エピソード1 ― 3・昭次と俊と忍
家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。
「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。
「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。
「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。
「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。
「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。
加賀家の次男、加賀昭次。
部活がやっとで終わり、日も陰ってきていた。
なんか今日は長く感じてしまった・・実は兄ちゃんのご馳走は楽しみだったり、する。
お腹も準備万端。
「じゃあな、また明日」
にやけそうな顔を隠しながら友へと挨拶を交わす。
「昭次、そこ寄ってくけど行かないのか?」
声をかけてくるのは親友の相田武。
いつもなら喜んで着いていく寄り道も今日は、なしかな・・
「ごめん、今日はちょっと時間ないから。またにする」
「わかった、じゃあなまた明日」
「昭次ぃ、明日宿題見せてねぇ」
その横でちゃっかりとそんなことを言っているのは、武威直人。
いつも三人でつるんでいるくされ縁。
「バーカ、そんなもん自分でやってこいっ」
「バカなんでわかりませーん」
「オレも、よろしくー」
便乗して武までも捨て台詞、じゃあなぁと笑い声が遠のいてく。
すぐ人を頼りにするやつら、それでも貸してしまう自分も甘いよなぁと一人笑いながら家路と向かった。
「ちょっと遅くなっちゃったなぁ、手伝いしようと思ってたけどもう遅いか?」
暗くなっていく空に急ぎ足になってく、周りをあまり見ていなかったようで・・前から来た人と肩がぶつかってしまった。
「いてっ。どこ見て歩いてだよ」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと急いでたんで、ごめんなさい」
少し悪そうな人・・やばいかも、この辺りちょっと夜は治安が悪いんだった。
素直に謝り、逃げようとしたところ・・
「ちょっと待てって。誠意が感じられんなぁ、こっち来てくれる?」
「ほんまやで、最近のお子様は。あー肩痛いわぁ」
「ちょ、ちょっとー。痛いって大袈裟だろ、オレと同じ力でぶつかったのに。それにちゃんと謝ったでしょ?」
急いでいるのと、理不尽な態度に思わず口答えをしてしまい・・しまったと、思ったのは遅かった。
「ほんまに生意気やなこいつ。どうしよか?」
「待て。もっと奥行ってからや、人目につく」
引きづられるように腕を取られ・・二人に捕まえられ逃げようにも離れない。
「離せよっ!ちょっとぶつかっただけだろっ」
勢いで払ってしまう腕にさらに怒り出すやつら、これはちょっとただでは済まない予感。
ケンカなんて、したことないが・・ただでやられるわけにはいかない、でしょ男の子が。
「・・た、たいへんやっ」
小さな声でアタふたとしているのは、昭次の後ろを歩いていた同級生、井川忍。
助けようにもまったくそんな力のない普通の子、それよりも弱そうな大人しい子。
「あれ、忍やないか?なにしてるんこんなとこで」
そこに偶然通りかかるのは病院帰りの俊と成仁だった。
「うわぁー、あっ俊兄。いいところに。助けて、悪そうなのに連れてかれて」
テンぱっていた忍は訳も告げず俊の腕を引っ張って三人が消えて行ったほうに走る。
後ろからついて行きながら成仁は思う・・こいつは誰だ?
俊さんのこと俊兄とか言ってるけど、弟か?
兄弟がいるとは聞いたことない、挨拶する間もないほど慌てていたので黙っていたけど。
辿りついたそこには、高校生を囲む二人の不良・・あいつの友達、助っ人が必要だったわけか。
「ちょ、やめ・・なよっ」
恐々と止めに入るそいつ、助けたかったのはわかるがさすがに一人では行けなかったらしい。
「あっ?なんだよてめぇは、こいつのダチか?」
「関係ない奴は口出すんじゃねぇよ、こっちの問題だろっ」
あきらかに今からやられるであろう羽交い締めにされてる。
「オレだって関係ないよ、ちょっとぶつかっただけだろっ。離せ」
予想外に強気な子、そんなこと言うとオレの経験上・・そいつら逆上だよ?
思い通りの行動で今にも殴りかかりそうなそいつらを一瞬で止めると間に入る腕。
「おいおい、いいかげんにしといたら。いい大人が二人がかりで、ケンカのしかたもしらんのか、おまえらは」
勢いよく腕を引き剥がされてびっくりしてる不良たち。
「おまえはなんなんだよ急に出てきて説教かっ。ふざけるんなっ」
「説教もしたなるわ、こんな学生相手にいじめとるやつらが目の前にいちゃ。いいかげんにしとけ」
俊さんは優しそうに見えても結構、怒らすと・・「もう大丈夫、俊兄は強いんだ」
突き飛ばされて転んでるその子に駈け寄るとその忍という子、同じことを言っていた。
俊さんの昔のことを知っている?かなり気になるところだが・・あの人を止めたほうがよさそうだな。
「ちょっと俊さん、こんなやつらほっとこうよ。もう大丈夫そうだし」
今にもケンカをはじめそうな雰囲気に声をかけるとそれがさらに火に油だったようで・・
「なに言ってやがる、なめるのもいいかげんにしとけよおまえらぁ」
同時に殴りかかって来る二人、余計なこと言ったと構えるオレを後ろに下げる俊さん。
飛びかかる二人を避けると腕を掴んで、軽く投げ飛ばしてしまった。
「やめろいうてんのがわからんのかっ。もう帰れ」
「うるせぇー・・ったぁ」
転がりながらも文句を言う不良たち。
「うるさいんわそっちじゃ、ええかげんにせんときれるでボケが。行けやっ」
あまりのすごみに無言で去って行った不良・・あの迫力には勝てないな。
オレもよく叱られたから・・怖いんだよ、マジで。
で、あの子らは・・呆然と座り込む捕まっていた子、無事でなによりだ。
次々と現れる人物についていかない頭を必死で動かす昭次、危険が去ったのは・・理解した。
かなりやばかったから、すごく助かったんだけど・・誰でしょうか、あの豹変する方は。
「ありがとう、俊兄。よかった通りかかってくれて、どうしようか思ったよ」
「あの・・あり、がとうございます」
どうもこの子、隣のクラスの・・井川くんだったか、の知り合いらしい。
オレも慌ててお礼を繋ぐ。
お礼を言うと「大丈夫か?」と優しい表情、さっきとは別人のようだ。
「加賀くん、平気?」
手を伸ばしてくれる井川くん、そんな親しくはないのだけどオレのこと知ってるみたい。
「あっ、うん・・いったぁ」
ズキンと響く足首のあたり・・どうやら突き飛ばされた時足をくじいたようで、かなり・・痛いかも。
痛さに足を押さえるオレに気づき「足、腫れてる。大丈夫?」と心配そうに見てる井川くん。
「あの、井川くんだよね。助け呼んでくれてありがとう、ホント助かったんだけど・・なのにまた迷惑かけそうで」
「いいよそんなの。それより足、歩ける?どうしよ俊兄」
ふいに話を振る、その俊兄さん・・思わずビクリ、迷惑かけて怒ってないだろうか。
そろっとそちらを見上げると困った顔で覗いていた。
「い、いいです。なんでもないですから」
思わず手をかざすと、後ろから「なんでもなくないだろ」伸びる手が足を触ると、
「うっ・・いたぁ・・い」
その手の先を辿るともう一人誰かが一緒だったようで小さく笑ってるし、なにするんですか。
「こら、なにしてんのおまえは。平気やないみたいやなぁ。ほっとけんし、送ってくか」
え?送ってくれるの?
おもわず井川くんを見るとそうしてもらおうと頷いてる。
「・・いいんですか?」
「いいも悪いも歩けないんだからしかたないだろ」
どうもこちらの方は機嫌がよくなく・・オレかなり迷惑な感じ。
ちょっと、いやかなりこれはへこむ。
「加賀、くんだっけ?気にすんなよ、迷惑なんか思ってないから。ほら背中つかまって」
勢いよく持ち上げられ、おんぶされる形・・情けないなすぎる。
「ホントすいません・・オレ、加賀昭次って言います、助かります。今日は早く帰らないといけないのに邪魔されて・・怒ってるかも、散々です」
思わす愚痴ると小さく笑う、俊兄さん・・
「それは災難、おまけにこんな怪我つきじゃ余計に怒られんか?ちゃんと説明もしたるから安心し」
「オレもついてく。オレすぐ助けにいけなくて、ごめんね」
井川くんの謝る理由がわからなく大きく首を振った。
「なんで謝るの。オレだってあんなの無理だよ。助け呼んでくれただけでホント感謝してるし。ありがとう」
笑いかけるとうれしそうに笑う井川くん、始めて話したけどとてもいい子みたい。
「まぁあそこで忍が止めに入っても犠牲者が増えただけやろうから、通りかかってホンマよかったわ。で、家はどっちかな加賀くん」
「あ、はい。もうちょっとです。あの角の家」
悠長にしゃべってる場合ではなかった、人の背中の上で。