エピソード1 ― 6・昭次と忍
家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。
「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。
「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。
「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。
「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。
「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。
「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。
「相田武・武威直人」昭次の親友。
「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次やはじめとの関係は?
「・・痛い、かも」
朝、起きた瞬間足の痛みに驚く・・こんなになるとは。
見るとすごく、腫れていてズキズキ響く感じ。
「これじゃ一人で歩けないよ・・どうしよう」
まだ時間が早いため兄も起きていなく、しかたなくがんばって立ち上がってみた。
平気なほうの足に体重をかけていればどうにか、いけそうな気がする。
「壁づたいになら・・兄ちゃん起こさないと。これじゃ朝ごはんも作れない」
兄の部屋へ足を引きづりながらゆっくりとたどりつく、気を抜いた瞬間つまづき・・眠っている兄ちゃんの上に勢いよく倒れてしまった。
「・・う・・」
加減なく倒れてしまったため、かなり痛かったのか声も出ない様子・・マジごめんなさい。
「ご、ごめん。こけちゃって・・」
「・・昭。なにをしてくれるか・・あぁ、いってぇ」
「ごめんって、足ダメみたいだから」
倒れた時に、少しぶつけたようで兄ちゃんにも負けないほど痛い顔をしているだろうオレ。
「えっ・・足って、どうなってる?」
「こんなです・・ちょっと、歩けない感じ」
オレの足を見て、痛そうな顔・・見るだけで痛いよな、これ。
「ひどいなぁ。病院行かないと。遅れるって成仁に電話してくるわ」
「いいよ、そんなの。どうにかするから、の前にごはん・・」
朝はちゃんと食べるって決めて毎日作っていたのに。
「こんな時でも律儀だなぁ、今日はオレが作るし・・って、昭次くんどいてくれるかな?」
いつまでも乗っかっているオレ、そうでした。
ゆっくりと足を下ろそうとした、瞬間「あ、いい、いい。動くな」そういうと腕を取り肩へと担がれる、軽がると持たれそのまま進んでいく。
「人を荷物みたいに持つなよっ。着替えてないんだから部屋でいいのに」
「持ってきてやるよそんなの、座ってろ」
結局キッチンまで運ばれた・・オレってそんなに軽いかな、ちょっとショック。
「今日は休めば、昭」
軽い食事を作りながら大人しく座っているオレを振り返る兄。
「これじゃ行っても迷惑かな・・休もうかな」
「そういうとこまじめだよな。オレなんか理由なくよくさぼってたぞ」
「兄ちゃんと同じにしないでよ」
「どういうことだよ、失礼な」
怒ってますけど、この人結構なやんちゃものだったと思いますけども。
「小学生のオレが見ても普通ではなかったと思ったけど?でも、オレのことちゃんと面倒みてくれてたし、どうなんだろ」
振り返って見る兄のいやなそう顔、なんだよ誉めてあげたのに。
「そういうとこはまじめだったってことじゃない?」
「そりゃあ、小さいおまえをほっとけるほどひどいやつではないよオレも」
ほら、出来たぞと出される食事を手を合わせ頂いた、なんだか照れているようだ、小さく笑う。
でも、ホントにどうしようかなぁ。
一人で病院に行けるだろうか・・兄ちゃんに連れてってもらうと仕事に支障だし。
この際、しょうがないかなぁ。
チラリと兄を見ると「まだからかいたりないのか?」と膨れて笑ってる、気にしていたとは。
「や、なんでもないですよ。ほら兄ちゃんも早く食べないと。遅刻するよ」
「あ、それな・・やっぱ、電話・・」
言いかけた時、玄関のチャイムが響く。
誰だろこんな時間から、二人で顔を見合わせ首を傾げた。
「はい。どちら様ですか?」
インターホン、聞くと意外な人の返事が返って来た。
『おはようございます、井川です。昨日お邪魔した・・早くにすいません』
「ああ、昨日の。ちょっと待ってね」
「昭次。昨日来た井川くんだけど」
「え?なんで。ちょ、待ってオレも行く」
兄ちゃんの肩に後ろから掴まって、急ぎ足で玄関に出るとホントに井川くんが立っていた。
「おはようございます。ちょっと加賀くんの足、心配で」
「え?心配で来てくれたの?・・ったぁ」
思わず乗り出して顔を顔を出すと、不覚にも痛い足をついてしまい・・痛い表情のオレ。
「やっぱり昨日より、ひどいんじゃない?」
兄にしがみついて苦しんでるオレに心配そうに声をかけてくれる井川くん。
「だ、だいじょうぶ。今日は大事とって、休もうかと思ってるから。せっかく来てくれたのにごめんな」
「休むんだ、そうだよね。病院は、行かないの?」
「うん、行こうとは思ってる。ちょっと一人じゃ無理だから・・困ってるんだけどね」
連れてってくれるようなことさっき兄ちゃん言ってたけど、チラリと兄を見るとなにを困ってんのとちょっと怖い顔。
オレがそんな薄情に見えるのかと言ってるようです。
「よかったら・・オレが、連れてきましょうか?」
またも意外なセリフが聞こえ、二人してえ?っと聞き返してる。
「えっ?井川くんが?学校でしょ、ダメだよそんなの」
「そんな迷惑かけられないって」
「大丈夫だよ、ちゃんと理由あるし。自転車だから移動楽でしょ」
たしかにそうしてくれるならなんの心配もなくなるってものだけど・・
「けど・・」
「ホントいいよ。心配だったから来たんだし、役にたてたらうれしいよ?」
にこりと手伝わせてくれといわんだかりの笑顔、なんか眩しいよ君。
その笑顔にやられたのか決断したのは、兄だった。
「ここはご好意に甘えるか?井川くん、ホントにいいの?」
「はい、僕は全然大丈夫です・・でも、加賀くんが、嫌そうな顔」
ふいに笑顔が陰る、え?オレ?そんな顔してないでしょ!思わず思いきり首を振ってた。
「嫌なんて思ってないよ、昨日も迷惑かけたのに・・いいのかなぁって思って・・」
「僕が勝手にやってることなんだから気にしないで」
にこにこの井川くんにつられて笑ってるオレたち、はっと時計を見るともう結構やばい時間。
「兄ちゃん、時間」
「お、おぉお。やば、ちょっと失礼」
言いながら慌てて二階に駆けていく兄、そんな姿に思わず苦笑い。
「ごめんなぁ、慌しくて。井川くん中入ってて。兄ちゃん出たからでもいいかな」
「うん。大丈夫。じゃ、おじゃまします」
遠慮がちに上がるとさり気なくオレに肩を貸してくれる・・なんか、ホントに出来た人だな。
「朝から元気だね加賀くんち。うらやましいよ」
「うるさいだけでしょ?」
笑いながらリビングのソファーへ座ると、ふいに井川くんの表情が曇った気がした。
「ごめんね余計なこと。せっかくだったから、役に立ちたくて。迷惑だった?」
また大きく首を振ってるオレ、さっきからこんなんばっかじゃねオレって。
「そんなこと・・井川くんは気が利く人だなぁって感動してたのに」
「そうならよかった」
見るからにほっとしてる井川くんに、内心ちょっと思うところはあった。
実際なんでこんなに親切に親切にしてくれるのか、オレはっきり言ってあんま面識ないんだよね。
あんまりというか、まったくと言ったほうが正しいかもしれない。
昨日のことは別に井川くんが悪いなんてこと全然ないし・・悪いことしちゃったかな、い合わせたことで気にさせちゃったわけだから・・
「昭次、じゃ行ってくれるけど。井川くんホント申し訳ない変なこと頼んじゃって
「いえ!全然。ちゃんと連れてきますので安心してください」
ぽんと井川くんの頭を撫でると、任せたと笑う兄ちゃん・・ちょっと、子供じゃないんだから。
止めようとしたら井川くんがちょっとうれしそうだったので、まあいいか。
「いってらっしゃい気をつけて。まったく落ち着きのない人でごめんね」
「ううん。うらやましい、僕も兄弟ほしかったんだ。だからあこがれるお兄ちゃんって」
「そんなもんかなぁ。あっけど、神崎さんだっけ?隣にいるじゃんやさしい兄さん」
そうだよ、あの人のがなんか優しそうで落ちついてていいんじゃない?
まあうちの兄も悪くはないとは思うけど。
「俊兄は。やっぱり本物とは違うじゃない。それにあの人初めすごく怖かったんだよ」
「怖いって・・昨日みたいなこと?たしかに怖いけど、怒ってる時だけっじゃないの」
見た目あんなに爽やかなのに、普段怖いという想像ができないんだけど。
「違うんだよそれが。僕が初めて会ったのなんて・・えーっと、十歳の時。怖いなんてもんじゃなかったよ、今なんて考えもできないくらい、荒れてて・・ちょっと普通じゃなかったよ」
「普通じゃない・・って?」
「荒んでたっていうといいかも・・近寄れなかった。俊兄のお母さん病気だったみたいで、いろいろ大変だったと思うんだけど」
一気に興味が沸いた、あの温厚そうな神崎さんの昔・・うちの兄も、普通ではなかったのでまるでわからないわけではないが、どうも質が違いそう。
少し思い出して、苦い顔してる井川くん・・やっぱり、想像できないんですけど。