表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

子どもって何よりも大事だと思うんだよね






「おはよー……何か依頼ある?」




真白を助けてから三日経った朝。

僕は依頼を受けに雷の鬼人亭に来ていた。




「あっ、それなら薬草集めの依頼がありますよ……それとゴブリン討伐の依頼もです」


「おお、それならどっちも受けようかな」




受付にいた真白が二つの依頼書をカウンターに置くので、どっちも受け取ろうと手を伸ばす。

けど、何だか違和感を覚えてその手を止める。




「……あれ? サラは?」




そう、本来なら受付にはサラがいるはずなのだが……周りを見渡してもいる気配はない。

そもそも受付に真白がいるのは今日が初めてじゃないか……違和感バリバリだよ。




「えっと……出掛けるって言ってましたよ」


「出掛ける?」


「はい、何か大きな袋を持っていましたけど……」




サラが出掛ける……大きな袋を持って?

そんな物を持って何をしに行くんだ?





「お、理樹……丁度良かった、お前さんに頼みたいことがあったんだ」


「雷斗さん? ちょっと今考え事をしてるんで……」


「ああ、それでも構わねえから……スラム街の様子見に行ってくれねえか?」




どうしてと考えようとするところで雷斗さんが頼みごとをしてくる。

何でスラム街の様子なんて……いや、待てよ?



サラと初めて会ったのもスラム街……まさか……?




「ああ、報酬はこれな」




そう言いながら金貨を一枚カウンターに置く雷斗さんを見て、頼みごとの本当の意味を理解する。

なるほど……僕が分かっていると見て頼むとは……周りに気づかれないためか。




「き、金貨一枚!?」


「ふむ、了解です……具体的にどこを調べればいいとかあります?」


「ああ、この地図の赤い丸の所なんかよく厄介事が起きるからそこを頼む」




カウンターに置かれた金貨に真白が驚いている中、僕は依頼についてしっかり訊いておく。

しっかし金貨一枚か……10000Gは高額だが……さて、どんな面倒事が待っている事やら。




「それじゃあ行ってきますね」


「ああ、朗報を待ってるよ」


「あわわっ……金貨一枚……銀貨が十枚……銅貨が……!」




何でか混乱してる真白を横目に見つつ、金貨をポケットにしまって僕は外に出てスラム街へ向かった。



















「地図の通りならここか……」




地図の赤い丸のところまで来て、気配を消しながら更に近づく。

万が一のことがあるしね……気づかれない事に越したことはない。




「やめろっ! ここは俺が守る!」


「テイク! 駄目ッ!」


「ああ? ガキに守れるわけねえだろぉ? それにこっちは金を貸してんだ……それを返せねえってなら売れる奴を持ってくしかねえだろ?」




男の子の叫び声が聞こえ、僕は足音を消して近づいて物陰からそこを見る。

いかにも闇金扱ってそうな男の前に何かを守るようにボロボロの剣を構えている男の子がいた。



そしてその後ろに……サラがいた。




「ま、待ってください! お金は用意しました!」




そう言うと大きな袋を地面に置く。

その中には……たくさんの銅貨が入っていた。




「おいおい、誰が10000Gって言ったぁ? 20000Gだって言ったろ?」


「そ、そんな……前は10000Gだって……どうして……!?」


「やっぱり持っていくか……おい、後ろにいる女がいるだろ?」


「ぐっ……このおおおっ!」




しかし、流石は闇金……勝手に借金は増えていくものである。

その理不尽さにサラは絶望し、男の子は地面を蹴って跳び、剣を横に振る。




「邪魔だ」


「がっ!?」




だが、子どもと大人……どちらが強いなんて分かりきってしまっている。

男はまるでハエを手で払うかのように剣の腹を腕で受け止め、男の子を蹴り飛ばす。




「テイクっ!?」


「これで分かっただろ? 早く女を渡せ……別にガキなら殺しても構わねえんだぜ?」




サラが叫び声を上げ、男は蹴り飛ばした男の子に近づく。

そしてこのまま男の子は殺され、その女っていうのは連れて行かれる……。



まあ、そんな事あっちゃいけないよね?




そう思いながらナイフを持ち、殺気を放ちながら男に投げる。

殺気で気づいたのか、すぐに後ろへ跳んでナイフを避ける。




「ちぃっ……これはどういう事だ!?」


「やあやあ、そんなに声を荒げないでよ……ここにいる子どもが怖がっちまうだろ?」




声を荒げる闇金男に笑いながら僕はサラの前に立つ。

案の定サラは驚いているけど……後で説明しよう。




「後どれくらい足りないんだっけ?」


「10000Gだって言ってんだろ!」


「それじゃあこれで足りる?」




僕の質問にまた声を荒げて答える闇金男に金貨を投げつける。

それをキャッチして……驚いている。



まあ、いきなり出てきた人が金貨投げるんだもんね、そりゃ驚くよ。




「それがあればここの借金は無いだろ? あんたはここに来る意味も、この子達を傷つける必要もない」


「……ははっ、話が分かる奴もいるもんだな……ああ、金さえ返してもらえばここに用はねえよ」


「そうかい、それじゃあさっさと帰ってくれ……子どもが怖がってるからさ」


「ああ……それじゃあな」




気味悪い笑みを浮かべて金貨と大量の銅貨が入った袋を持ち、ここを去って行く闇金男。

完全に姿が見えなくなったところで……サラが勢いよく頭を下げた。




「ご、ごめんなさいっ! 私のせいでこんな事……!」


「ああ、あれ雷斗さんのだから別にいいよ」


「へっ……ライトさんの!? ど、どうして……!?」




謝ってくるサラにそう教えると、驚愕していた。

まあ、今まで隠してると思ってたんだから当然か……いや、雷斗さんも闇金男が来てるとは分かってなかったかもしれない。

大きな袋の存在を知って、何となくお金が必要なんだなと思っただけだと思う。



でもまあ、まずは……。




「今の問題は解決したし、後は今後の事を考えないとね」




この子達の今後について考えないとね。






















「孤児院……みたいなものかな?」


「はい、そうです……申し訳ありません、私達のせいで貴方に迷惑が掛かったと聞きました……」


「いえ、そこまでの事はありませんでしたよ」




孤児院らしき建物に案内され、そこにいた女性に頭を下げられる。

別に雷斗さんのだから痛くは無いんだけどね……。




「申し遅れました、私はセイラ=エンジェロと言います……こちらの子達は……」


「俺はテイク=ハーネスだ……助けてくれてありがとう」


「ボクはメル=シュトライです……テイクの事助けてくれてありがとう」


「サラ=ハーネスです……助けていただいて本当にありがとうございます!」


「うん、よろしく……でもってお礼はまだだよ」





セイラさんは僕より大分年上の女性で、綺麗なロングの茶髪に、穏やかで優しい微笑みを浮かべる顔、女性特有の大きい胸でこれはまああの闇金男も持っていこうとするわな。

まあ、持って行かせるわけないけど。



テイクはサラより年下というか弟らしい。

黒髪に幼いながらにしっかり男を思わせる顔に小さい体だが鍛えているのか少しだけど筋肉はある。

ふむ、学校にいたらモテそうな子だな。



メルはテイクと同じ歳で幼馴染らしい。

エメラルドを思わせる綺麗な髪で、前髪で目はよく見えない……所謂メカクレである。

幼いが小さい膨らみがあり、ちゃんと女の子だと分かる。

そこで分かるのも失礼かもしれないけど……目が見えないからね、仕方ない。




ふむふむ……子ども二人は将来が楽しみだね。

その将来も守るためにも僕が頑張らないと。




「……お礼はまだとは……?」


「あの闇金男は確かにここには来ないと言いましたけど……貴女達に手を出さないとは言ってません」


「そ、それって……またセイラさんとメルが狙われるかもしれないのか!?」


「あり得るね……だからお礼はまだ」




特にセイラさんはね……確実に狙われる。

メルも狙われる可能性は十分にあるな……悲しい事にロリコンがいないとは言えないし。



だからお礼はまだ貰えない……欲しいとは言っていないけど。

でも言われるならしっかり守ってからの方が良いでしょ?




「えっと……リキさんはいったい何を……?」


「……悪っていうのは根元から除去しないと消えてくれないんだよね」


「あのー……もしかして……?」





そう訊くメルに僕は考えながら答える。



悪と言うのは面倒だ……一度根を張ればそこから侵食していく。

この子達もその餌食になっていたかもしれない……そう思うだけでも虫唾が走る。

子どもには明るい未来が約束されるべきだ……そのために……。




「……その組織を殲滅しないといけない」




冷静に、確実に殺さなければいけない。

それは存在してはいけないのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ