人でなし
幼い頃、俺は山へ連れられた。
それ以前の記憶は無く、父だけがいる。
ヒトという自分と似た物を見て、だからこそそれとは全く異なる父の姿に驚かされた。
でも、感情は父にとって『無駄』らしい。
『出来損ないだから、感情を持つ』
父はとても厳しかった。
今の俺があるのは、父の教えが大半を占める。
山で生きるための知恵を俺に授けてくれるのは、ヒトが言う単純に我が子を想う、だとか父としての義務、とかではない。
そういう『本能』だと告げられた。
『おまえがヒトとして生きるか、獣として生きるかはこの際どうでもいい』
父は冷淡に告げる。
いや、そも子を愛するココロという物が無いのだから、冷たいだとか優しいだとかそんなのは間違っているのだ。
彼は単純に。
『どちらになろうと、わたしの獲物だ。ヒトになれば食らうし、獣になれば縄張りに長は二頭も要らない』
我々は一頭で完成体。
孤高で、唯一の存在なのだ――と尊大に語っていた父は、だがたしかにそんな言葉が似合うほど神々しかった。
どちらになろうと父が敵。
感情ではなく『本能』に従って答えを出せ、と言われた。
生きるか、死ぬか。
生きるためには、どちらにしろ父と争わなくてはならない。
本能に従って、生きるか死ぬかを決める。
そのとき、俺が下した決断は――………………。