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第80話 5番勝負inギルド



 焼け付くような殺気を浴びながら中を見渡す。


 右側の通路の奥には窓口が並んでいた。掲示板には依頼書が張り出されている。ここで冒険者登録やステータスの確認、依頼の受注、報酬の受け取りなどを行えるらしい。


「えっ、えっ、なにあの子たち、すっごい可愛い! どこのお姫さま!?」

「見ろよ、女神みたいな美人ばかり連れてるぜ。あの男、一体何者だ?」


 突如として舞い降りた花のような少女たちに、窓口で手続きをしていた冒険者やギルド職員が見惚れている。


 が、今回用があるのはこちらではない。


 左手の酒場に視線を移す。

 年季の入ったテーブルには、昼間だというのに酒杯が並び、食べ散らかされた皿が積み上げられている。ずらりと居並ぶのは、見るからに一筋縄ではいかなそうな荒くれ者ばかり。彼らが『大鹿の首』の構成員(メンバー)だろう。


 情報交換や交流、コネ作りは酒場で行われる。つまり、『大鹿の首』のギルドマスターに会って話を聞くには、彼らと交渉しなくてはならない。


「みんな、ここで待っててくれ」

「いいえ、共に参ります。私たちは、ロクさまの神姫ですもの」


 リゼが顔を強ばらせつつも果敢に前を見据え、マノンたちも頷く。


 俺は酒場(フロア)に足を踏み入れた。


 立ちこめる煙草と脂のにおい、強い酒気で胸が焼ける。隅に積まれた壊れた椅子や剥がれかけた床板が、荒事が日常茶飯事であることを物語っていた。

 奥にカウンターと厨房があり、天井は吹き抜けになっていて、二階へと続く階段があった。壁際には様々な動物や魔物の剥製ハンティングトロフィーが並んでいる。ギルド名の元になったのであろう見事な鹿の首を見上げて、ティティが「わ、すごい!」と押し殺した歓声を上げた。


 大柄な男が椅子を鳴らして立ち上がる。


「おう、兄ちゃん。ここは所帯持ちの優男が来るところじゃねぇぜ。ダンスパーティーの会場をお探しならよそへ行きな」

「冒険者が失踪している件について、話を聞きたい。ギルドマスターはいるか?」

「ダイスは二階だ。だが、タダで通すわけにはいかねぇなぁ」


 たちまち屈強な男たちに囲まれた。

 リゼたちを背後に庇う俺に、値踏みするような視線が降り注ぐ。


「ダイスに会いたいなら、俺たちと勝負しな」

「勝負?」

「そうさ。五つの勝負に勝ったなら、話を通してやるよ。ただし、上品さとは無縁な無法勝負で良ければな?」

「もし負けたら?」

「言わなくても分かるだろ。身体で払ってもらうぜェ」


 構成員(ギルドメンバー)たちが野卑な笑みを浮かべ、アルコールのにおいが強く香った。


 アザレア部隊を想えば、情報は一刻も早く掴みたい。だが、こちらにはシャロットもいる、出直した方が良さそうだ。


 そう判断を下そうとした時、リゼが勇ましく胸を張った。


「いいれひょう! 受けて立ちまひゅ!」

「……リゼ、酔ってるか?」

「酔ってまひぇん」

「うん。ええと、誰かリゼにお酒飲ませたか?」


 振り返るが、マノンもティティも困ったように首を振る。


 どうやらフロアに立ちこめる酒気で酔っ払ったらしい。真紅の瞳は潤み、白い頬がぽわわと上気している。……そういえば出会った頃、俺の魔力に酔った時もこんな風になってたな。

 幸いシャロットはリゼほど酒に弱い体質ではないらしく、ほろ酔いの姉を心配そうに見上げている。


「はっはぁ! 威勢がいいな、嬢ちゃん!」

「そう来なくちゃな!」


 ギルドメンバーは机を叩いて大盛り上がりだ。


「いや、悪いが、この勝負……――」


 辞退しようとした俺の腕を、マノンが引いた。


 振り返ると、マノンとティティが俺を見つめていた。その瞳には、強い決意と覚悟が浮かんでいて――


「……そうだな」


 アザレア部隊が待ってる。


 先を急ぐ旅だ、負けたら潔く身体で払おう(俺が)。それに、ある程度の道筋は視えている(・・・・・)


「分かった、この勝負受けよう。ただし、スキルの使用は禁止にしてくれないか?」


 あちらのフィールドである以上、有利なスキルを使われることは避けたい。


 男は心得たように「いいぜ?」と口の端をつり上げた。


「ただし、最後の勝負以外はな(・・・・・・・・・)


 大トリの勝負、どうやら俺が出ることになりそうだ。


 娯楽に飢えていたのだろう、酒場は俄に活気づいた。俺たちが無様に負ける姿を肴に呑もうという腹か、酒を注文する声が行き交う。


 髪をトサカのように逆立てた、細身の男が進行する。


「第一戦は目利き対決だ。お題は交互に指定する、この場にあるものなら何でもいい。スキルの使用は禁止、知識と経験のみで勝負してもらうぜ。ウチからの先鋒はこいつだ」


 進み出たのは、いかにも抜け目なさそうな目をした女性だった。


「あたしは『猿腕のサラジーン』。アイテムや財宝を専門に扱う財宝探索者(トレジャーシーカー)をやってるよ、よろしく」


 こちらからは――


「ティティ、頼めるか」


「!」


 ティティの目に緊張の色が浮かぶ。


 彼女は隊商出身だ。加えて最近、身寄りのない子どものために孤児院を作るのだという夢を追いかけて、熱心に商売の勉強しているのを、俺は知っていた。


「ティティなら大丈夫だ。頼りにしてるよ」


 強ばる背中に優しく手を当てて魔力を送ると、ティティの顔に決意が漲った。

 よぉーしっ! と気合いを入れて片目を瞑る。


「ティティにお任せっ!」


「問題は全部で五問! 出題はこちらから! 目利き勝負、始め!」


 勝負開始と共に、サラジーンは鞘に嵌まった刀をテーブルに投げ出した。


「まずは小手調べだ。これが造られた年代を当ててみな。ま、育ちの良いお嬢様には、武器なんて縁がないかもしれないけどね――」


 にやりと唇を歪めるサラジーンをよそに、ティティが「おおー!」と目をきらきらさせた。


「いい仕事してますなー!」

「……へ?」

「これは海賊時代全盛期の舶刀(カットラス)だね! しかも初期の頃の!」


 観客(ギャラリー)がざわめき、サラジーンが身を乗り出す。


「わ、分かるのかい!?」

「もちろん! 鞘に散りばめられた宝石(ドルフィンストーン)と、『海の女神』の紋様が、何よりの証! くぅ~っ、このこだわり抜かれた意匠! 海の荒くれ者が芸術を牽引したなんて、ロマンだよね!」

「そう、そうなのよ! 特に柄の細工が繊細で、どんなに見ても飽きないっていうか!」

「うんうん! 何より観賞用じゃなくて実用っていうのがまたいいよね! こんな状態のいいもの、なかなか手に入らないよ~! 売ったら金貨三〇枚はくだらないと見た!」

「あんた見る目があるねぇ!」


 目利き談義に花を咲かせる二人を見て、俺は笑った。


 ティティが育った隊商では、生活必需品から装飾品、書物や武器まで、あらゆる物資を手広く扱っていたという。


 サラジーンは我に返ったのか、椅子にふんぞり返った。


「フン、正解だよ。次はそっちが指定しな」


 俺が目配せすると、マノンが頷いた。


「それでは、こちらのネックレスを造った職人の名を当てていただいても?」


 洗練された仕草でネックレスを外し、テーブルの上に置く。

 素人目に見てもとんでもない逸品だ。線の細い控えめな造りでありながら、繊細にカットされた宝石が上品で高貴な輝きを放つ――それどころか、魔力さえ宿っている。


 周囲からどよめきが湧いた。


 サラジーンが「こ、これはっ……!」と目を剥く。


「まさか、かの新進気鋭の宝石工、顔のない芸術家『カーバンクル』の新作かいっ!?」

「ふふ、正解です」

「大陸中の王侯貴族が喉から手が出るほど欲しがる代物だよ!? ちょ、ちょっと待って、一度でいいから触らせてくれ!」


 これで勝敗は一対一。


 その後も、互いに一歩も引けを取らない応酬は続いた。


「うーん。この独特の曲線に、滑らかな光沢と肌触り。『タイタンの壺』だね? 昔は高騰したけど、今は値が下がって、銀貨一枚くらいかなぁ?」

「いや待って!? これまさか、『竜の鱗』かい!? 伝説級の超レアアイテムじゃないか、なんでこんなもん持ってんだよ!?」

「あっ、この石は、二千年前に滅亡したと言われる古代国家、カラフィのルーンストーンだね! 小さくて丸みを帯びてるから、後期の第四遺跡から発掘されたものだと思うよ。魔導具としても価値が高くて、これひとつで金貨三枚の値が付くよー」

「こっ、このシルクのように上質な艶、果物を彷彿とさせる爽やかな香りっ……高級菓子店レガリアのチョコレート!? 人気すぎて三年待ちだって聞いたんだけど!? あんたら何者なの!?」


 目利き勝負の噂を聞きつけたのか、人だかりが増えていく。


 四問の間、両者一歩も退かず。


 流れが変わったのは、最終問題。


 サラジーンが厨房に向かって顎をしゃくる。


「あれを出しな」


 ティティの前に恭しく運ばれてきたのは、蒼い釉薬で彩られた大皿だった。


 それまで打てば響くように応えていたティティが、初めて沈黙した。


 皿に描かれた蒼い花をじっと観察して、慎重に口を開く。


「ローデン地方に伝わる伝統的な技巧と、斬新で洗練されたデザイン――旧ディルオール帝国の老舗陶器ブランド、ロザリオの『青い花』シリーズ――」


 サラジーンがにやりと口の端を吊り上げ――


「……の、贋作だね」

「ん、なっ……!?」


 ティティは小首を傾げながら、皿の縁をなぞった。


「造りは精巧だけど、青がちょっとぼやけちゃってる。あと、かいらぎ(・・・・)の目がまばらだね。たぶん、焼きの温度が足りなかったんじゃないかな?」


 まさか見破られると思っていなかったのだろう、顎を落とすサラジーンに、ティティが片目を瞑る。


「それにコレ、けっこう使い込まれてるみたいだけど、ロザリオのお皿は馬車が一式揃えられるくらいの、超高級品。腕自慢が揃う酒場で使うには、ちょっとリスキーすぎるでしょ?」


 あまりに軽やかな勝利に、俺は思わず笑った。

 ティティは大所帯の隊商で育ったためか、とても目端が利く。目の前の物事に囚われず、大局を俯瞰し、総合的に判断できる力を持っている。戦場でも後方支援として随分助けられたが、やはりティティに任せて正解だった。


「ロクちゃん」


 ティティが俺を見上げる。


 こちらからの、最後のお題。

 白熱した目利き勝負の行方を決める出題に、誰もが興奮を浮かべながら注目している。


「じゃあ――」


 俺はフロアの一角を示した。


「あの、鹿の剥製は?」






「「「「…………は?」」」






 観客たちの間の抜けた声が、きれいに重なった。









いつも温かい応援ありがとうございます。


もしよろしければ、評価等していただけますと今後の励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。


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