とあるなろう作家とタヌキ君
「うう……困った……どうしよう」
「アキラ君、どうしたタヌ?」
「不安で仕方が無いんだよぉ……」
「老後の事タヌか?」
「それもだけど、僕が今一番不安なのは小説の事だよぉ……」
「ああ、アキラ君は小説を書いてるんだったタヌね」
「うん……不安なんだよぉ……」
「アキラ君は、書き溜めてる長編を投稿しても全くポイントが付かない可能性を危惧して不安になっている、そういう事タヌね?」
「それもだけど、僕が一番不安なのは、僕の作品が実写映画化した時に起こりうる最悪の事態に関してだよぉ……」
「ちょっと待つタヌ! アキラ君の作品は書籍化した事はおろか、総合ptが1000pt超えた事すらないタヌよね? そんなアキラ君が『うわーん! タヌキくーん! 僕の作品が実写映画化したら某デビルマンや某ドラゴンボールのようになってしまうかも知れないよー!』なんて泣き言漏らすなんてのは、正に典型的取らぬ狸の皮算用タヌよ。そんな心配は書籍化して爆売れしてからすればいいタヌ」
「そりゃそうだけどさぁ……やっぱりどうしても不安なんだよぉ……だって書いてる時は乗ってるから、『よっしゃああああ! こりゃもう映画化確定だなああああ!』ってくらいのノリで書いちゃうんだよぉ……当然アニメ化も僕の頭の中では確定していて、オープニング主題歌のコード進行もAメロも、最後の集合絵の背景の動きもアウトロも、メインキャラの声優も、全部僕の頭の中で決まっちゃっているんだよ……だから……きっと流れで実写映画化もしちゃうんだ……配役とか聞いて嫌な予感がしても、担当の人の巧みな話術でだまくらかされて、勝手に話が進んで行って……気付いた時にはもう断れない感じになっていて……製作会議で意見出しても聞いて貰えなくて……ああ……! どうしよう! 嫌だよぉ……! アフィブログで晒されて『原作者絶対涙目だろw』って馬鹿にされちゃうよぉ!」
「アキラ君……」
「それにアプリゲーム化もするかも知れないんだよぉ!? ……嫌だぁ……絶対クソゲーになるよぉ……『ガチャの排出率が低すぎる』ってyoutubeのゲームチャンネルで叩かれるよぉ……アニメだって、『今季最悪のクソアニメ』だって散々に叩かれるかも知れないんだよぉ? でも……逆に出来が良過ぎても……『アニメ良かったから原作買ったけどアニメの方がよかったわ』とかエゴサに引っかかって地味に傷つくかも知れないよぉ……パチスロ化して、クソ台だって散々に叩かれるかも知れないんだよぉ?」
「全くアキラ君と来たら……ネガティブなんだかポジティブなんだか。取らぬ狸の皮算用を通り越して、取らぬ狸の皮が破れたと顧客からクレームが来る算用はいい加減止めるタヌ!」
「僕だってもう止めたいよぉ……でも止められないんだよぉ……そもそも担当の人だって……どんな人か不安なんだよぉ……すごく冷たい人だったらどうしよう……『あなたの小説は全然面白くなかったですけど仕事なんで仕方なくやってます』みたいな態度を一挙一動で表明されたらどうしよう……頑張って企画書作ったのに無視されて、気付いたらラインブロックされたり着拒されてたりしたらどうしよう……」
「アキラ君! もっとポジティブに考えるタヌ! 実写映画も面白くなるかも知れないタヌ! るろ剣とかデスノートとか、原作付き実写映画で面白いのもいっぱいあるタヌよね?! アニメ化しても『原作には原作の良さがあるなあ』みたいな評価に落ち着くかも知れないタヌ!」
「なるほどお……それはいいねぇ……」
「担当の人も話が通じる人かも知れないタヌよ? 喫茶店とかで顔合わせして、アキラさんの小説のどこここが良かった、とか言ってくれるタヌ! そして、『一緒にもっと面白くしましょう!』って情熱的な表情で語りかけてくれる筈タヌ!」
「……ちょっと待って……喫茶店で顔合わせするの……?」
「知らないタヌけど……大き目な仕事なら一回は顔合わせするもんじゃないタヌか?」
「やっぱり、経費で飲み食いできるのかな?」
「そりゃあ、まあ……多分領収書落ちるタヌね」
「――領収書だってえええええええええええ!?」
「…………」
「領収書が落ちる……! 落ちるぞおおおおおおおおお! うおおおおおおおお! 何だかテンションが上がって来たぞ! それなら僕は絶対、コーヒーフラペチーノを頼んじゃうぞぉ! サイズはもちろんMサイズだ! 本当はLサイズをチョイスしたい所だけど、僕はそこまで浅ましくないからね! Mサイズで妥協してあげるよ! ただ……その代わり……キャラメルシュガーとシナモンもオプションで付けちゃうぞぉ!」
「テンションの上がる所がおかしいタヌ……そんなに他人の金で飲み食いしたいタヌか……」
「ノンノン! 他人のお金で飲み食いしたいという単純な話じゃ全くないんだよ! 個人に奢って貰ったらどうしても後ろめたさがあるけど、どっかの会社の金だったら……そんな後ろめたさは皆無! 合法無銭飲食の愉悦だけが残るという訳さ! ねぇタヌキ君! 領収書で飲み食いするという行為はね、人生における喜びの極致の一つと言っても過言ではないんだよ! ほんとこんな人生の愉悦はそうそうないよ?! よっしゃあああ! 高くておいしいコーヒーフラペチーノを注文しちゃうぞお! こんな千載一遇のチャンスを逃す程僕は鈍感主人公じゃないからね! あっ……もちろんLサイズを頼んだりはしないからそこは誤解しないでくれよ! そこの線引きはキッチリ出来るタイプなんだよ、僕は!」
「なんだか浅ましいタヌね……Lサイズを頼まなければ何でも許されると思ってる辺りが特に……」
「何とでも言いたまえよ! ……あー楽しみだなぁ! ココアパウダーもオプションで付けちゃおうかなぁ……! いや、もう全乗せで言っちゃう? そうだ! クリーム追加もしちゃおっかなぁ……! 1000円以内には収まるよね!? Lサイズじゃなければ別に引かれたりしないよね?!」
「知らないタヌ……」
「よっしゃああああ! 追加だああああああぁ! クリーム追加頂きましたああああああああ!」
「アキラ君……取らぬ狸の皮算用してないで、とっとと書き上げるタヌ」
「ああ、短編ならもう書き上げたよ。そろそろ投稿するかなあ」
「あまりポイント付かなくても落ち込むんじゃないタヌよ……」
「……うん」
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「アキラ君!」
「コーヒー……フラペチーノで……オプションは……」
「アキラ君! 朝タヌよ!」
「うん? んあぁ……おはようタヌキ君……さて、早速昨日の短編小説のポイントを確認するか……どれどれ……」
「あ……」
「22ポイントかぁ。まあこんなもんかな」
「思ったより落ち込まないタヌね」
「一日経ったら大分冷静になっちゃうからねぇ。僕の短編集がハリウッド映画化して歴代興行収入を更新しちゃったり、領収書でMサイズのコーヒーフラペチーノをアルティメットオプションで頼んでやったり、といった野望は潰えたけど、まあ仕方ないでしょ。次はもっと頑張るよ」
「まあ、精々頑張るタヌ」
「しかしなあ……」
「どうしたタヌ?」
「……はあああああ」
「…………」
「……最悪だ」
「……やっぱり落ち込んでるタヌか?」
「いや、小説の事じゃないんだよ……最近市県民税の通知が来てさあ……六千円くらいするんだ……払いたくないなあ……」
「六千円くらいとっとと払うタヌ!」
「うーん……」
「そんなにジロジロ見て、僕の顔に何か付いてるタヌか?」
「……そういやさあ、この前タヌキの皮がいくらするか何となく調べてみたんだけど、六千円くらいなんだってさ」
「取らせないタヌよ!?」