~俺がいない世界~
老人から世界の編集方法と地球の生物のテンプレートを受けとった俺は、さっそく世界を作ってみようと思った。
パソコンでゲームのように編集でき、セーブした後は自由にその世界を歩き回れるらしい。
なぜか存在している自分の部屋の、なぜか使えるパソコンを開いて編集していく。
最初は操作に慣れるため元いた世界をそのまま作ったが、初めてにしては忠実に再現できたな。
さっそくセーブしようと思ったが、ふと思い出した。
「…俺が死んだ後、財閥はいったいどうなるんだ?」
神代財閥は日本一と言っても過言ではないほどの大型財閥で、その御曹司がなくなったとなると日本中が大騒ぎだろう。
俺に兄弟はいないから、跡取り争いも発生してしまう。
会社にも俺がいなければ進まない案件が山ほどあるはずだ。
俺はひとしきり考えた後、自分が死んだ後の世界を再現し始めた。
きっと日本中が混乱している、それを見て大笑いしてやろうと考えたのだ。
世界に細かい設定を加えていき、自分が死んだ時と全く同じ条件の世界を作り上げ、セーブした。
すると、本来ならベランダに続いているはずの窓に、地球が移った。
俺はその窓を開け、体をくぐらせる。初めての世界体験だ。
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誰からも俺の姿が見えないことを確認した後、
俺は自らの死体を見つけた。
腹部から血が流れ路上を汚しているが、死に顔は苦しんだようには見えなかった。
周りの民衆は死体を見て悲鳴を上げている。
(自分の死にざまを見るなんていい気分ではないな。)
俺は苦々しい表情をした後、実行犯の顔を見た。
実行犯は逃げるでもなくただ茫然としていた。誰かが警察を呼んでもお構いなしに突っ立っていた。
…実行犯とあったことはないはずだが、なんだか懐かしい。
どこかですれ違いでもしたんだろうか…
…まあいい、時間を進めることにした。
殺害された翌々日、俺の葬式が行われた。
マスコミや親族が訪れる中、俺は父と母の姿を見つけた。
喪主を淡々とこなしており、伊織が死んだことへの悲しみが全く見受けられなかった。
…きっとマスコミのネタにされたくないから耐えているのだろう。
俺はそう考えた。いや、考えることにした。
そうでなければ耐えられない、なぜだかそう思ったのだ。
「…時間を進めよう、俺が死んで困っているさまを見てやろう。」
自分をごまかすようにつぶやいた。
葬式から翌日、俺は職場を訪れていた。
自分が抜けた穴をどうしているのか確認するためだ。
しかし、来て早々それは無駄足だったことを悟る。
「○○はこの業務を頼む。△△はこの業務だ。わからなければすぐ私に聞いてくれ。」
そこには俺が行っていた業務を分配し、取りまとめる上司の姿があった。
最初は社内もあわただしかったが、一週間もたつと少しずつ落ち着きを取り戻していた。
むしろ、俺がいたころより社内の空気がよくなったと話す社員もいる。
この上司は神代財閥の分家に所属しており、本家に養子縁組されることになっているとニュースで言っていた。
父と母は俺の代わりを見つけたのだ。
「俺がいなくても順調だな…」
自嘲気味につぶやく。
世界は俺を必要としていない、家族ですら俺を替えの効く道具としか思っていなかった。
俺は世界に絶望した。
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「どうした、顔色が悪いのお」
老人は気遣わしげに声をかけてくる。
「…条件を変更したいことがある、いいか?」
「…条件によるが、検討しよう。で、何を変更したいんじゃ」
「俺を元の世界に戻す約束、あれをなかったことにしてくれ。」
その代わりに、と続ける。
「全部終わったら、俺が作った理想の世界に転生させてほしい」
伊織は元の世界を捨て、自分の理想の世界を作り上げることを決意した。