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エピソード1 ― 8・俊と幸・ 昭次とダチ

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。

「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。

「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。

「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。

「相田武・武威直人」昭次の親友。

「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次やはじめとの関係は?


神崎は、病院の前立ち止まっていた。

主治医の言葉が胸を締め、足を引きとめている・・


幸には会いたい、だけど怖い・・母のことを思い出しそうや、から―――


  

母が倒れた日、オレはうちにおらんかった・・その日だけじゃない、ほとんどうちには帰ってなかった。


母のことを数時間後に聞き、慌てて行きつけの病院へバイクを走らせる。

階段を駆け上がり、病室のドアを思い切り開けた。


「・・ばばぁっ、平気かっ」

「こらっ。病院は走るんやない、ドアは静かにあけんかいっ、それに母のことをばばあとはっなんや」

入るなりおもいきり頭を叩かれた、その人物は小さい頃から世話になっていた医者。

「ったぁ。あわてとったんや、このクソジジ」

もう一度飛んでくる手を、ひょいと避ける。


「おまえだきゃぁホンマに、そんなんやから母さんも倒れるんやで」

はっと母を見ると、今は意識があるようでオレたちの会話に小さく笑っていた。

「そうじゃ、おかんは平気なんか?急にどうしたんや」

「・・急にやないよ、おかあさんのことなんかしらんやろ。ずっと悪かったんよ、あんたには期待なんかしとらんけど・・心配してくれたんね、めずらしく」

「なに言うんや、気にぐらいしとるわ。で、先生どうなん。容態は」

「ええ、とは言えんわ。おまえは知らんやろうけどよう来とるんやで母さん、おまえ家にも帰らんでなにやっとるんじゃ。バイク乗りまわしてケンカばっかしとらんとちゃんと帰らんかい。体弱いんやから母さんは」

「そんなもんしらんかった・・そんな悪いんか」

よく見ると母は、ひどくやせていた・・こんなに小さかっただろうか。


「そんなことあらへんよ。大丈夫やそんな顔せんでも、いつものことや」

「な、なんや、そうか。あわててくることやなかったんやな、あんまびっくりさせんでくれや」

小さく笑う母だが、先生はむずかしい顔をしてた・・それが母のウソだというのはオレにだってわかった。



その後、容態が悪化し・・大きな病院に移動したんやけど、母がこっちで生活したんわ一ヶ月もなかったな―――


「あいつはおかんとは違う・・大丈夫じゃ、大丈夫」

自分に言い聞かすようにつぶやくと病院の中へ入って行った・・




「あっ、どうしたの。今日は早くない?仕事さぼったんじゃないでしょうねぇ」

「なんや起きとったんか。寝とらなあかんで?昼寝の時間やろ」

「べつにそんなの決まってないです、今日は気分いいから。それに緊張してるのよ実は」

笑う幸の表情は本当に具合がよさそうで安心した。

 

「そんならええけど、なんで緊張?加賀さんみえるからか?」

「そうよぉ、他にないでしょ。いまさら俊に緊張なんかしないし」

「そんなこといってへんでしょ。オレ昨日会ったで加賀さんと弟くん」

ふいに告げる言葉は幸にとって重大事件のような驚き方、言わんかったほうがよかったか?


「なんでぇーひどい。私だけのけもの。なによぉ、私をさしおいて。どんな人だった?」

「ええ人やったよ、ごはんまでご馳走になってな。成も一緒やったからわかったんやけど」

昨日のことを軽く説明した、ケンカしたとかはなしで・・幸は心配性やから。


「・・信じられない、なんて偶然なのよ。で、ちゃんとあいさつしてくれた?」

「そりゃしたよ、でもおまえの言うことなくなるとあかんからそんなしてないかも・・したようなしんような、よう考えると自分のことしか言っとらんかも」


「だめじゃないのぉ。いちおう成仁の兄だって思ってるのは、私だけ?・・さみしいなぁ」

「なに言っとるんや。オレもそう思っとるで」

勢いで大声を出してしまい、言ったセリフも合わせて一気に赤くなる頬・・隠すように顔を背けると小さく笑っている幸。


「・・頼りにしてるんだから、頼みますよ神崎さん」

「あほ、なに他人行儀なこといっとるんや。おまえのことも成のこともオレにまかせときゃええ、頼りにしとりゃええ」

「うん・・」

ポンと幸の頭を撫でるとうれしそうに腕を取り寄り添う二人・・幸の瞳が小さく揺れていた。

それがなにを意味するのか、考えるのがイヤで抱きしめながら不安をかき消した。


なにも心配なんかいらんから・・おまえは、大丈夫や。

心の中で、何度も呟く俊だった。




昭次を病院へ送り、遅刻をして学校へついた井川忍。

職員室へ呼び出され遅刻の理由を聞かれた時、病院へ付き添っていたと答えた井川、どこか様子がおかしかった。


「2組の加賀くんに・・朝、呼ばれて。連れてったんです」

「呼ばれて?・・どういうことかよくわからんけど。なんで井川が」

「・・知らないですけど」


「加賀がねぇ・・そういうことするやつじゃないんだけどなあいつは」

あいつにも聞いてみるからと帰される井川、唇を噛んで出て行く。


「おい井川。なんでそこに昭次の名前が出てくる」

職員室のドアを開けると廊下で聞いていたのだろうか、昭次の親友・相田が呼び止める。

一緒にいた武威も後ろから睨んでいた。


「なにが・・」

笑顔もなく、静かに答える井川。

「おまえ加賀となんか親しくないだろ、あいつ今日休みで・・なんか知ってそうだな井川」

「べつに、知らないけど」

「うそつけ、さっき昭次と一緒だったって聞こえたぞ」

詰め寄る二人、うざそうに去ろうとする井川の進む先へ立ち睨み合った。


「おまえ・・加賀にもなんかする気か」

「・・昭次がなにかしたのかよ」 

睨みつける二人に静かに背中を向ける井川。


「なんだよ、それ。僕がなにするっていうの。言いがかりもいいとこだな」

「ちょっと待てっ。昭次はどこ行ったんだよ」

「・・病院。さっき言っただろ、聞いてたんでしょ?加賀くんのお友達さん」

意味深に笑いながら行ってしまう井川を悔しげに見つめてる二人。


「あいつ・・絶対なんか、あるぞ」

「・・昭次んち電話してみる。あいつは・・井川はなに考えてるかわかんねぇからな」



相田は井川を知っていた。


中学が同じでクラスも一緒だったけどいつも一人静かにしてるやつで・・

オレの友達が一人そんな井川に声をかけたのがきっかけで二人は仲良くなっていってた、いつかそいつが言った「井川って、いいやつなんだけど・・よすぎて怖い」って。

そいつは高校で離れてった、井川の追いかけてこれないくらい遠い学校に・・なにがあったんか聞いてはいないけど見てはいた二人でいる時を・・あいつがいう意味がよくわかる。

楽しそうに見えたけど、あの時はもう怖かったんだと思う・・

ひっついて離れない井川の姿、オレも覚えてるから―――



「たぶん昭次が気に入られたんだと思う・・友達選ぶのは昭次の自由だけど、あいつは気を付けろってくらい言っておかないと。あいつのことだから平気だとは思うけど。頼もしい兄ちゃんいるし」

「確かに。怖いよなあの兄ちゃんは。加賀もキレりゃにたようなもんだけど、似たもの兄弟」

笑いながら教室に帰っていく武威を見送り、相田は裏庭で電話をかけた。


「・・出ないし。家にいないのか?」

しばらくかけつづけていると、思いのほか軽い昭次の声が返って来た。

『あれ?武、どうしたの。今、授業でしょ?』

「サボってるおまえに言われたくないね。どうしたんだよ今日は、気まぐれか?」

『今日はサボりじゃないって、ちょっと足ケガしてよ。松葉杖使ってんの、重症よ』


ふいにさっき聞いた井川の話とダブる、本当のことだったのか?


「けが?なにやったんだよ、大丈夫か」

『ああ、ホントはたいしたことないし』

重症ってのはウソだよと笑っている・・どこも変なところはないらしい、思い過ごしだろうか。


「おまえ、今日井川ってやつと会ったか?」

『井川くん?会ったよ』

「え?おまえあいつと面識あったか?」

『なかったけど。昨日オレ早く帰っただろ、その後ヤンキーにからまれてさ。それでケガしたんだけど。その時助け呼んできてくれたのが井川くん』

「そう、か・・で、今日はなんで?朝から会うのはおかしくないか?」


『たしかに、気にしすぎなんだよ。オレの足が心配で迎えに来てくれて。なんか自分のせいでとか思ってて。病院送ってくれた。で、なんか怒らせちゃって・・学校行ったのかなぁ』


ちょっと力が抜ける・・面識ないやつにそこまでされておかしいとかないのかよおまえはぁ。

「・・来てるよ井川。昭次ぃ、ちょっとはへんに思えよ。いくら親切だからって仲良くもないやつがそこまでしてくれるのは、なんかあるだろ」

『なんかってなに?確かにここまでしなくてもって思ったけど』

ちょっとはおかしく思っててくれてよかったよ・・しかし、無知は怖いなぁ、純粋というのか。


「あんまり深入りすんなよ。なんかあったらすぐ相談しろ」

『だからなんかってなによ。井川くんおまえになんかしたのか?そんな警戒しちゃって』


「あいつと中学一緒だったけど、おまえみたいな友達いなかったからびっくりしただけだ。おまえはホント誰にでもついてくからなぁ・・ちょっと心配になっただけ」

『人を子供みたく言うな。悪い人にはついていかないの』

「人見る目はあるって信じてるからな。じゃ足早よ治せよ」

意味わかんないと笑いながら、明日は行けると思うからと切れる通話。


電話を見つめてため息をつく相田、昭次も心配だけど・・井川も、心配だった。

「まんまとはめられたって感じだな・・井川、同じ失敗すんなよ。頼むから」

井川と仲良かったやつもオレとは親友で、辛そうなところを見ているだけに・・やるせない気持ちが胸を打った、あいつらのことしっかり見ててやろうと思った。


   

おかしなことを告げて切れた電話をこちらでも眺めていた。

「武のやつはなにが言いたかったんだか・・井川くん悪い子と違うけどな。けどちゃんと学校行ってるみたいでよかった」


武が井川くんのなにを知ってるのかはわからないけどオレには悪い人には見えなかったし。

たしかに昨日今日知り合った人にそこまでするかと言われたらオレはしないけど・・そこが井川くんのやさしさなんだと思うから。

せっかくみんな知り合いっていう不思議な偶然の出会い、そんなこと疑いたくない・・


「まだ知り合ったばっかなんだから。考えるのも変、明日会ったらまず謝ることからだよ」

みんな仲良く、それが一番だと一人燃える昭次だった。





「終わった、終わった」

カウンターで大きく伸びをしてる成仁にはじめがパシリとツッコミをいれる。


「なにするんですかぁ。終わったでしょ」

「まだ。今日は大事な用だって店長にお願いしたんだから交代までちゃんとやれ。まだ来てないぞ」

「はいはい。わかってますよ・・遅いな、店長さんっ」


玄関のあたりをうろうろしてる成仁、レジをしながら小さく笑うはじめ。

待望の店長登場に目に見えてうれしそうな姿に吹き出す。


「遅れてすまんな。昭次くんにせかされた」

「すんません、頼んどいて・・成仁、お願いしてる身だぞ」

叩かれる前に逃げてく成仁、ホントに子供だなこういうとこは・・昭次とかわらないぞ。


「まあまあ、姉ちゃんとこ行くんだろおまえも。早く会わせたいんじゃないか、どっちを自慢したいのかはわからんが」

「そりゃ姉に決まってるでしょ、まったくガキなんだから」

すでに帰る用意をすませて出てくる成仁、あきれたように睨みつけた。

「まだだって言ってるだろ、給料やらねぇぞ」

「ありえねぇよそれは。店長来たら終わりって言いましたよさっき」

まったく悪気がないだけに、わなわなと怒りが涌き出てくる・・どうしてくれようか。


「元気そうでよかった、早くいってあげなさい。ここはまかせて」

大人な店長・・気持ちはわかるような気もするので、今日のところは店長に免じて許してやるか。


「ホント申し訳ないです、あとでバイトの子も来ますんで。お先に失礼させてもらいます。帰りによりますから、遅くなったら電話入れます」

荷物を取り急いで店を後にした、なんだかはずかしいのはなぜだろう・・成仁のせいだ。


「もう信じられないんですけど成仁ぉーー。もうちょっと大人になれよ」

自分でも悪いとは思っているようで困り顔の成仁。


「すんません。だって早くしないと面会時間なくなっちゃいます。早く会わせたいもん、姉ちゃんに加賀さんのこと」

「オレ?オレに姉ちゃん会わせたい、だろ?自慢の姉」

「違いますよ、加賀さんを、です。昭次くんには悪いけどオレ、兄みたいに思ってる加賀さんのこと」

「・・え?」

思いがけないセリフに、思わず聞き返してしまう・・だって、おまえ・・神崎さんが。


「そう思ってた・・迷惑でしたか?」

「迷惑なんてあるか、おまえそんな素振り全然なかっただろ・・びっくりした」


照れたように先を歩く成仁をまだ驚いて見てるはじめ。


本当に驚いた、そうなれたらいいと思ってたけど・・ホントにそう思ってくれてたなんて。

神崎さんの存在を知ってからよけいに思わなくなった時に言うから。


「オレでよければ喜んで兄貴やるよ。手のやける弟は一人も二人もかわらないのでね」

照れてる成仁の肩を抱くと、心からそう言う。

うれしい気持ちがすごく沸き出てくる、こんなうれしいことだとは思わなかった・・慕われてることが。

「そりゃどうも。けどホントの兄にはならないでね、姉ちゃんに惚れたらダメだからね」


見上げる成仁がまたすごいことを言うものだから、固まってしまった・・次の瞬間、二人で大笑い。

「当たり前だろ。それくらいわきまえてます」

「まぁ先輩くらいいくと姉ちゃんなんか許容範囲じゃないだろうけど」

「そういうことじゃないの。神崎さんにチクルぞ」

「それは、やめて。マジで怖いから」


また笑った、二人それぞれの不安を思いながら・・それを考えないように明るく、病院へと入っていった。


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