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魔女と魔法相続士  作者: たうゆの
碧い瞳の少女
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序 魔法が使える島

※この作品は以前公開した「サルでも分かる!! 魔法相続入門〜碧い瞳の少女〜」をリメイクし、続編を加えたものとなります。

「夜のニュースをお伝えします。本日、午後五時すぎ、第三の島(サードアイランド)の区画外限界集落を襲った隕石についての続報です」


 まだあどけなさの残る年若い女子アナが、神妙な顔で活舌良くニュース原稿を読み上げる。

 津雲直人つくもなおととその相棒のメルティオラは暇を持て余して、ただ、ボーッと画面を眺めていた。


「はえ〜、隕石まで降ってきたんだネ」


 他人事のように言うメルティオラに、直人は同じく他人事のように適当に相槌を打つ。


 二人が暮らす、第三魔法特別区――通称、第三の島(サードアイランド)では、多い時には一か月に一度のペースで嵐や落雷、豪雪などの天災が襲う。天災には慣れっこの島民も、空から隕石が落ちたとなると話は別のようで、多くの人がこのニュースにくぎ付けとなっていた。

 直人も例にもれず関心を持ってはいるのだが、どこか別の世界の出来事のように感じていた。


 天災は忘れたころにやってくる。今回もまさにそんなタイミングだった。


「墜落現場は民家で、現在被害者の有無を確認しているとのことです。普段は静かな寒村といった雰囲気の集落には、一部衝撃が走っています。現場の状況をお伝えいたします」


 女子アナの声で画面が切り替わる。切り替わった画面では、老婆がインタビューに答えていた。


「そりゃあ、もうたまげましたわ。ものすごい音がしたかと思ったら、あの家の屋根に穴が開いて。しばらく見とったらそこから煙が、ふわぁって出てくるもんでなぁ」


 老婆の指の先を追ってカメラが動くと、そこには大きな民家があった。老婆の言うとおり、屋根には穴が開いているが、煙は見えない。民家の周りにはわずかに白く雪が積もっていた。


「あ~、あの家ですかい? あの家はもうずいぶん前から人が住んでおらんで、空き家ですわ。不幸中の幸いということですかいねぇ」


 唐突に画面が切り替わり、神妙な女子アナの顔に戻る。女子アナは、個人的なコメントを残すことはせず、そのまま進行を続けた。そのように訓練されているのだろう。


「それでは、続きまして魔法庁長官の会見の様子をご覧ください」


 女子アナの合図で画面が再び切り替わる。今度は初老の男が映った。


「現時点で分かっていることをお伝えします」


 長官と紹介された初老の男は多少憔悴した様子ではあるが、まなざしは鋭く、その姿勢は地面に根を生やしたがごとくぶれることがない。長官という立場まで上り詰めるだけのことはある、とその立ち姿を見て直人は思った。


「今回の隕石は、魔法の存在とは無関係です。これまで島を襲った多くの天災と同様、魔法とは無関係であると我々は結論付けております。したがって、魔法所有者の皆さまにおかれましては、今までどおり定められたルールに則り、節度を持って、自由にその魔法をご使用ください」


 長官は、簡潔にそれだけ言うと、軽く頭を下げて速やかにその場から動き出す。

 すぐに引き留めるような記者の質問とカメラのフラッシュが長官を襲った。長官はそのいずれにも反応することなく、無言のまま足速に会見場を後にする。


 画面には長官の発言とほぼ同時に『隕石、魔法とは無関係!!』『長官「今までどおり節度を持って魔法の使用を」』とテロップが赤字で踊った。


「あっははは。無関係!! だってサ。そんなこと断言できるわけないのにネ」


 チョコレートを頬張りながら、メルティオラは画面を指さして笑った。真剣に画面の移り変わりを見守っている直人に対して、メルティオラは明らかに真剣みに欠ける。

 そんな直人も、長官の言葉とテロップによって関心が薄れていく。

 ほかの島民も同じだとは思うが、直人は、隕石そのものには関心がない。被害者の有無にも関心がない。関心があるのは、魔法についてのみ。


 魔法について、何か重大な変更があれば、それは直人の生活に直結する。直人は、長官の言葉でこれまでと変わらない日常が続くことを確認することができて安堵のため息をついた。



 隕石によっても破壊できない強固な日常は、これまでどおり続く。誰が何を望もうとそれは変わらないのだろう、と直人は漠然と思った。

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