#1
俺は朝が嫌いだ。
まぶしい。
ただそれだけの理由で。
『新しい一日が始まる』とか、陳腐なポップスの歌詞にあったけど、別に始まって欲しくはない。
むしろ終わってしまえば良いと思う。
もうなにもかもが。
ここで一発、本当なら自己紹介を済ませておかなきゃならないんだろう。
しかしそんな気にもなれない。
しばらく、名無しの男ってことで了承してもらえると助かる。
さて、俺は引きこもりである。
まあ、そんなに威張って言うことでもないんだけど。
朝起きたらPCとにらめっこしてる奴と思っていただいてよろしい。
高校2年生、17歳にあいなる。
なぜ俺が引きこもりになったかって?
...合わなかった。
社会に、合わなかったんだ。
....まあ、こんなことなんか話したって時間の無駄だろう。
俺はいつものように、黒いジャージを着て、何となく、時計の方に目をやった。
「....もう12時か」
まあ、俺は元来夜型の人間である。
寝過ごすなんてもう慣れすぎて、俺はいつも通りにパソコンを開こうとした。
すると。
ピンポーン
突然、家のベルが鳴った。
あれ、おかしいな。
正午近くに来る奴なんて、ほとんどいなかったはずなのに、だれだ?
「はい、誰でしょう?」
「あの、影旋星さんいらっしゃいますか?」
「はい、影旋星は俺ですが。」
さて、俺の名前は言われた通り影旋星という名前である。
言ったとおりの引きこもり。
...ただこれ以外いうことが見当たらない。
さっさと本題に入ろう。
「はじめまして。」
「あなたは?」
「今日からこの辺りに引っ越してきました、花野藤って言います」
俺と同い年くらいだろうか。たいして身長も高くない、ひょろ長にしては微妙な奴が来た。
ここにいるってことは...
...ああ、こいつもまた、いじめられる対象になるんだろうな。
俺は、そう思うのであった。
俺のすんでいる場所、四繰。いわゆる部落差別の一環であり、ここにいると全員いじめられるみたいな風習がある。
今やここにいる人間たちはもう少ない。
ましてや、こんなところに来るなんて、よっぽどの物好きでもここには来ない。
いったいどういうことなんだろう。
なんでこんなところに来たんだろうか?
「ならなぜ、ここにきた?」
「なんか上から目線ですね」
「いいから、なんでだ?」
「逆に、あなたこそなんでいるんです?」
「お前も聞くじゃねえか。まあ、昔からの因縁ってやつだな」
「へえ...」
「お前は?」
「...まあ、似たようなもんで。たまたまここが安かったから来たみたいなとこありますから」
「それ部落差別のせいだと思うぞ」
まあ、別に俺に止める義理はないから、別にどうということないんだけども。
「それに...」
「ん?」
「あ、いえ、何も。」
「まあ、上がんな」
「え?あ、はい」
「すまん、さっきは」
「なんか、すごい...荒れてるんですか?」
「いや、どうも人としゃべるとあんな感じになってしまって...」
「あ、なるほどそれでいじめの対象に?」
茶を吹き出しそうになった。
「...お前、何でそれ知ってる?」
「先生から聞きました」
「先生から...?」
そんなアホな。
先生が?
どの先生だ?
「先生からどうやって?」
「ちゃんとたたきつけられましたよ、ほれ、このとおり」
みると、腹にはあざができていた。
やっぱり。
俺と同じ担任だった。
俺の担任、東僚一。
世の中でいうパワハラ教師。
昔モンスターペアレンツを素手で撃退したらしいが、あのやせこけた姿でやくざみたいなことしているとは考えにくい。
しかしまあ、こいつはただただ暴力をふるう。
さぼっただけで蹴飛ばされるのは日常茶飯事。
木刀で文字どおり面食らったこともあった。
昔からいる古参らしく、先生方も手は出せないという。
しかし、一つ言えるのは、こいつは問題児であることである。
「相当痛かったんじゃなかったか」
「いいえ、こういうのは慣れてますから」
「...???」
一体どういうことだろうか。
「まあ、これからよろしくお願いします。」
「おう。さみしかったらいつでも来いよ」
「はい、お言葉に甘えて」
まさか、あんなことになるとは、
ぼくはこのとき、思いもしなかった。