蝉時雨の中で
キャスト表
タカシ…男
ナツ…女
父…男
母…女
蝉時雨の中で
タカシN
「これは僕の青春とは言い難い、夏の思い出だ。
その思い出はとある病室から始まる…」
タカシ「よっ!」
ナツ「タッくん」
タカシN
「こいつはナツ、明るい奴なんだけど身体が弱くて頻繁に入院してる俺の幼馴染だ」
タカシ「具合どうよ?」
ナツ「うん、平気、あのね、お母さんから聞いたの、明日退院できるんだって!」
タカシ「マジでか!やったじゃん!」
ナツ「うん!夏休み明けは最初から学校行けるんだ!」
タカシ「いいじゃん!あ、でも勉強大変だぞ?教えてやろうか?」
ナツ「タッくんに教えられる程バカじゃないですー」
タカシ「ちぇっ」
ナツ「私が教えてあげよっか?」
タカシ「お、おう」
ナツ「はぁー夏休み中に退院できるなんて最高だなぁ!ねぇタッくん!退院したら色々遊ぼんで!お家でゲームしたり、カラオケ行ったり、遊園地なんかも!」
タカシ「お、おう」
ナツ「何その感じ、嫌なの?」
タカシ「嫌じゃないです」
ナツ「ならよろしい」
タカシ「おう」
ナツ「ん、じゃあまた明日ね」
タカシ「ん、また明日」
タカシN
「翌日、退院するナツを出迎えようと病院まで行く。
丁度病院から出て来たところだったようだ、ナツは俺に気づいて母親と一緒に歩いてこっちに向かって来た。」
ナツ「やぁやぁ出迎えご苦労タカシ君」
母「こらナツ、ちゃんと挨拶なさい、折角タカシ君来てくれたんだから、ごめんねぇタカシ君」
タカシ「あ、いえ別に平気ですよ、おばさん」
ナツ「よっと!」
タカシ「うわっ!な、何すんだよ、いきなり」
ナツ「疲れた、おぶって!」
タカシ「お、おい」
母「ナツ、タカシ君困ってるでしょ!降りなさい」
ナツ「やだ!タっくん、我が家までレッツゴー」
タカシ「…ったく、しょうがないなぁ」
ナツ「ん、よろしく」
母「ごめんねぇ、この子のわがまま聞いてもらって」
タカシ「あーいいですよ、いつものことなんで」
母「悪いわねぇ…ホントタカシ君が良い子で良かったわ…ナツにも見習ってもらい…あら…」
ナツ「スースー」
タカシ「寝ちゃってますね」
母「ホント勝手なんだから…まぁ寝てると可愛いんだけどね、このお姫様は」
タカシ「ですね」
タカシN
「ナツをおぶって、おばさんと他愛のない話をしながら歩く、暑い夏の夕暮れ、蝉の声を聞きながら」
タカシ「ふぅ…おい、着いたぞ」
ナツ「んぇ…あ、ウチだぁー」
母「ナツしっかりしなさい」
ナツ「はぁい」
父「ナツ!お帰り!」
ナツ「パパだ、ただいまー」
父「なんだ?随分気抜けた挨拶だな」
母「この子ったら寝起きなのよ、着くまでタカシ君の背中でぐっすり!」
父「ははっ!そうなのか、タカシ君ありがとうな、いつもいつも」
タカシ「あ、いえ」
父「コイツおぶって来て疲れたろ、重くなかったか?」
タカシ「軽かったんで平気です」
ナツ「私軽いもん、えっへん」
父「威張るな」
ナツ「あいたっ!ぶったなぁー親父にもぶたれたこと」
父「あったな、今だな、そんな古めのネタ持ってくるなよ」
タカシ「ははっ」
ナツ「…ねぇパパ」
父「ん?」
ナツ「お腹減った」
父「そういうと思ってな、ご馳走作ってあるんだよ」
ナツ「流石、料理のできる男!パパ大好き!」
父「へへ、それほどでも…あるな」
母「もう、調子着いちゃって!ねぇタカシ君も食べていかない?」
父「そりゃいいな」
タカシ「えっと…」
父「気合い入れて作りすぎちゃったのもあるんだ、遠慮するな」
ナツ「そうだよ、パパのご飯美味しいんだから、寧ろ喜んでって言わなきゃ」
タカシ「じゃあ…喜んで!」
父「はい、いらっしゃい」
タカシ「俺はナツの両親に誘われ一緒に食事をした、今でもナツの父さんの料理はむちゃくちゃ美味かったのを覚えている」
タカシ「ご馳走様でした!むちゃくちゃ美味かったです!」
父「口に合ってよかったよ、またおいでな」
タカシ「はい、それじゃお邪魔しました」
母「はい、またね」
ナツ「タっくん!」
タカシ「ん?」
ナツ「また明日ね、ウチでゲームしよ」
タカシ「ん」
ナツ「ん!」
タカシN
「翌日、言われた通り、のこのことナツの家にやってきた」
ナツ「いらっしゃーい!」
タカシ「ん、あれ?おばさん居ないんの」
ナツ「うん、買い物行ってるよ、タッくん来るなら病み上がりの娘1人にしても安心だって、きっと世間話でもしたりするだろうし、遅くなんじゃない?」
タカシ「…ったく、おばさん…高2の娘1人のとこに男入れるか普通」
ナツ「タッくんだからじゃない?」
タカシ「変な事でも起きたら」
ナツ「二人きりだしねー…変な事、起きるの?」
タカシ「……お、起きねぇよ!げ、ゲームって何すんだよ!」
ナツ「何焦ってんの?」
タカシ「な、なんでもねーよ!」
ナツ「ふーん…まぁいいや、ホイこれ!」
タカシ「人生ゲーム?今更?」
ナツ「いいの!やりたいの!てかやるの!」
タカシ「はいはい」
タカシN
「なんだかんだで人生ゲームをやる」
タカシ「1.2…おっ!宝クジが当たった、一千万獲得、ラッキー」
ナツ「いいなぁ…それ!お、6、ふんふん…っと…あ、結婚だ…結婚かぁ、私は誰とするんだろうなぁ…ね、タッくん」
タカシ「な、なんで俺に聞くんだよ」
ナツ「別にぃー、へへ…ちょっと飲み物取ってくるね…よいしょ!」
タカシ「ナツのやつなんだって急に……結婚かぁ…」
ナツ「お待たせ〜、アレ?」
タカシN
「元気にしてたのにスイッチが切れたように突然倒れ込むナツ、俺は戸惑って声を掛けることしかできなかったんだ」
タカシ「ナツ!?おい!ナツ!!ナツ!!」
母「ただいまぁー」
タカシ「ナツ!!ナツ!!」
母「いやー大分長話しちゃっ…ナツ!」
タカシ「おばさん!ナツが!!」
ナツ「スースー」
母「はぁ…よかった…寝てるだけか…落ち着いてるわね…平気よ、安心してタカシ君、ごめんね…すぐ良くなるから」
タカシ「でも、急に倒れて!」
父「ふんふんふふーん♪たーだーいーまー…あれ?どうしたの?」
母「おかえりなさい…」
タカシ「お邪魔してます」
父「これはどういう状況?」
母「とりあえずナツをベッドに運んでくれる?」
父「ああ……」
母「数日は平気だと思ったけど…帰ってすぐこうなるなんてね…」
タカシ「え?なんのこと?」
父「ナツのこと運んできたぞ」
母「ありがと…」
タカシ「あの、どういうことなんですか?」
母「貴方…私ね、いい加減にタカシ君には話した方がいいと思うわ」
父「そうだな…タカシ君にはいい加減にあの事を話す必要あるだろう…」
母「ええ…わかったわ…タカシ君、驚かないで聞いてちょうだい」
タカシ「はい…わかりました」
母「娘は…ナツはね…もう少しの間しか生きられない身体なの…」
タカシ「え?…はは…冗談やめてよ、おばさん…ナツが?退院したじゃん!今日だってむっちゃ元気に遊んで!飲み物取ってきたら急に倒れて……つ、疲れてただけだって!えっと、あ、アレだよ子猫が電池切れるみたいな…」
父「ホントなんだ…突発性細胞活動停止病、SCCDと言って、突然身体の細胞が活動を停止する…急に倒れるのもそれが原因なんだ、細胞が活動を再開するときに身体に負担がかかってしまい寿命を縮める…この病気は今の技術じゃとても治せない難病で…先生と相談してしこれまでなんとかできる治療を施して延命してきた、だがそれも限界にきてしまった…ナツはもう…後7日しか…いや…もう5日しか生きれないと…だから最期くらい退院させて思い出…」
タカシ「信じられっかよ!!!」
母「タカシ…君…」
タカシ「…お、俺…帰ります…お邪魔しました」
父「タカシ君…」
タカシN
「俺は思わずそう言った…否定したかった、でもわからなくて…その場にいれなくて…気づいたら飛び出して走り出してた…がむしゃらに走った…喧しい蝉の声なんて聞けもせず」
タカシ「…嘘だ、嘘だろ…そんなん信じられっか!あいつは元気なんだよ」
タカシN
「そう思うように言い聞かせた…暫くそうしていた…家に帰ってからも部屋でずっと考えてしまう自分がいた…」
タカシ「…そんなの信じられっかよ…あと一週間しか生きられないなんて…嘘だよな…なぁ…ナツ」
タカシN
「気づいたら朝だ、疲れて、ふと眠ったみたいだった…目が痛い…顔を洗って俺はナツの家に向かった…昨日と同じようにナツは迎えてくれた…とてつもなく無邪気な笑顔で」
ナツ「いらっしゃいー!」
タカシ「よっ!」
ナツ「昨日はごめんね!気づいたらベッドって感じだったの」
タカシ「いいよ、疲れてたんだろ?」
ナツ「そうなのかなぁ?」
タカシ「そうだよ」
ナツ「なんか目赤くない?」
タカシ「あー…た、玉ねぎ切ったからな」
ナツ「へぇータカシ料理すんだ」
タカシ「最近な」
ナツ「今度食べさせて」
タカシ「今度な」
ナツ「はぁーい」
タカシ「ところで今日は何する?」
ナツ「カラオケ行こ!」
タカシ「あいよ」
タカシN
「なんともない、今までのよう、いつものようだ、そう思った…そう言い聞かせてナツが行きたいと言ってたカラオケへと出掛けた。」
ナツ「いえーい!」
タカシ「やっぱ上手いなーナツは」
ナツ「いやいやどうも、タッくんは相変わらず音痴だね」
タカシ「うるへー」
ナツ「あはは、いやー久々だよねここ来るの」
タカシ「だなぁ、一年くらい?」
ナツ「うん、中3から高1になる間に一度」
タカシ「そうだなぁ…」
ナツ「また来たいなぁ」
タカシ「どうしたんだよ?」
ナツ「ん、別に!よーし歌うぞー」
タカシN
この時なんでわかってあげられなかったんだろう…きっと気づいてたんだ…彼女は…どうしようもなく自分の事を…蝉の声も静まりかえる…色んなものが渦巻く中眠りについた…そして夜は明ける…ナツに残された時間は後4日となった…」
ナツ「今日は買い物に行きます!」
タカシ「え?」
ナツ「というわけで出発!ついてきたまえ!荷物持ちのタッくん」
タカシ「お、おい!引っ張るなって!」
タカシN
「強引に手を引っ張られ電車に乗せられ着いたのは若者の街、渋山だった…俺らも若者には変わりないし行くのはおかしくないんだろうが…田舎モンだから縁がないと思ってた所だ」
ナツ「というわけで渋山に来ました!」
タカシ「はい」
ナツ「竹上通りで買い物!夢だったんだぁ」
タカシ「こんな都会によく来たくなるもんだ」
ナツ「オシャレしたいじゃん!それに私達の住んでるとこだって東京都なんだよ!一応!」
タカシ「田舎だけどなぁ」
ナツ「うるへー!あ、あそこ可愛い!行くよタッくん」
タカシ「はいはい」
ナツ「これにー、それっ!あ、これ可愛い、すき!」
タカシ「す、凄えな」
ナツ「いつか行って買い漁るって貯金してたからね!」
タカシ「いくらため込んでんだよ」
ナツ「さぁ?わかんない、あ、これ買おう!」
タカシ「あー増える増える」
ナツ「頑張れタッくん!」
タカシ「うーい」
タカシN「とびきりな笑顔で服を見てはしゃぐナツ、そんな彼女に残された時間がないなんて…俺はやっぱ信じたくなかったんだ…彼女が死ぬなんて」
ナツ「ふぅーただいまー…って誰もいないのね…ふむふむ、買い物行って来ますね…了解〜」
タカシ「はぁはぁ…こんなに持たせやがって」
ナツ「御苦労タッくん〜ありがとー!あ、ちょっと待ってて!」
タカシ「ん??」
ナツ「いいって言うまであっち向いててね」
タカシ「あん?」
ナツ「見たら全力で変態って叫ぶから!」
タカシ「見ないから安心しろ」
ナツ「よし…んしょっ…よっ…よいしょっ!もーいーよー」
タカシ「へーい、よっと!お……」
ナツ「じゃーん!どう?」
タカシ「どうって?」
ナツ「可愛いとか綺麗とかあるでしょうに」
タカシ「ああ、可愛いよ」
ナツ「お、おう…言われると言われるで照れる」
タカシ「なんなんだよ」
ナツ「なんなんだろ、ごほっげほっ!」
タカシ「おい、大丈夫かよ」
ナツ「ごほっ!ごほっ!がはっ!あ、ヤバ」
タカシ「ナツ、血が…」
ナツ「へへ吐いちゃった…」
タカシ「おい…」
ナツ「ちょっと休めば良くなるから…タッくん…膝借りるね…」
タカシ「お、おい……ホントなのかよ…おばさん達の話…くそ、7日しか生きられないって…昨日の時点で5日…だとしたら後…4日……あり得ねぇよ…」
ナツ「ん、んん…」
タカシ「ナツ?」
ナツ「へへ…落ち着いたみたい…あーあワンピース…汚れちゃった…せっかくの白いワンピースなのに…ねぇタッくん」
た
タカシ「ん?」
ナツ「蝉って知ってる?」
タカシ「蝉?知ってるけどなんで」
ナツ「土の中で育って地上に出て一週間しか生きられない虫」
タカシ「うん…」
ナツ「私も同じなんだ…」
タカシ「ナツ?」
ナツ「自分の身体だしわかるんだ、それにパパ、ママに内緒で病院の先生にも聞いちゃったし、ゴネたら教えてくれたんだ」
タカシ「ゴネたらって…でも、やっぱおじさんが言ってたこと…」
ナツ「話したんだパパ…うん、ホントだよ…ドッキリなんかじゃないよ」
タカシ「そんなのってあるかよ!なんでお前があと数日で死ななきゃなんねーんだよ…そんなのドッキリだって終わらせろよ」
ナツ「ねぇタッくん…蝉はね地上に出て恋人を探して鳴くの」
タカシ「うん」
ナツ「私もね鳴いていい?」
タカシ「え?」
ナツ「タッくん…丸山タカシ君…ずっと好きでした…私の恋人になってください…」
タカシ「え?…あ……俺も好き…です…」
ナツ「恋人には?」
タカシ「あ、え…うん…喜んで…なります…」
ナツ「へへ、やった…こんな膝の上で言うもんじゃないよね、ごめんね」
タカシ「…いいって」
ナツ「よいしょっ!」
タカシ「おい、急に起き上がったら」
ナツ「平気、それにしたいことあるし」
タカシ「したいこと?」
ナツ「んっ」
タカシ「んっ!?」
ナツ「ふぅ…やっちゃった、へへ…」
タカシ「おまっ!いきなり」
ナツ「へへ、したかったんだもん!彼女との初キスが血の味でごめんね」
タカシ「あ、お、おう」
ナツ「へへ照れてる、可愛い」
タカシ「馬鹿!照れてないし!」
ナツ「ふひひ」
タカシ「変な笑い方すんなって」
ナツ「んへ」
タカシ「なんだそりゃ、じゃあそろそろ帰るな」
ナツ「ん、また明日ね」
タカシ「ん、また明日」
タカシN
「俺に恋人ができた、幼馴染が恋人なんて恋愛漫画かなんかの世界だと思ってた…けどそうなった…幸せだと思った…その時間が例え3日しかなくとも…俺はこの幸せを噛み締めたい。」
タカシ「おはよ」
ナツ「ん、おはよ」
タカシ「さてと来ました遊園地!いっぱい遊ぶか!」
ナツ「最後までミンミンわーわー騒いでやるぞー!」
タカシ「元気そうでなにより」
ナツ「こうでもしなきゃやってらんないすよ、カレピッピ!」
タカシ「カレピッピ?」
ナツ「最近の子の言い方だとこう言うらしいよ」
タカシ「なんかやだなぁ」
ナツ「タッくん?」
タカシ「うん、それがいい」
ナツ「はーい」
タカシ「ナツ」
ナツ「ん?んっ」
タカシ「へへ、昨日のお返し!何された?」
ナツ「キスされた…ふひ」
タカシ「変な顔してんぞ」
ナツ「う、うるへー」
タカシ「へへ、さて、どっから行く?」
ナツ「ジェットコースター!」
タカシ「だろうな!」
ナツ「レッツゴー!」
タカシN
「俺たちはジェットコースターやらお化け屋敷やらありとあらゆるアトラクションを巡って遊園地を満喫した。無邪気にはしゃぐ彼女が愛おしくてたまらなかった…」
ナツ「ただいまー」
父「おかえり、楽しかったか?」
ナツ「うん!最高だった」
母「はいはい、疲れたでしょ、お風呂入って寝ちゃいなさい」
ナツ「はーい、んじゃまた明日ね、タッくん、一緒に行きたいところあるから!」
タカシ「あいよ、絶対行こうな!…あ、お邪魔しました」
父「タカシ君、ありがとう…」
タカシ「い、いえ…俺こそ…」
父「くだらないことかもしれないけど聞いてくれ…俺はな…娘の結婚姿が見たかったよ…」
タカシ「…くだらないなんて…そんな」
父「花婿は君で居て欲しいなんて妄想したりしたよ…はは」
タカシ「…嬉しいです、そう言ってくれて」
父「タカシ君、娘のことよろしく頼むよ」
タカシ「…はい!」
タカシN
「この3日間を彼女と全力で生きようと…そう心に誓った…そんな夜だった…明日はどう過ごそうか、あいつの恋人としてどう一緒に居ようか、そんなことを考えてると突然、机に置いていた携帯が鳴り響く」
タカシ「もしもし…えっ!?」
タカシN
「驚きを落ち着かせられないまま俺は走り出した…病院に向かって…病室に入るとナツを囲み祈る、おじさんとおばさんがいた。」
タカシ「はぁはぁ…おじさん!」
父「タカシ君か…」
タカシ「ナツは!」
父「わからない…夜を越せるかどうか…」
タカシ「そんな…おい、ナツ!行きたいところあんだろ!連れてってやるから…だから!絶対起きろよ!こんなとこで死んだら…許さねぇからな…」
父「タカシ君…」
ナツ「……タ…カ…シ…」
タカシ「ナツ?」
母「ナツ!…わ、私、先生呼んでくるわ!」
父「あ、ああ」
タカシ「ナツ…?」
ナツ「ヤ…くそく…絶対…だ…よ」
タカシ「うん!約束!絶対な!」
ナツ「指切り」
タカシ「指切り拳万嘘ついたら…針千本…のーます…指切った…」
ナツ「へへ…」
タカシN
「指切りをした後ナツは穏やかに眠りについた…急いで来た先生は奇跡だと驚いていた…それから一日が経ち、ナツは目を覚ました…そして最期の日を迎える。」
タカシN
「俺はナツが行きたい言ってた場所に行くためにナツを病院から連れ出した…おじさんもおばさんも先生も思い出にと快く迎え出してくれた…最期になんてなって欲しいとは思ってないのに…」
タカシ「おじさん、おばさん…行ってきます」
父「行ってらっしゃい…何かあったら連絡してくれ」
母「気をつけてね…」
ナツ「ん、行ってきます」
タカシN
「挨拶をし2人で歩く…いつもと違って変に静寂が続く…耐えきれなくなって俺は口を出す。」
タカシ「お前の行きたいところって?」
ナツ「昔よく行ってた場所」
タカシ「よく行ってた?」
ナツ「ついたらわかる」
タカシ「んー、楽しみにしとく」
ナツ「それでよし」
タカシN
「最期の一日、ナツの行くままについていき、辿り着いたのは俺とナツが昔通っていた小学校の近くにある山だった。」
タカシ「ここって…」
ナツ「そ、小学生の頃によく遊び行ってた山だよ」
タカシ「まだ残ってたんだ」
ナツ「うん」
タカシ「てっきり区画整理かなんかで削られてるもんだと…」
ナツ「そう簡単に思い出の場所潰させてたまるかってーの」
タカシ「はは」
ナツ「笑うなよぉ〜」
タカシ「ごめんて」
ナツ「お詫びのチューは?」
タカシ「んっ」
ナツ「んっ…へへ…許す」
タカシ「ん」
ナツ「…はぁはぁ…着いたよ…向日葵畑!」
タカシ「結構歩いたな…うわぁ!すげー」
ナツ「でしょ!小学生の頃なんか比べ物にならないでしょ!」
タカシ「うん、すげーよ…こんな向日葵畑…絵かなんでしか見た事ねぇよ」
ナツ「でしょでしょ!私ね、死ぬまでに絶対来たかったんだ…好きな人とここに」
タカシ「死ぬまでって縁起悪いこと言うなよ」
ナツ「ごめんね」
タカシ「うん」
ナツ「んー…おいでタッくん、ギュってしよ、ほら!」
タカシ「…うん」
ナツ「どう?落ち着く?」
タカシ「スゲー落ち着く」
ナツ「ねぇタッくん、私ね蝉だったら幸せもんだろうね!って思う」
タカシ「なんで?」
ナツ「沢山遊びまわって、騒いで鳴いて!好きな人に出会って…好きな人の腕の中で死ねるの」
タカシ「死ぬなんて言うなよ…」
ナツ「ごめんね…でも、ここについて思ったの…私もう限界みたい…最期まで笑ってたいのになぁ…」
タカシ「…っ…うっ…」
ナツ「そんな顔されたら笑ってられないじゃん…もっともっとタッくんと一緒に居たいなぁ…」
タカシ「居ろよ!もっともっと!生きて!ずっと一緒に!」
ナツ「…ずるいよ…タッくん…そんなこと言われたら…覚悟したのになぁ…ひぐっ…うっ…死にたくないよぉ…生きてたいよぉ…一緒に居たいよぉ」
タカシ「…うっ…うぁあ」
ナツ「…うぁああん!!」
タカシ「…うっ…くっ…ナツ」
ナツ「何?」
タカシ「大好きだよ」
ナツ「うん…私も…大好き」
タカシ「んっ…」
ナツ「んっ…へへ…3回目…ねぇ、暫くギュってしてて…」
タカシ「うん」
ナツ「へへ…やった…ありがとタッくん……私…タッくんのお嫁さんになれる…か…」
タカシ「ナツ…?ナツ…なれるよ……うぅ…うわぁあああ!うっ…ひっく…うぅ」
タカシN
「蝉が鳴いてる、僕の声を掻き消してくれる様に
夏が終わらないように鳴いている…足掻くように
夏が終わることを悲しむように…蝉が大きな声で鳴いている…」
タカシN
「夏の終わり、蝉時雨の中、僕は泣く」
感想などくれたら嬉しいです。