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第26話 竜との邂逅


 リゼが悲鳴を上げかけたのも無理はない。


 おそろしく巨大なドラゴンだ。

 軽い山くらいある。

 ハイ・オークさえひとのみにできそうだ。


 だが――俺は眉をひそめた。


 かなり弱っている。


 巨体に対して、流れる魔力量が明らかに少ない。


 木の陰から出て、そっと歩き出す。


「ロクさま!?」

「ここで待っててくれ」


 ついてこようとするリゼたちを制し、ゆっくりと近づく。


 ドラゴンが目を開いた。


 丸太のような首をゆっくりともたげる。


 すごい迫力だ、山が動き出したような錯覚を起こす。


「う、わ……」


 ティティの悲鳴が背後から聞こえてきた。


 ドラゴンはは虫類独特の細長い瞳孔で俺を見据え、牙を剥いた。


『何をしに来た、人間』


 重々しい声が響く。


 まるで脳内に直接流し込まれているかのようだ。


「ろ、ロクちゃん、ドラゴン怒ってるよー!」

「戻ってきてください!」

「いや……」


 俺はドラゴンの魔力回路に目をこらした。


 威圧的な声に反して、魔力は静かに巡っている。


 どうやら見た目ほどには怒っていないようだ。


 魔力回路を注意深く観察しながら、両手を挙げる。


「突然すまない。だが、俺たちは、貴方に危害を加えるつもりはないんだ」


 そう言いつつ、そっと手を差し伸べた。


 ドラゴンが立ち上がろうとする。


『何を――』

「待って。動かないでくれ。俺の魔力を流し込む、少しは楽になるはずだ」

『お前の魔力を? そんなことできるわけが――』


 俺はドラゴンの首に手のひらを押し当てた。


 ひんやりと冷たい。


 手の平に意識を集中する。


 触れ合った皮膚を通して、魔力が通いはじめた。


『! これは……』


 薄れかけていた魔力回路が、次第に本来の機能を取り戻していく。


 ドラゴンがぴくりとまぶたを震わせた。


『よせ、もういい』

「いや、まだ足りないはずだ」

『やめろ。人の身でドラゴンの魔力を賄うつもりか? 死ぬぞ』

「あいにく、量だけはたっぷりあるんだ」


 俺はそう笑って、出力を上げた。


 鱗に覆われた巨体に白銀の魔力が巡り、膨大な回路が魔力で満ちていく。


 やがて、ドラゴンの身体が眩く輝き始めた。


「……よし」


 魔力が充分に回復したのを確認して、手を離す。


 ドラゴンはゆっくりと翼を広げた。


 驚いたように、自らの巨体を子細に観察する。


『ふぅむ。こんなに清々しい気持ちになるのは数年ぶりだ。まさか、人に助けられるとはな』

「一体どうしてここに?」

『我としたことが、魔族にやられてな。失った魔力を補給しようと、魔力量の豊富なこの山に来たが、傷も癒えず、このまま朽ち果てるだけかと覚悟していた。が、おかげで助かった。礼を言う』


 金色の瞳が細められる。


『そなたらこそ、なぜこの山に?』

「人を探してて。ええと」

「女の子。わたしと同じくらいの年」


 気がつくと、サーニャが隣にいた。


 リゼとティティも俺の袖を握って、おっかなびっくりドラゴンを見上げている。


『そういえば、二日ほど前にちんまいのが来たな。そこの穴に潜っていったようだが』


 ドラゴンのすぐ横に、坑道があった。


 サーニャが「見逃してくれたの?」と尋ねると、ドラゴンは喉を鳴らして笑った。


『なにしろ眠かったのでな。向こうから危害を加えようとせん限り、興味はない』


 礼を言って坑道に入ろうとして、慌てて引き返す。


「それと、スペルタイトを探してる。魔力を通す特殊な鉱物だ」

『これか』


 ドラゴンが立ち上がった。


 そこには、銀色に輝く石が敷き詰められていた。


『こいつを通して山の魔力を吸い、回復に使っておった。が、おかげでもう必要ない。お前たちに譲ろう』


 礼を言って、スペルタイトを袋に詰める。


『ついでに、こいつをくれてやろう』


 ドラゴンはそう言って、透き通る緑の欠片を俺の手に乗せた。


「りゅ、竜の鱗だ!」


 ティティがぴょーん! と飛び上がる。


「や、ヤバいよロクちゃん、それ売ったら大金持ちだよ! 一生遊んで暮らせるよー!」


 そんなにすごいものなのか。ありがたい。後宮に何かあった時のためにとっておこう。


 ドラゴンは愉快げに喉を鳴らして、大きく翼を振った。


『我が名はザナドゥ。縁があればまた会おう』


 ドラゴンが飛び立つ。


 俺たちは手を振って、風と共に舞い上がるその姿を見送った。


 リゼは「まさか、ドラゴンさえ懐柔してしまうなんて……」と放心している。


「でも、無理をなさらないでください、心臓が止まるかと思いました」

「悪かった」


 涙目のリゼの頭を撫でると、リゼはぽわわと頬を上気させた。


 足下に気をつけながら坑道を進む。


 十分ほど経った頃、カンテラの明かりの中で、つるはしを振るうポニーテールの少女がいた。


 足音に気付いたのか、ハッと振り返る。


「だ、誰だ!」


 その瞳が、驚きに見開かれた。


「サーニャ!」

「リリー」


 二人は固く抱き合った。


「なんでここに! ドラゴンは……」

「この人が話をつけた」

「!?」

「ロクです、はじめまして」


 リゼとティティも、軽く自己紹介をする。


「リリーです、初めまして」

「戻ろう、リリー。ロゼスが心配してた」


 しかしリリーは、サーニャに答えずうつむいた。


 優しく尋ねる。


「どうして危険をおかしてまでここに?」

「……親父にもう一度、槌を握ってほしくて」


 リリーは拳を握り、ぽつりぽつりと答えてくれた。


「優れた魔導剣を鍛造することが、親父の夢だったんです。けど、親父の造った魔導剣を巡って争いが起きて……それ以来、親父は剣を打つのをやめてしまった。そのうち鉱山にもドラゴンが住み着くようになって……」


 リリーは泥で汚れた頬を拭った。


「良質なスペルタイトがあれば、また槌を握ってくれるかもと思ったんだ。けど、無駄足だった。サーニャや皆さんに、迷惑を掛けてしまった」

「迷惑なんかじゃない」


 サーニャが言って、袋を開いた。


 リリーが瞠目する。


「それは、スペルタイト!? こんなにたくさん……」

「帰ろう、リリー。ロゼスは剣を打ってくれる」


 サーニャの言葉に、リリーは目に涙をためて頷いた。


「うん」


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