エピソード2 ― 16・それぞれの絆
まだ解決していない出来事が、ちらほらと。
井川忍は、携帯を握り締めて・・何度目かのため息をついていた。
「・・よし」
電話を見つめ呟く忍、意を決して番号を押し始めた。
『もしもし・・佐藤ですけど』
出てきた本人・佐藤達也におもわず息をのむ忍。
『もしもし?』
聞き返されてあわてて名乗った、これじゃいたずら電話だ。
「あっ、オレ。井川ですけど・・達也?」
一瞬、間が空くと驚いた声で聞き返される名。
『・・忍?どうして・・』
「あの、ちょっと話があって・・出てこれないかな」
『・・昨日、話しただろ。まだなにか・・怒ってるとか?』
「違うよ。ただ・・用事あるんならべつにいいけど」
あまり乗り気じゃないのを感じ、不機嫌に呟く忍。
『・・行くよ。どこ行けいいの?』
オレのわがままは慣れてる達也・・狙ってるわけじゃないけど、今も変わらず聞いてくれた。
「いつも会ってた公園、覚えてるか?そこで一時に待ってるよ」
『わかった・・じゃ、後で』
電話を切ると大きくため息をつく忍。
なんか思ってたのと違う・・相田のやつにそそのかされたのだろうか、なんかまた怖くなってきた。
自分で言ったこと、戻れるならそれのがいい。
もう一度ため息をつき、時計を見る・・気合を入れて立ち上がった。
あと30分もすると約束の時間―――
大阪に戻った関義斗・・仲間を集めて、報告中。
「もう一回言ってもらおか?なんちゅうたんじゃ今」
襟を掴み睨むのは、真田。
「・・やから、あっちで一緒に住むことになったいうてなんべん言わすんじゃアホ」
「アホは義斗じゃろが。それはもうわかったわ、その後。やめるいうんはホンマか」
真田と義斗の間で冷静ながらも明らかに動揺している伊藤が再度聞く。
「しゃあないやろ・・両立なんてできへん」
「で、こっちを切るいうんか」
冷めた声で真田が義斗を突き飛ばす。
「・・考えて決めたことなんや、わかってくれてもええやろ」
「わかっとる。おまえの向こうでの顔見とるからな・・そんな気もしとった。けどこっちの気持ちも少しはわかれや」
「オレらはおまえのとこに集まってできたチームや。簡単には納得できん話やろ」
二人にさみしそうに睨まれてる義斗、自分でも無茶なことをしているとわかっているだけにその視線は痛かった。
「そう、や・・勝手なのはわかっとる、どうしたらええんやろな。オレもわからん・・」
頭をかきむしる義斗を、少し落ち着きを取り戻した真田が大きなため息をついた。
「・・おまえ、あっちは解決したんじゃな」
「・・あっちって、なんや」
「昭次やらのことじゃ、話ついたんか?」
どかりと義斗の前に座り込む、もう怒っている様子もなく心配そうに話を聞く体勢の二人。
「ああ・・おまえが最後に言ってったこと驚いたわ・・」
「なんや、やっぱり図星やったんか」
状況を把握することには自信がある真田、こと義斗に関しては結構な確立。
あんな顔見たら誰だってわかりそうなものだが。
「昭次も自分のことまだ殺したいのか言うて聞いてくるし・・そんなこと思ってもないのに」
義斗の言葉に一瞬目を見開く二人、すぐに小さくため息をつき言葉を返す真田。
「言われてもおかしくない顔してたわ。おまえ前科もちなんか?」
軽く重いことを言う真田に伊藤は内心ハラハラ、義斗は気にもせず小さく笑う。
「まあの・・もう忘れることにしたけどの、それは。昭次もわかってくれてたみたいやし」
本当に気にしていない様子を見せる義斗に気持ちは固まったというように真田が切り出す。
「なら、さっさと帰れ。この部屋はわしが貰う・・それで、ええな?」
「・・まあそれが妥当か。おまえの下いうんがちょっと気に食わんが、オレは頭の器じゃない。がまんしたるわ」
伊藤も同じ考えだというように話にのった、一言多いわと小突きあってる二人を驚いて見ている義斗。
「・・おまえら。チーム、やってくれるんか?」
「なに言うんじゃ、誰が解散せえ言うた。任せんかい、一言多いアホ伊藤」
「そうやで、任せえや。なぁ、頼りにならんアホ真田」
笑いながら顔をヒクつかせる二人、お互いの襟元を掴みにらみ合う。
「なんじゃ、文句ありそうじゃの・・やるんか、こら」
「やったろうやんけ」
「ちょう、ケンカすんなや・・おまえらに支えてもらわなあかんのやから。頼むで二人とも」
二人の間に割って入る義斗に伊藤が吹き出す。
「ケンカなんかいつものことやろ、ホンマおとなしなってからに」
「伊藤ぉ、ふざけんなや・・」
力なくうなだれる義斗の頭をぽんと叩く二人。
「アホ、気にしすぎじゃ・・真田のことわかってるやろ、やる時ゃやるやつじゃ。ちゃんとするように監視しとるし。安心せえ」
「また一言多いっちゅうねん・・けど、おまえは自分のことしっかりせえよ。ケンカすんなよ兄ちゃんと、おまえらなんじゃ天敵みたいやで見てると」
はじめのこととなると素直になれない義斗、嫌そうな顔をして小さくため息をついた。
「あいつと同じ家・・気が重いわホンマ」
義斗の性格をわかっている二人、素直じゃないこととケンカ早いことを合わせると安易に予想がつく光景。
「けど、あれや昭次くんおるんやろ、どうにかなるわ。あの子が二人止めてくれるやろし・・なんにしても、大変じゃのぉ」
元気づけようとした伊藤だが、最後には同情を隠せず肩を叩く。
二人のことは気にもせず立ち上がるのは真田。
「おし、みんなに知らせに行くど。新アタマの紹介じゃぁ」
「違うじゃろ、義斗の引退祝いや。アホが」
「アホいうんやないわっっ」
またつかみ合って騒いでる、もう止めることなく取っ組み合いを笑う義斗だった。
その頃小さな公園、午後一時前―――
「・・早く来すぎたか」
ほっとしたようにベンチに座ろうとする忍、ふいに影が自分と重なった。
「・・よう。ここいいか?」
その声に、びくりと顔を上げるとそこに待ち人、達也の姿。
少し息を弾ませながら、ベンチの隣へ腰を落とす。
「びっくりした・・早かった、ね」
心からの驚きの言葉に達也が小さく笑う。
「おまえが、電話なんかしてくるからだろ。こっちがびっくりしたよ」
「あっと、急にごめん・・友達できたって、伝えたくて・・呼び出すまでなかったね」
うつむいたままの忍、達也の表情が見えず小さな沈黙に鼓動が早くなっていく。
「・・よかったな。うまくやってけそうか?」
返される言葉に思わず顔を上げると視線がぶつかる、達也は笑っていた。
「う、うん。大丈夫、すごくいい子で・・仲良くしてもらってるから」
「そうかぁ・・・で、オレはもう必要ないって、言いにきたのか」
「・・えっ?」
ふいに表情を曇らせて呟く言葉に、忍は固まった。
「違うか、もうオレは昨日の時点で終わってたな・・」
ひとり言のように呟く達也に勢いよく立ち上がっていた忍。
そんなこと聞きたくてきたんじゃないのに!
なんだか腹がたってしまい、思わず感情をぶつけてしまった。
「ああ、もうっ!おまえ、オレのこと好きなんじゃないの?なんでそんなすぐあきらめ入るんだよ、いいのかよ、もう会えなくなっても。おまえは平気なのかっ」
言ってしまってからあわてて口を押えた、がすでに遅く達也は呆然と忍を見上げていた。
顔を背ける忍・・オレって、何様・・もう最悪かも。
「・・なんだよ、それ。どういう意味・・」
肩をつかまれじっと見つめてくる達也、ここまできたらもう開き直るしかないと覚悟を決めた。
「メール・・見せてもらった」
「メール?・・」
一瞬考えて、思い当たる節に息を呑む達也。
「・・なんで、そんなことに。冗談だろ、やめてくれよ。なんで見せんだよあのやろう」
青い顔して背中を向ける達也、今度はお前が逃げんのかよ。
「相田のことは後にして。あんなメールじゃわかんない。おまえがどうしたいのか、オレにちゃんと言ってよ」
駆け寄り顔をを覗き込む忍、聞かずに終わってしまうのはもう嫌だった。
「・・なんか、性格変わったなおまえ。おとなしかったのに」
「おまえといた時はおとなしくしてたの。こんなだよオレの性格、だから隠してた。嫌になるだろしつこくて・・」
達也の驚いた顔を見て、悲しくなりうつむいていると肩に置かれる手。
「いいんじゃね。忍は忍だし・・じゃあ、ちゃんと言う。また、一緒にいたい。居たかった・・」
達也の勢いに思わずあとづさる忍、相田の言葉が頭にめぐっていた・・
『せっぱつまった男はなにするかわからない』・・
「あ、あの・・オレは友達でって、ことなんだけど・・」
「・・わ、わかってるって。そんなこと思ってない・・」
「そうなの?・・なんだ、悩んでそんした。おまえならいいかなぁとか思ってたのに」
「・・マジ?」
掴んでる手が力を強める、じっと見つめてくる達也に逃げ腰の忍。
逃がさないというように抱きしめてくる腕。
「じょ、冗談だよっ!離してよ卑怯だぞ、体格違いすぎなのに」
抱きつく達也に押し返す力はなく、あきらめて力を抜く忍。
「・・オレは、そっちの好きと違うからな。友達だからな」
言い聞かすように呟くと小さく笑う達也。
「わかってる・・なにもしないって。また嫌われたくないからな」
瞬間足を蹴飛ばしていた、まだ誤解してるのが悔しくて。
「嫌ったことなんかない。勝手に決めんな・・」
睨みながら顔を上げた時・・唇が頬に、一瞬触れた気がした。
え?っと視線を上げると真っ赤になってる達也の頬。
気のせいじゃないことを知る。
「じゃ、遠慮なくがんばる。今日はもう帰る、なにするかわかんねぇし。また電話くれよ」
逃げるように走っていく達也を呆然と見つめる忍。
「・・あのやろう、次会った時覚えてろ。殴ってやる」
達也のが移ったのか真っ赤になりながら言う忍の表情、どこかふっきれたような笑顔だった。
義斗との約束を交わした次の日、加賀家にはそわそわとしている弟が一人。
「・・義斗さん、いつ来るんだろぉ」
「うるさい昭次。何回同じこと言っってんだ、おとなしく待っとけ」
「だって、ホントに来てくれるのかわかんないし・・」
「おまえ義斗のこと信じてないんだ、うそつくようなやつだったか?」
何気に弟のことちゃんと見ているはじめに驚きながらも小さく笑う昭次。
「そうだよね。おとなしく待ってる・・あっ、手伝うよ」
食事の用意をしていたはじめのほうへかけていく、ただ待っているよりなにかしていたほうが時間は早く流れる・・期待と緊張に昭次の胸は高鳴っていた。
手伝いに没頭し緊張も解けてきた頃・・遠くにバイクの音を聞く。
「・・今、バイクの音した?・・」
「したな。もうこっちはいいから迎えにでも行ってやれば。バイクは庭に置くように言って」
走り出す昭次の笑顔にはじめも静かに微笑んだ、うれしそうな昭次を見るのはうれしい・・たとえその原因が気に食わなくても。
駆け出した玄関先、メットを外す義斗の姿を発見し小さく深呼吸をする昭次。
とことことその横へと近づいた。
「お出迎えか?サンキュ、ちょっと遅くなった・・」
照れくさそうに頭をかく義斗、じっと見つめる昭次は少し口を尖らせる。
「・・ホント、遅いよ」
「・・悪い、待たせた」
すねて下を向く昭次の頭をぽんとなでる義斗、うれしそうに顔を上げて笑顔を見せる。
「おかえりなさい・・よしにい」
一瞬間を置くと不器用に微笑む義斗。
「・・ただいま・・これから、よろしくな」
照れたように笑い合う二人を夕日が静かに照らしていた。
バイクを一緒に片付けてはねるように家に入る昭次、義斗の到着をはじめに報告に走る。
「兄ちゃん、義斗さん・・じゃなくて、義兄きたよぉ」
「・・変わってへんな、部屋」
玄関を入るとゆっくりとあたりを見渡しながら呟く義斗。
「うん。みんながいたままにしてる・・義兄の部屋はね、オレの部屋の隣だよ」
二階に上がっていく昭次、こっちだよと手招きしてる。
誘われるまま階段を上ろうとした義斗を止めるはじめの手。
「よお、よく来た。一つだけ言っておく・・昭次に、手出すなよ」
それだけ言うとキッチンに戻ってくはじめ、呆然とする義斗。
我に返り怒鳴る。
「あ、アホかっ!誰が弟に手だすんじゃ。変なこと言うなっ」
なに考えてんのやあの男は。
いくら好きいうてもそういうことやない、人の純粋な想いになにケチつけてくれてんねん。
怒りながら階段を駆け上る先に昭次が覗きこんだ。
「義兄?なにしてんの、早く来てよ」
急に顔を覗かせる昭次にびっくりしたのか動揺したのか・・足を踏み外し、階段をすべり落ちていく義斗。
「うわぁぁー、義兄っっ!・・」
大きな音と昭次の叫び声にはじめが何事かと駆けつけ、階段の下で転がっている義斗にあきれぎみにため息。
「・・なに、やってんのおまえは」
「なにって・・おまえがへんなこと言うからじゃっ!・・いたた」
「大丈夫かっっあ」
一人慌てる昭次、駆け下りてくる足はもつれ・・
「うわっ、ちょ。あぶねえっっ」
「こ、こらっ!来るなっ」
「うわぁ・・どいてどいてっ・・いったぁ」
がんばってこらえる昭次だが最後の最後ですべる足。
巻き添えをくって潰される二人の痛そうな顔に笑ってごまかす昭次だった。
そのころもう一つの家族・・大竹家。
騒がしかった部屋も片付いて、俊と成仁はゆったりとした時間の中夕食の時。
「成仁。おまえどっちで住みたい?やっぱりこのままのがいいか?」
一緒に住むというのはすでに暗黙の了解だったのだが細かなことはなにも決めてなく、落ち着いた今切り出す俊。
一瞬考えた後、幸のほうを見て上の部屋を見つめる成。
「・・できたら俊さんこっち住んでほしい・・」
「うん。オレもそうしたいって思ってた・・」
「姉ちゃんの部屋使ってよ・・よかったら。姉ちゃんも喜ぶよ」
「いいんかな、使っても」
なんだかプライベートな部分な気がして一瞬気が引けてしまう俊、そんな俊を見て笑ってる成仁。
「何言ってんだよ、夫婦でしょ。好きなように使ってよ・・なんか、いつもこっちの都合ばっか言ってるよね。俊さんもなんでも言ってくれていいからね」
なんだかテレくさくなり早口でそう告げる言葉に、ごはんを食べていた俊の手が止まった。
「なんかある?」
その様子に悟った成仁が身を乗り出す、俊は箸を置きじっと前を見据えた。
「・・成仁、おまえオレの養子にならへんか」
思わぬ言葉に目を見開く成仁、天涯孤独の身・・願ってもない申し出だった。
「そ、そんなの・・俊さんの、負担に・・」
「こっちが希望しとるのに負担もないわ。なんかはじめたち見てたら血やないなぁ思ってな、あっこは片親一緒やけどオレたちはなんも繋がってへん、それでも兄弟・・家族になれる思う」
ずっと思っていてくれたのだろう、俊の気持ちは固いものに感じた。
すでに気持ち的には兄なのに、形にできることがなんだかすごくうれしく思えた。
「オレも、そう思う。ありがとう、お願いします」
深く頭を下げる成仁、その言葉に姿に目頭が熱くなってくる俊。
小さく鼻をすすると笑ってる成仁。
「涙腺弱いよねぇ俊さんって。兄さんは簡単に泣かないでほしいなぁ」
「やかましいわ。生意気な弟やなっ・・オレにぴったりじゃ」
じゃれあいながら笑い合う、団欒の席。
写真の中でうれしそうに微笑んでいる、幸がいた―――
階段の下、固まってる三人の男たち。
「家の階段落ちるやつがいたとはびっくりだね。まったく来たそうそう世話のやける」
「だから、おまえのせいやって・・いたた。言うとるんがわからんのか、ったく」
一応文句を言いながらも手当てをしているはじめ。
ふいに動きを止め、小さく呟く。
「昨日の夜・・聞いてました」
なんのことだかわからず首を傾げて睨む義斗に「布団に、二人でなぁ・・」なにやってたんだかと続けるはじめの言葉。
・・一瞬考えて、真っ赤になる義斗。
「あれ、は。ちゃうで・・兄弟の愛情やろが。あんなん言われたら・・しゃあないやろが」
「ほお、けどオレがあんなことしませんよぉ兄弟ですが」
「はい持って来た氷。折れてないよねぇ・・」
タイミングいいのか悪いのか、袋に氷を入れて心配そうに現れる昭次。
思わず顔を背けながら「そんなやわやない、大丈夫や」どぎまぎの義斗。
それを見ていたずら心か、心配してか・・ふいに昭次に抱きつくはじめ。
「なにしてんの、兄ちゃん?」
「これが普通の反応なんだけどね・・けど、おまえには」
ポンと昭次の背中を押すと義斗のほうに倒れ込む、反射的に支えようと腕を伸ばす義斗・・抱きつく形に慌てて飛び起きる昭次。
「うわっ。ご、ごめんなさい・・ちょ、兄ちゃんなにがしたいんだよっ。危ないだろ」
明らかに自分の時との反応の違いに小さくため息をつくはじめ。
「・・真っ赤ですよ昭次くん。なんか兄ちゃんジェラシー、なんの絆で結ばれてるんだかねぇ・・」
顔を見合わせて真っ赤になってる二人・・それを見てまたもため息のはじめ。
「な、慣れてないだけだよっ。なに変なこと言ってんだよ、もう」
なんだかよくわからない気まずさに昭次がおたおたしてる。
そんな様子に小さく笑うのは、義斗・・やられてばっかでおれるかい。
「まあ絆はホンマよなぁ。ずっとかわらん想いってのは、すごいと思わへんか?」
なぁと昭次を見上げ笑うと少し驚いたように見て、続く昭次の言葉。
「そうだよなぁ、勝手にジェラシー感じてなよね。なぁ義斗さん、仲良くしようなぁ」
はじめへのお返しだとわかったのか楽しそうな笑顔の昭次。
たいした玉やと苦笑いを浮かべる義斗、はじめは「少しは気にしろ」と盛大にため息をついていた。
ふいに、電話が大きな音を奏で、場を落ち着かせた。
「おい昭次、電話出ろ。まったく、勝手にやってろっての」
「なんだよ機嫌悪いなぁ。あっ義兄、ちゃんと冷やしててよ。はいはい、今出ますよ」
受話器の向こう、見知った仲間の声。
「おっ武。またなんか問題でもあったか?」
こいつが電話してくる時はいつも問題発生時、思わず条件反射で告げると。
『問題っていえばそうかもな。達也と井川、寄り戻ったみたいだぞ』
「ホント?よかった。いいことじゃん、なんか問題?」
『達也が、井川のこと好きだとしても?』
一瞬意味がわからず固まる、好きだから仲良くしたいのは当然じゃね?
「好きなんだから寄り戻ったんだろ、なんか変か?忍も好きなんだよね。両想いってことか・・あれ・・」
なんかこれって・・恋愛に、似てないか?
『おっめずらしくなんか気がついたみたいだな。寄り戻るってのは、付き合うってこと。わかる?』
「うそ・・けど、そんなのできるのか?」
『別にいいんじゃないの?おまえには知らせとこうと思ってな、理解してやれよ友達なんだからよ』
「あ、うん・・そうだな・・」
理解というより頭がついていかず、生返事を返すオレを笑ってる声。
『明日おまえに会うのが楽しみだな、余計なことは言うなよ井川たちに。それだけ、またな』
言うだけ言って電話を切る相田・・呆然と受話器を握りしめゆっくりと戻した。
考え込みながら入ってくる昭次に首を傾げるはじめ。
「昭次。なにやってんだ、できたから早く食えよ。義斗もいつまでも寝てんなよ」
「・・あのさぁ、男同士って付き合えるものなの?」
思ったことをそのまま口に出す昭次。
「な・・なに言ってんの、急に」
びっくりして義斗の足につまづいてこけるはじめ。
義斗もなにごとだと見上げていた。
「・・あっ、なんでもない。ちょっと聞いただけ。ごはん食べよう」
なんでもない様子ではない、首と腕を大きく振りながら食卓へと座り込む昭次。
「・・おまえ、なんか昭次に吹き込んだのかっ」
「アホか、今の電話や。武、言うてたかな。昨日のやつか?」
「あのやろう、昭次になにする気だ」
「おーい、食べないの?先にいただきますよー」
張本人のんきに叫ぶ、顔を見合わせるはじめと義斗・・慌てて席へとついた。
「おい昭次。おまえなに聞いてたんさっき。おまえの話じゃないよな」
「男となんか付き合っちゃダメだぞっ」
乗り出す二人の兄をよけながら「なにいってんの」と傾げてる首。
「あっ、さっきのか?なんでもないって、忘れて。誰かなんか言えません」
「・・忍、言うた気したけどなぁ」
びくっと肩を揺らす昭次にまるわかりの二人。
「・・内緒だからな。ところで・・付き合ってもいいの、男同士?」
話が通ったところで自分の疑問には正直な昭次、どうなんだよと興味津々。
昭次の純粋な悩みに苦悩する兄たち、思わず顔を見合わせる。
「おい、おまえの兄ちゃん初仕事。頼んだぞ。オレは、しらん」
逃げるようにごはんをよそいに行ってしまうはじめを睨みながら、見つめる昭次に頭を抱える。
「どうせいちゅうんじゃ・・で、昭次はそれ聞いてどうすんの?」
「えっ?べつに気になっただけだよ。忍に悪いことさせられないでしょ?」
他意はない様子、ホントにわからないだけらしい・・どんだけ、純なんだよおまえは。
大きくため息をついて昭次の肩を叩く義斗。
「・・悪いことやないから、そっとしとくのがいいんじゃないかな・・はぁ」
「そうだよね。人を好きになるのは自由だもんね、わかった。そっと見守ってる」
にっこりと、まぶしい笑顔につられて笑うしかない兄たちだった。
こうして小さな悩みを抱えながらも運命は進んでいく。
いつまでもそれぞれの家族とともに、絆を深めながら―――