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第35話 決戦


 ティティが手を振り下ろす。


「弓姫部隊、用意! 撃ーっ!」


 無数の矢が、カリオドスに降り注ぐ。


 だが。


 漆黒の魔族は一切の傷を受けることもなく、そこに立っていた。


「な、なんで……」

「みなさま、おさがりください!」


 マノンが進み出る。


 その全身が眩い魔力を帯び、


「『風魔砲(ウインドキャノン)』!」


 しかし。


「効いてない……!」


 宮廷魔術士が悲痛な声を上げた。


 人々の間に絶望が広がる。


 俺はアンベルジュを引き抜き、前に出た。


「パスを閉じる。みんな退がって」

「ロクさま……!」


 不安げなリゼに、「大丈夫」と笑いかける。


「この先には進ませない。何があっても守る」


 柄を強く握り、魔力を注ぎ込む。


 白銀の炎が刀身を包んだ。


「あれは魔導剣、いや、魔剣か!?」

「あんなもの、すぐに魔力が枯渇して死ぬぞ!」


 魔術士たちのどよめきの中で、王女ディアナが驚愕の声を上げる。


「あれは、あの剣は……!」


 ほう、とざらついた声がした。


『おもしろい力だな』

「っ!?」


 まるで脳を引っ掻くような、不愉快な響き。


 カリオドスの声だ。


『なるほど、お前が本物(・・)か。わざわざ乗り込んだ甲斐があるというものだ』


 カリオドスが一歩進み出る。


 その手がゆっくりと持ち上がった。


 身構えると同時、漆黒の球が放たれる。


「ふッ!」


 俺は下から掬い上げるようにアンベルジュを一閃した。


 魔力の塊を、白銀の刃が両断する。


『ほう。多少は骨があるようだ』


 真っ赤な切れ目()が笑みの形に歪むと同時、息が詰まるほどに濃い瘴気が吹き付けた。


 びりびりと肌が震える。


 冷たい予感が走って、俺は叫んだ。


「リゼ!」

「! 『魔壁』展開!」


 盾花部隊が瞬時に応え、姫たちの前に、魔力の壁が張り巡らされる。


 刹那、見えない無数の刃が押し寄せた。


 少女たちの悲鳴が上がる。


 鋭い音と共に飛来する不可視の攻撃を、俺は勘を頼りに剣で弾き飛ばし――攻撃が鎮まった後。


 石床に、無数の傷が刻まれていた。


「これは、一体……」


 背後で兵士が震える声を零す。


 カリオドスは何もしなかった(・・・・・・・)


 ただそこに立っていただけだ。


 防がれると思っていなかったのか、カリオドスの殺気が膨れあがる。


『こざかしい』

「!」


 次が来る。


 俺は剣を構えてカリオドスを睨み付け――


「……あれ?」


 ――視える(・・・)


 カリオドスの背から、さっきまでは存在しなかったはずの、無数の鞭が伸びていた。


 首を狙って放たれた鞭を、一歩横に移るだけで避ける。


『な……!』


 やはり視える。


 さっきまで不可視だったはずの攻撃が、はっきりと。


 そうか、と呟く。


 魔族は魔力そのものを具現化したような存在。


 ならば、俺にはその(・・・・・)全てが視える(・・・・・・)


 連続して繰り出された鞭を、あっさりと避ける。


 わずかに首を傾けるだけで。

 ほんの少し身体を開くだけで。

 攻撃が掠りもしない。

 まるで向こうから避けているかのようだ。


『どういうことだ、なぜ当たらない! なぜ避けられるのだ!』


 それはそうだろう、全て筒抜けなのだから。


 こうなってしまうと、他の魔物と同じだ。


 ――いや、魔物よりも容易い(・・・・・・・・・)


『なぜ、なぜ、こんな! オレは暴虐のカリオドスだぞ!』


 魔力の鞭が空しく空を斬る。


 この見えない鞭で、何人もの人間を切り刻み、なぶり殺してきたのだろう。


 俺は両脚に魔力を流し込んで加速すると、カリオドスに斬り掛かった。


『ぐっ!?』


 脳天から両断するはずだった一閃を、カリオドスがかろうじて爪で防ぐ。


 白銀に燃え上がる刀身と漆黒の爪が、がきりと噛み合い――カリオドスの顔が引き歪んだ。


『貴様ッ、なんだこの魔力量は!? 魔王に匹敵するほどの、いや、それ以上の……!』


 答えず、左腕に魔力を流し込んで一気にブーストをかける。


 カリオドスの顔を掴むと、渾身の力で地面に叩き付けた。


『がっ……!』


 石畳が激しく砕ける。


 地面に縫い止められながらも、魔族はなお貪欲にもがいた。


『喰わせろ! お前を喰って、オレは絶大な魔力を手に入れる!』


 魔族の顔面を掴む指に力を込める。


「そんなに欲しいなら、思う存分くれてやるよ!」


 抵抗する暇も与えず、ありったけの魔力を流し込んだ。


『―――――――――――!!』


 巨大な体躯が声もなく仰け反る。


 手加減なしの大出力。


 膨大な魔力が、あっという間に容量を超えて暴走を始める。

 針金に大電流を流すようなものだ。

 黒い体内のあちこちで白銀の火花が弾け、魔力回路を引き裂いていく。


『が、ぁぁあぁあっ……!』


 焼け爛れた手が腕を掴んだ。


 爪が食い込み、血が飛沫く。


 俺は痛みに構わず、さらに身を乗り出し――


「や、め……たの、む……!」


 ひしゃげた声に目を見開く。


 ――片桐の声だ。


「たのむ……もう、やめ、て、くれ……っ!」

「……――」


 赤く染まった両の目から、涙が溢れる。


 片桐の魔力が、苦しみに悶えている。


 俺は歯を食い縛った。


 ――たぶんこの一撃は、片桐のプライドを粉々に打ち砕く。


 それでも。


 ようやくたどり着いた、帰るべき場所。

 大切な絆。

 譲れない信念。


 俺には、守らなければいけないものがある。







「――ごめん(・・・)






 あらん限りの大出力で魔力を注ぎ込む。


 黒い体躯が弓なりに悶えた。


『あ、ぁ、ぁ、゛あぁあァ゛アああ!』


 魔力回路が悲鳴を上げる。

 片桐の中で、白い雷嵐がばちばちと荒れ狂う。


 白銀の魔力が漆黒の魔力を喰らい、蹂躙し、駆逐していく。


(このまま一気に勝負を付ける――!)


 魔力の残滓に止めを刺すべく、俺は身を乗り出し――


「なん、で……」


 また、声が聞こえた。


 それはか細く、まるで寄る辺のない子どものようで。


「なんで、誰も、いなくなるんだ……俺は、ただ……居場所が、欲しかった、だけなのに……――」

「!」


 息が止まった。


 注ぎ込んでいた魔力が、ほんの一瞬緩み――


 魔族が、ニィッと牙を剥き出す。


 視界の隅、何かが動いた。


 カリオドスの尾だ。


 気付くのが数瞬遅れた。


 こめかみに、黒い鉤爪が迫る。


 間に合うか――右腕を犠牲にする覚悟で防ごうとした瞬間、


「ロクさま!」


 炎の球が飛来して、鉤爪を弾く。


 リゼが赤く燃える瞳で、カリオドスを睨み付けていた。


「リゼ!」

『小娘ェ!』


 怒りに染まったカリオドスの双眸が、リゼを捕らえ――


『! その、刻印は……』


 赤い両眼が見開かれる。


 その眼球に映るのは、リゼの手足に絡みつく、漆黒のアザ――


『はは、はははは! 見つけた……見つけたぞ、開闢の花嫁(・・・・・)……!』

「っ……!?」

『呪われし刻印を持つ花嫁よ! 来るがいい、我が元へ……!』


 カリオドスが耳に触る声で笑いながら、怯えるリゼに黒く焼けただれた腕を差し伸べる。


「っ、させるか!」


 俺は残る力を振り絞り、全身全霊で魔力を注ぎ込んだ。


『がっ、あ、あぁ、ぁぁああああ!』


 割れるような咆哮が空を震わせる。


 赤錆色の瞳が狂おしく燃え上がった。


『今に! 今に我らの同胞が迎えに来る! その時を楽しみに待つがいい!』


 魔族の全身から、黒い霞が噴き出す。


 やがてそれは、断末魔の悲鳴と共に消え失せた。


「は……」


 黒い霞が溶け消えた後。気を失ったリュウキが残されていた。


「……――」


 全身から力が抜ける。


 縮こまっていた兵士たちが、おそるおそる立ち上がる。


「倒し、た……」

「カリオドスを、倒したぞ……」


 わっと喝采が上がる。


「後宮部隊、万歳! 万歳ーっ!」


 万雷の拍手が空を揺るがす。


 姫たちも抱き合って喜んでいた。


「リゼ……」


 俺はかすむ目で、リゼの姿を探した。


 カリオドスに引き裂かれた左腕から血が滴る。


 ふらつきそうになった身体を、剣を突き立てて支え――


 刹那、アンベルジュが眩い光を帯びた。


 白い輝きに包まれて、形が変化していく。


 力強く流麗なフォルムに、白銀に輝く刀身――


 神官が息を呑む。


「あれは……一〇〇年前に紛失したはずの神器(・・)――祝福の剣(アンベルジュ)……!」

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[一言] 彼女の黒い痣の謎が明らかに?
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