奇譚〜  作者: 祇園 ナトリ
第二章 現し世編
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十八話 鬼と虎の連撃

焔槌(ほむらつい)爆炎(ばくえん)ッッ!」


 紅葉は荒々しい叫び声と共に、手にした大槌(おおつい)を振り下ろした。相手と同じく火行の攻撃だが、少なくとも打撃での攻撃は効いているだろう。

 それに、この振り下ろしの攻撃の目的は怪鳥に損傷を与えることではない。地面に落とせさえすればいいのだ。


「んふふぅ、おかえりさん」


 そうすれば、下で待ち構えているハクが何とかしてくれるのだ。だから紅葉は、何も考えずにただひたすら足場を作って跳躍し、飛び立とうとする怪鳥を叩き落とすことに専念していた。


金剛乱舞(こんごうらんぶ)ッ!」


 ハクは落ちてきた怪鳥を、両腕に(まと)った神気の爪で迎撃する。ハクの身長の半分程まで伸びた強靭な爪は、難なく怪鳥の巨体を切り裂いて傷を作る。


『――――!』


 怪鳥は苛立った様に、絶叫に近い掠れた鳴き声を上げた。先程から怪鳥の動きが鈍っている。かなり損傷を与えられている様だった。


 しかし、その瞬間どこからともなく白く温かささえ感じる光が飛来し、怪鳥の巨体を包み込む。途端に紅葉とハクの連携攻撃で与えたはずの傷は消え去り、怪鳥は再び力強く鳴き声を上げた。


「クソッ、あれをどうにかしねぇとイタチごっこだな……!」


 上手く足場の上に着地した紅葉は、元から悪い目付きを更に悪くして吐き捨てる。先程からこの繰り返しだ。追い詰めれば相手は回復して、こちらだけが一方的に消費していく。


『そこはもう、緋月ちゃんと水紋(みなも)を信じるしか無いわね』


 紅葉の愚痴じみた言葉に、大槌(おおつい)に憑依したままの火刈(かがり)(いら)えた。


「あぁ、そろそろハクもヤバそうだしな……! 火刈、水紋の方はどうなってるか分かるか!?」


 ビリビリと神気が空気を震わせた。もちろんハクの仕業だ。彼女は相当頭に来ている様で、鬼である紅葉よりも鬼の形相で怪鳥を睨み付けていた。

 しかし、そんな彼女の額にも汗が滲んでいる。いくら神と言えど、無限の体力がある訳では無い。ハクに限界が訪れるのもそろそろ近いはずだ。早い所決着をつけなければ、彼女が先に力尽きてしまうかもしれない。


『――駄目、この場の瘴気(しょうき)が邪魔で水紋に声が届かないわ!』


 火刈と水紋は双子だ。その感覚を共有したり、離れた場所から情報を交換したりすることが可能なのだが、今はこの場の瘴気(しょうき)が邪魔をしてそれも不可能であった。


「クソッ、何か方法は……」


『――――?』


 不意に、怪鳥は宙に滞空したまま動きを止めた。首を傾げて、どこか遠くの方に視線を向けている。


「……? 何だ……?」


 紅葉は困惑して、思わずハクに視線を向けた。てっきり彼女が何かをしたのかと思ったが、そうでは無いらしい。同じく困惑した様なハクの視線とかち合って、紅葉の脳内は更に疑問符で溢れた。


『……触、ルナ……触ルナ……! ()()ニ触ルナァァアッ!』


 瞬間、怪鳥は火が付いた様に喚き散らしながら羽ばたいて、先程まで眺めていた方向へ飛び去って行く。その飛び方は右へ左へと蛇行しており、正常とは言えない飛び方であった。


「――あっち、緋月たちがおる方なんよ!」


 足場の下からハクの声が聞こえてきた。その内容に紅葉もハッとする。

 そうだ、あちらは緋月たちが走り去って行った方向だ。緋月たちが何かを成し遂げたのだろうか、どう見ても怪鳥は衰弱している様に見えた。


「……って、追わねぇと不味いじゃねぇか! 行くぞ、ハク!」


「――! なんねっ!」


 紅葉はパッと足場から飛び降りると、しっかりとした足取りで走り出す。その横顔はいつもと違う大人びた頼りがいのあるもので、ハクは驚いた様な表情になりつつその後を追った。


****


『緋月様、全員解放された様ですわ!』


 と、そこへよしよしと百合子を撫でていた緋月の元に、水紋(みなも)がゆらゆらと揺れながら寄ってきてそう報告した。どうやら百合子を抱き締めている間に確認が終わったらしい。


「ほんと? それじゃあ、みんなをお家に……身体に返してあげなきゃ!」


 緋月はそう言いながら百合子の背中をぽんぽんと叩いて、立ち上がる。そのまま泣きじゃくる彼女を水紋に任せ、(ふところ)から一枚の札を取り出した。


「よし、これで……!」


 それは、この隠り世に入る前に(あずま)から渡されていた札であった。緋月は詳しい説明を聞いていなかったが、とにかく紅葉に「困ったら使え」と言われている。使う瞬間は今しかない。

 緋月は意気揚々と札を掲げ、大きな声で叫んだ。


「いでよーっ! あたしを助ける何か! 急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 そう唱えた途端、いつもの様に札はふわりと浮き上がり、淡く光り出す。何が出るのだろうと緋月はわくわくしながら待っていた。


「……あれ? これって……」


「――どうしたっ!? 安倍……二号の方か!」


 札が作り出したのは、空間の裂け目。見覚えのある裂け目をまじまじと見つめていると、唐突にそれはどこかと繋がり、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「あれぇっ!? カミナリ先輩!?」


「アズマだァッ! ……って違うだろ! 何か問題か!?」


 緋月の素っ頓狂な声に思わず雷は怒鳴り返したが、即座にそんなことをしている場合では無いと首を振り、何事かと緋月に問うた。


「あっ、そうだったっ! 今ね、囚われたみんなの魂を解放したの! えっとそれで、みんなを身体に返してあげたくて……って、あれ? どうやって……?」


 緋月は勢い良く雷に説明をしていたが、途中でふとその方法が思い付かず言葉を失速させた。雷は怪訝そうに視線をさ迷わせている。恐らく魂だけの人々の姿が見えていないのだろう。


「おい、この術はあまり長く持たないぞ! 用があるなら手短に――」


『緋月様、魂の先導なら(わたくし)におまかせを!』


「――! 水紋ちゃん……分かった!」


 焦る雷の声を遮り、水紋が凛とした声で先導者を立候補した。正確には恐らく雷には水紋の声が聞こえていない為、喋り続ける彼の言葉を無視した、が正しいのだが。


「ってことでカミナリ先輩っ! あたしがいいって言うまで開けといて!」


 無視された雷はムッとしていたが、緋月の指示を素直に聞き入れるつもりではあるようだ。彼は「アズマだ」と訂正を入れながら、裂け目に拳を叩き付け、それを更に広げた。


『皆様、どうかこちらへ! (わたくし)が御案内致しますわ!』


 その様子を見ていた水紋は、高らかに声を張り上げて魂たちを誘導する。次々と魂たちが現し世に帰って行く中、百合子はふと立ち止まって緋月に向き直った。


「ねぇ、名前は分からないけどその制服……多分、同じ学校の子よね? 本当にありがとう。次は学校で会いましょう!」


「あ……うんっ!」


 百合子の言葉に嬉しくなって、緋月が元気よく頷けば、百合子はふわりと笑って去って行く。きっと、これで彼女は大丈夫だ。何日かすれば、また秋奈と千里に再び会えるだろう。


「っ、安倍二号! これ以上はもう無理だ!」


「あっカミナリ先輩! もう平気だよっ! ありがとう!」


 緋月の鼓膜を、雷の焦った様な声が叩いた。緋月はハッとして彼に礼を告げた。もうこちら側に、囚われた人々の魂は残っていないはずだ。


「まだ全ては解決していない! 気を緩めるなよ! あと俺はアズ――」


 雷は激励を飛ばしつつ毎度の様に名前の訂正をしようとしたが、それも急に裂け目が歪んだことで阻まれる。どうやら術の限界が来たようで、それは唐突にフッと消え去ってしまったのだ。


「消えちゃった……」


『――づ、き』


 不意に、声がした。

 消えた裂け目を見つめていた緋月は慌てて振り返った。まさか、未だ囚われた魂が残っていたのだろうか。そんなはずは無いだろう、自分ならまだしも、水紋が見逃すはずは無い。


「――っ!」


 振り返って、巨木を目にして、緋月は凍り付いた。先程まではどこにも姿が無かった、鎖で雁字搦(がんじがら)めの少女が木の幹に縛り付けられているのが目に入ったからだ。


『……こ、に……ぃる……の、……でしょ。ひ、づき』


 緋月は息を飲んだ。少女は何故か緋月を名を知っているのだ。彼女の姿はぼやけて良く見えないが、少なくとも緋月の記憶に該当する姿は無い。


『ぉねが……たすけ、て……くださ……ぃ』


 少女は俯いたまま懇願をした。

 誰だろうか、緋月には全く分からない。

 なのに懐かしい気持ちで溢れて仕方がない。

 この声を聞いたことがある。

 その姿を見たことがある。


 一体、一体、一体――


「あなた、は――?」

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