#2
あれから二か月。
すっかり俺と藤は仲良しになっていた。
「よう藤、また今日も来たのか」
「どうも、しかしいつまでひきこもっているんですかねえ」
「この暑いのに外に出るやつの気が知れねえ」
いまは7月30日。
夏休みはじめである。
どうも俺は夏が嫌いである。
太陽がまぶしいわ、クーラーしないと溶けるわ、おまけに虫がうるさいったらありゃしない。
正直な話、虫除けにタンスにいれるアレを部屋中にしきたい。
まあ、この前やろうとしたけど臭いし金はかかるしで諦めた。
「夏ってのはどうも難儀なもんだな」
前にそんなことをつぶやいた。すると、
「そうですか?学校にいかなくて良いんですから、随分気楽ですよ」
「....さらっと言いやがって」
「あ。」
こいつはこういう抜けてるところがあるから信用ならん。
さて、こいつについてわかったことを書いておこう。
といってもあんまりまどろっこしいことは嫌いなのでざっくりいかせてもらおう。
花野藤。16歳、高校1年生。
留年中の俺と実質上同級生である。
頭はいいらしい。もともとあの高校がそれなりの進学校であるため当然と言えば当然だろう。
しかしそれに対し運動はからっきし。
持久走で下から2桁いったことはないらしい。
好きな食べ物はどら焼きときんつばと坊ちゃん団子etc.
甘党である。
完全なる、甘党である。
今のところ、それぐらいか。
さて、話をもとに戻そう。
「でも、ホントに運動しないといけませんって」
「お前なあ、俺がどんだけ外でるの嫌かわかるか?」
「人目が気になるんだったら、夜にいけばいいじゃないですか」
!!!
その手があった。
と、言うわけで。
今、夜の街を散歩している。
俺は引きこもりにしては運動は嫌いではない。
夜風が当たって、まひとつ気分が良い。
しかしそんな時間も、
「よう」
簡単に、打ち砕かれたのであった。
全身に緊張が走る。
俺の同級生に、よう、何て呼ぶ奴はいない。
藤だろうか。いや藤であってほしかった。
「なかなか学校に顔を出さないから心配したよ、星くん」
「せ、先生.....」
なんでこんなところにいるのだろう。
まさか、ここへくるのを読んでいたのだろうか。
いや、そんなまさか....
しかしまあ、こういう時は次なんかしらしてくるはずである。
目を瞑りながら、震えて待っていると。
「早く帰れよ」
予想外だった。
そんな言葉がくるとは、思ってもみなかった。
再び、歩を進める。
すると。
なにか、異変に気づいた。
「....おい、これどういうこった」
信じてもらえるだろうか。
ライトに包まれた繁華街は、もうきれいさっぱりなくなっていた。
つまり
光が一切なくなったのである|。
でも、 なぜか前は見えるのだ。
どういうことだろうか。
「ヘっ、ヨうやクきづいタカイ」
「!?」
瞬間、先生の姿が異様な形相になった。
四つん這いになったかと思うと、体中が黒くなった。
すると、四肢が短くなってありえないところで曲がり始め、押し出されるかのように触手のようなものが飛び出る。
再び開いた眼は赤々と染まり、まるで地獄の罪人かのように、それは叫んだ。
「オマエヲブッコロシテヤルアアアア!!!」
シャカシャカ動き回るそれは、
もはや化け物以外の何物でもなかった。