エピソード1 ― 4・はじめと俊
家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。
「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。
「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。
「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。
「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。
「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。
「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。
「相田武・武威直人」昭次の親友。
「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次やはじめとの関係は?
後ろについていきながら話を聞いてた成仁、なんだか誰かに通じるものをかんじていた。
あの子、加賀って言ったよなぁ・・それに早く帰らないといけないとかって、加賀先輩と同じこと。
先輩弟いるはずだよな、絶対この子・・加賀さんの弟。
聞こうとした時にはすでに家に到着していた、見れば一目瞭然ってことでなんだか少し緊張しつつ一番後ろから様子を伺った。
「ただいま・・」
俊さんの背中から小さく呟く弟くん、そんなんじゃきこえないのでは。
思う間もなくかけつける姿・・案の定、よく見知った顔。
「昭次?なんだよ遅いじゃん・・って、なんかあったのか。あんたたち誰?」
玄関先に見知らぬ人の多さに、かなり警戒して鋭くなる加賀さんの視線。
「歩けんいうんで連れてきたんですけど、オレはただの通りすがりで・・」
弟くんを玄関にそっと降ろしながら落ちついてくださいと言わんばかりに優しい声で呟く俊さん。
そんな兄の態度に弟くん慌てて説明を続ける。
「ちょっと絡まれて、この人たちは助けてくれた方で、失礼なこと言うなよ」
それでもなんとなくおかしな空気にオレの出番だと顔を出してみた。
「やっぱ先輩の弟さんでしたかぁ」
「えっ?成仁、なにしてんだ?」
知っている顔にさらに混乱している様子。
「だから助けに入った一人です」
弟くんとオレたちを交互に見てやっと状況を理解したのか、ホッとした表情の加賀さん。
「なんかわからないけど、ご迷惑を・・おまえなにやってんのよ。大事な日に」
「だって・・しかたないじゃん」
沈んでいる弟くんを弁解するように俊さん。
「まぁ大事なくてよかったです。この子はホンマタチ悪いのに絡まれてただけなんで、遅れたのは許してあげてくださいね」
オレが知り合いだったのを気にしておまえはどうする?と見てる俊さん。
今日は帰りますよ、いきなりなんで。
「先輩、怒らないように。足、見てあげて。じゃ、失礼します」
「ちょっと待ってください。上がってもらってもいいでしょ?お礼したい」
ふいに弟くんが引き止める、それに我に返るように先輩も頷いてる。
「あ、すいません。よかったら上がってください」
「え?でも今日はみんなで食事の日って」
大事な日だと聞いていたのでさすがにそれはと俊さんと顔を見合わせるが、
「そんなたいしたことじゃないって言っただろ。オレもなんか失礼なことしたし。ちょうどごはんできてるから食べてって。多めに作ったから調度いい」
すがるような弟くんの視線と、有無を言わさぬ勢いに困っている俊さんたち。
知り合いということでオレが上がればと遠慮なくお邪魔しようと提案。
少しだけならと頷く俊さんに弟くんも喜んでいた。
部屋に上がると、いい匂いが充満してた。
マジで加賀先輩が作ってんだな、人は見かけによらないとはよく言ったものだ。
オレがそんなことに興味を示している中、忍とか言ったか?心配そうに弟くんの傍。
「痛そう。早く手当てしないと」
「とりあえずシップでも貼っておくか。たいしたことないよ、そんな心配そうにしないで」
「なんかやっぱ怒ってるみたい。こんな日に、まいったなぁ」
「不可抗力なんだからしかたないよ。お兄さんだって心配して怒ってるだと思うよ?」
なんだかオレの周りにはいない優等生タイプ、見たところ昭次くんも加賀さんの弟というだけありやんちゃそうなんで。
救急箱を持って戻ってきた加賀さん、その忍くんの言葉に少し照れてか無言で手当てを始めてる。
先輩の意外な一面がよく見えてなんだかおもしろい。
「いたいぃ。けが人なんやからちょっとはやさしくしてよ」
「うるさいぞ。心配かけたバツだ、まったくみさかいなく突っ走ったんだろまた」
見てもないのに様子がわかるくらい、無茶する子なのか・・確かにかなり強気だったから。
まぁこの加賀さんの様子は怒っているというよりも、あれだよね。
「楽しみにしてたからねぇ、素直じゃないよね先輩。昭次くん、すねてるだけだぞこの人」
ふいに、口を挟むオレにびっくりしてなにを言うんだと睨んでくる加賀さん。
「うるさいっ成仁。余計なこと言うな、たかが一、二時間遅れたくらいですねるほどガキじゃねぇ」
図星さされて怒ってるし・・時間までしっかり見てるあたり拗ねてるんじゃんか。
「なっすねてるだけだろ。おまえの兄ちゃんおもしろいよな」
加賀さんに聞こえないよう昭次くんに耳打ちすると頷いて笑う。
「本屋の人ですよね?いつも話聞いてる、兄がお世話になってます。さっきはありがとう」
「しっかりしてるねぇ、こちらこそお世話になってます。お世話もしてますけど」
無言で見てくる先輩に笑う昭次くん、冗談ですと逃げるオレだった。
まったくあいつは余計なことを・・突然の訪問にかなり戸惑っていた。
家族といるのをあまり見られたくなかったかも、なんだか恥ずかしくなるから。
何年も一緒に働いているのに、お互いの家との接触はまるでなかったから。
「君は昭次の友達?初めて見る顔だよね、違ったかな?」
「井川忍です、はじめまして。昭次くんとは違うクラスだから。たまたま帰り道が一緒だったんで、偶然」
昭次の友達にしてはおとなしく、よく見るグループにはいない雰囲気。
「もしかして初めてしゃべったかも。井川くん知り合いだったからそちらの方が、助けてくれて」
手をかざす方に見るのは昭次をおぶってくれていた人、優しそうな表情の中にどこか威圧を感じてた。
成仁と親しいみたいだったけど、後で聞こうと思う。
「みんな、好きに食べててください」
治療を待っていてくれてるのに気づき慌てて進める、さっきから失礼なことばかりしているなオレ。
そんな中、井川くんが立ち上がると頭を下げていた。
「すいません、オレ帰らないと。連絡なしにどこか寄ると怒られるんで・・」
「あっ、そうか。こちらこそごめん、気づかなくて。大丈夫かな家のほう、電話しようか?」
なぜかオレを見る昭次、はいはいオレがするんですね。
「なんだったら送っていくけど」
「そんな、平気です。電話も大丈夫なんで」
玄関先まで昭次を抱えお見送り。
「今日はごめんね。ありがとう」
「もっと話たかったのに残念・・また明日会える?」
「学校で会えるじゃん。昼休みにでも一緒しようか?」
とてもさみしそうに見てる井川くん、どうやら昭次と仲良くなりたかった様子。
「うん。じゃ、帰ります。足お大事に、失礼します」
「ごめんな、おかまいもできませんで。また遊びに来て。気をつけて帰れよ」
深深とお辞儀をし、静かに玄関を出ていく・・どこのおぼっちゃんでしょうか。
「しっかりしてる子だなぁ。昭次、見習えよ」
思わず見比べてしまった、あまりに育ちが違う・・仲良くできるのか不安です。
「うるさいなぁ、井川くんほどじゃないけどちゃんとしてます。兄ちゃんが見習えよ」
部屋に戻りながらの言い合いに先に進めていた成仁たちが笑っていた。
「まあまあ二人ともしっかりしてるって。なぁ俊さん、昭次くん強かったよね」
「うん。オレがいかんでも勝っとたんじゃない?」
「そんなことないです。来てくれてホント助かったんですから。すごくピンチでしたよ」
「そうなんすか、うちのアホ昭がすいません」
無茶なことするなよとバシッと昭次の頭を叩くと大人しく頭を下げてる、今回はホントにやばかったのが伺えた。
「いえ、べつになにもしてないですから」
「俊さんでしたっけ?すごくて二人もいたのに軽く追い返してくれたんだよ。すごかったんだから」
尊敬な眼差し、人は見かけによらないなぁあまり想像がつかないぞ。
「あっ、そうだ。加賀さんこちらオレの姉ちゃんの彼氏さん。明日会ってもらうつもりだったのに先に会っちゃった」
「あ、挨拶が遅れまして。神崎俊です」
「こちらさっき話してた会わせたかった勤め先の加賀はじめさん」
「加賀はじめです。」
ふいに紹介される言葉に、頭にいろいろ思い出す。
「「あの話の人かぁ」」
同時に思い出したように言うオレたちにびっくりして笑ってるみんな。
「井川くんとも知り合いなんじゃないですか?」
「ああ忍は隣に住んでる子ですよ、小さい時から遊んどるから弟みたいなもんで。いろいろ偶然でしたね」
「井川くんまで知り合いなんてなんかすごいですね」
「ホンマやね」
人なつっこい昭次、すでに昔からの友達のように笑い合っていた。
昔から誰にでもこうだから心配は多いが、今回は大丈夫のようだなんせ成仁の知り合いだ。
「オレも仲良くしてほしいなぁ弟くん。オレ成仁」
二人の雰囲気に嫉妬したのか仲間ハズレは嫌なのか入っていく成仁に笑う、おまえそんな奴だったか。
「はい。こちらこそ。いっぺんにいっぱい友達できてうれしい。それに今日はにぎやかで楽しいね兄ちゃん」
「そうだな。母ちゃんたちも喜んでるよ」
食卓に飾った写真を見て頷く、しんみりするよりいい。
「兄ちゃんの料理おいしいでしょ、今日は気合入ってるから」
「ホントびっくり。実はお腹すいてたんだよね。加賀さんってすごいわ、マジうまい」
オレは人に食べてもらうのが好きだから、そう言ってもらえればとてもうれしい。
こいつだから余計にうれしいのかもしれない、いつも世話になってるからね。
「そういえば神崎さんは家よかったの?連絡しなくても」
「ああ、オレ一人暮らしだから。助かるんよこういう誘い」
「ならよかった、いつでも来てくれていいよ。成仁も」
いきなりそんなこと言われて素直にくるとは思わないけど、来てくれたらうれしいなぁと思った。
「加賀さん明日病院付き合ってくれますか?姉ちゃん予定ついたんで。昭次くんもどう?」
「ああ、大丈夫だよ。病院は大人数で行くとこじゃないから昭はいいよ、オレがあいさつしてくるから」
「成仁くんの姉ちゃんにも会いたかったけど、連慮しとく。よくなったら遊びに来てね」
黙り込んでしまう成仁、断ったのがいけなかったのかと昭次が複雑な表情、そういうわけじゃないと思うけど・・それに気づいて俊さんがフォローをいれた。
「そうやで、病院出たらいくらでも会えるんやから。急ぐことない、なっ成」
「お、おう。そうだね、すぐ会えるって思うから。それまで待っててな昭次くん」
「うん、待ってるね」
笑ってくれた成仁に目に見えてホッとしてる昭次、オレはなにか感じてしまったけど・・
ホントいい人そう、成仁がなつくのわかる、昭次もすでになついてる。
最近落ち着いてきてるし、神崎さんいるならオレの役目も終わりかな・・
あとは、成仁の姉貴が元気になることが今は一番の問題ってこと、か。
さっきの様子からちょっとよくなさそうな雰囲気、どんな様子か明日会えればわかるだろうが・・少し怖い気がした。
「どうも突然お邪魔しちゃいまして、ずうずうしく食事まで。ありがとうございます」
「ありがとうでした。うまかったです」
「こちらこそです、お世話になりました。また来てくださいね絶対」
食事が終わり、帰ると言うので玄関までお見送り、名残惜しそうに昭次が告げる。
「おそまつさんでした、気をつけて帰れよ」
「俊さんいるから大丈夫。迫力の関西弁で蹴散らすよなぁ昭次くん」
「うん。それだけで逃げていったみたいなもんだよね」
さすがに気づいていたが、そんなことに役立っていたとはさすが。
確かに関西の方言は迫力だから、まあ実力もあるんだろうけど・・やっぱ想像できん。
「そんなんもうええよ。そろそろしつれいしますわ。楽しかったまた遊んでな昭。はじめさんは、また明日やな」
「またな。成仁も遅刻しないように」
「しないですよ。それじゃ失礼します」
余計なこと言わないでよと膨れてる成仁に小さく手を上がる、笑って出て行った。
一言多かったみたい、悪い。
一気に静まる部屋。
足を引きづってる昭次、さっきシップ貼った時かなり腫れていた。
「まったくおまえは。人に迷惑かけるなよな」
「それは悪かったけど、肩ぶつかっただけで言いがかりつけられたの、急いでるのに。あー足痛い」
みんなが帰って痛みに気づいたように座り込む昭次。
「朝、医者行ってから学校行ったほうがいいな。連れてくから」
「いいよ。仕事あるじゃん、大丈夫明日になれば少しはましになるって」
「そうだといいけど。なんか腹立ってきた・・その、相手覚えてないか?」
実はかなり心配していたのだ、昭次はすぎに問題に巻き込まれるやつなんで・・約束はしっかり守るやつだから余計に。
なんだかんだいっても大事な弟、それをこんな傷つけたやつ、覚えてたら仕返しにでも行きたいくらいだ。
「いいよそんなの、十分やってもらったから。俊さん、怖かったもん大迫力」
「見かけによらないなぁ、あんなやさしそうな人が。仕返ししてくれたならまぁいいか」
神崎さんの笑顔を思い出し、怒り顔がやはり想像できなくて首を傾げてると笑う昭次。
「オレもそう思った助けに来てくれた時。大丈夫かと思ってたら一瞬で追い払ってて。あれじゃ誰でも逃げてくよ」
「そうかぁ。怒ると怖いタイプかな。けど、いい人だよな」
同意を求めると大きく頷いてる昭次、相当気に入った様子。
「いいなぁ兄ちゃん。オレも明日遊びに行きたい」
「遊びに行くんじゃないの。お見舞い」
納得してたようで行きたかったのか、オレはなんだか緊張するので複雑なんだが。
「お姉さんもきっといい人だよね。失礼なことしないように、治ったら遊びに行かせてもらうんだから」
「・・おう、そうだな。もう寝ろ、ちゃんと足冷やしておけよ」
少し痛そうに階段を昇っていく昭次を見上げて、小さくため息をついた。
治ったら・・その言葉に言葉を失ってた成仁を思い出す。
神崎さんの様子からもなぜかよくない考えが頭をよぎる、最近成仁は仕事が終ると速攻で帰っていた。病院に行くためだろう、あいつもなにかを感じているのだと思う・・知らないうちに。
オレは自分のことのように不安を隠せずにいた・・明るく振舞う成仁に胸が痛んでいた、オレのとり越し苦労だといいんだけど。
片付けをしながら、なにもないことを祈るばかりだった。