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幕間「ファリニシュを追って」



 イグルが去ってから四ヶ月。

 その後の森の様子は変わらない。

 ただ、長らく山を支配していた王の不在に生き物たちが確かな違和感を抱いてはいた。

 この一帯の生態系において、食物連鎖の頂点に君臨した聖なる獣がいなくなれば、再び空位を争うようになる。

 春となって活気付いた森は、例年以上に命が漲っていた。


 そこへ、一人の老人が杖だけで踏み入る。

 誰もいない小屋を見て嘆息した。


「森を出たって話はマジみたいじゃのぅ」


 老人は落胆を隠さず独りその場で呟く。


 老人の名は、ベルソート・クロノスタシア。

 世に唯一『大魔法使い』と称される彼は、世界各国が国際的に同盟を組み、平和の為に結託することを誓った組織――レギューム統括部の長である。

 実質的に世界的な権力を有する者であり、あらゆる国へ視察に出ていた。

 管理は国だけではない。

 この世界に魔獣が生まれたのは四千年前――それよりも前に存在し、この世に跳梁跋扈していた『幻獣』という神秘の生命体についても面倒を見ている。


「ここにおったモノがおらん」


 幻獣は人目を避けるように、北海の『願流島』という孤島へと皆が逃れた。

 今では童話や地域の口伝でしか存在は伝わっていない。

 レギュームは密かに幻獣の管理もしているが、願流島にいない個体についてもまた把握している。

 この森も、その内の一体がいた。


 幻獣『ファリニシュ』。


 最古の幻獣の一種とされる狼。

 それは太古の記録で『生きる魔法』と呼ばれた。

 水を甘露な美酒に変え、歩くだけで死んだ森を蘇らせ、その吐息で命を塵にする。

 最も貴い神秘の獣。

 幻獣は発生した年数と個体数の減少による希少性から、『幻獣』、『王獣』、『皇獣』へと分類される。

 特に『皇獣』は、今残る幻獣たちの中でも滅多にいない。

 ファリニシュは、その貴重な種族の筆頭だ。


 近年では最後の末裔が願流島を出て大陸に渡り、この森を縄張りにしていたことも知っていた。

 そして――繁殖期に偶然居合わせた人間と子を成し、人とファリニシュの混血が生じたことも。


 この生じた『混血の子』は、雑種強勢によって親のファリニシュよりも強力な個体だった。

 その力と希少性から考えると、幻獣内でも三種しかいない、皇獣よりも遥かに貴重な『聖獣』に分類される。


「ううむ、あまり人の世に放置するのはのぅ」


 老人は悩んだ。

 幻獣の在り方、影響力は神にも等しい。

 その力を目にした者が崇拝し、徒党を組んで一大宗教組織になった例も少なくない。

 最下位の幻獣でその結果なら、幻の『聖獣』の場合は規模の展開も計り知れない。

 なお、この森にいるファリニシュは世間知らず。

 人からの影響で悪への道へと走ったら誰の手にも付けられない。


 実際に、『最後の純血』が願流島を出た際にベルソートは捕獲に赴いた。

 現代最強の魔法使い。

 対するは、原初の幻獣の一。

 その体毛は魔法の類をすべて跳ね返し、ベルソートは剣も嗜んでいたのでそれで心臓を貫いたが死なず、真正面からすべてを食い破ってくる。

 結果、ベルソートは捕獲を諦めた。

 ファリニシュが俗世に関わることを嫌っていたのが幸いし、特に人々に影響はなかったが、仮に積極的に人界に干渉するなら全力で阻止せざるを得ない。

 それでも、無理難題も同断。

 敵うのは同種か、それとも自身と同等以上の位階の『皇獣』のみである。

 それが『聖獣』となれば――。



「早々に捕獲隊を出動するかのぅ」


 それでも、ベルソ―トは諦めない。

 生きる貴重文化遺産を、見捨てるわけにはいかないのだ。

 最近は鎖国状態にある国家から違法出国した『未来を視る少女』についても、別件で追っている。

 忙しくはあるが、どれも取りこぼせる案件ではない。


「待っておれぃ、ファリニシュ君」


 戦意を滾らせて、ベルソートは獰猛な笑みを浮かべるのだった。





ここまでお付き合い頂き、誠に有り難うございます。


一区切りついたので、気分が乗ればまた再開します(次の構想はあるけど、ひとまず)!

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