エピソード2 ― 15・静かな朝
家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。
「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。
「加賀昭次」幼い頃の記憶がないまま兄はじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。義斗に会い段々と思い出してきている。
「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。姉を亡くし俊と二人で悲しみを抱えていく。
「大竹幸」成仁の姉、病気をわずらい亡くなる。俊と夫婦となった。
「神崎俊」幸と念願の結婚。母を幸と同じ病気で亡くしている。成仁と兄弟となった。
「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次とはじめの兄弟。小さい頃、昭次を連れ去る事件を起こしはじめとは疎遠となっていた。
「横井良」俊と昔暴走族のチームで一緒だった仲間。今も強さに慕っている。ケンカ早い。
「稲葉聡」俊の仲間。暴れる俊と横井のスットパー役だった。ケンカは強いがやさしい人。
「真田幸司」義斗の族仲間。冷静で落ち着いた性格。
「伊藤和弘」真田と共に義斗を支える仲間。ケンカが大好きで明るい人。
静かに訪れた朝―――
はじめがじっと見下ろしてる先には・・気持ちよさそうに寝ている二人の姿。
独占欲の強さ、二人の思いは小さい頃からわかっていたつもりだが・・目の辺りにすると、どうにも腹が立って仕方ない。
おもいきり義斗を蹴り起こす。
「・・ん、なんじゃ?」
「なんだじゃねぇよ・・うちの弟になにしてんだ」
寝ぼけ眼に義斗は見た状態は、腕に寝ている昭次の姿。
「こ、こりゃ・・オレのせいや、ないやろ」
焦って起き上がる義斗、勢いで昭次が転がった。
「・・おっ、なに?なんか、痛い・・」
「昭ちゃん・・大丈夫か?顔色は、ええみたい。よかった」
昭次を見下ろしてほっとしてる俊、身体を起こし笑顔の昭次。
「おはようございます。すごく気分いいよぉいっぱい寝たし・・で、なにやってんの二人は」
にらみ合ってるはじめと義斗に気づいて首を傾げてる昭次。
昭次ののんびり顔に小さくため息のはじめ、この苛立ちは義斗へとむけられる。
「おまえねぇ・・兄ちゃんの心配全然わかってないな。義斗、やっぱりおまえが悪いっ」
「はいはい、そうやそうや。神崎ぃ、腹へったぁ。なんかない?」
「おまえはっ!遠慮ってものを知らないのかっ。話すんでねぇぞ」
義斗に掴みかかるはじめ、その間に入り止める昭次。
「朝からケンカするなよぉ。兄ちゃん最近怒りっぽいな・・オレのせいか」
「おまえらの、せいだ。もうオレが結論出せばすむってことだろ・・義斗おまえの部屋は自分で作れよ。手伝わねぇからな」
意味のわからない様子の義斗、昭次は一瞬考えて悟り問いただす。
「え?それって、義斗さんも一緒に住んでいいってこと?」
「・・まぁ、お前がいいなら。しかたねぇだろもう」
「いいに決まってるよぉ。いいでしょ、義斗さん。来てくれるでしょ?」
飛び跳ねて喜んでる昭次の横で複雑そうに顔をしかめてる義斗。
「・・オレは」
ふんぎりのつかない義斗にはじめが挑発しだす。
「なんだよ、おまえ怖いとか?まだ自分に自信ないって?」
「そんなんやない。なんもせんぞオレはもう、絶対に」
まんまと挑発にのる義斗に、小さく笑いながら兄の顔をするはじめ。
「なら、いいだろ。昭次のためだと思って・・素直に喜べ」
並ぶ二人の笑顔に、うれしくないはずはなかった・・ずっとあこがれていた家族との暮らし。
素直には行かないにしても、昭次のためだと言われたら断る理由はない。
「しゃあないのぉ。そこまで言うなら、住んだるわ」
調子にのるなよとはじめに睨まれるも、うれしそうな昭次に緩んでしまう義斗の顔。
「マジか。またうるさなるやん・・ええんか、チームは」
「ええ。そろそろ潮時やったしな、怒るやろけどな真田あたりが」
「わしまで恨まれそうやわ・・まあ昭ちゃんがうれしそうやから、がまんしたるか」
軽く話しているが内心かなり複雑な心境だった、わかってくれるとは思うけど。
「・・ちゃんとしてこいよ。けじめはつけろ」
無言で頷く義斗、少し大人になったように吹っ切れた表情をしていた。
朝食を終え、あわただしかった日々が終わろうとしていた。
「一度あっちに帰るけど・・昭次、待っててくれるか?」
大きく頷きバイクに駆け寄る昭次。
「今度来た時はおかえりって迎えてあげるから。気をつけて、いってらっしゃい」
少し照れたように微笑むとポンと頭を撫で、頼むなというように手をあげて去っていく義斗。
走っていくバイクをずっと見送っている昭次の肩を抱いて微笑むはじめ。
「兄ちゃん、ありがとう」
「なにか礼言われることしたか?オレたちも、帰るか」
はじめのやさしさが、染みる・・記憶を取り戻してもやさしい兄を忘れずにすんでうれしかった。
思い切り抱きついて笑ってる昭次を、はじめも同じ気持ちで見つめていた。
「俊さん成仁くん、お世話になりましたぁ。また遊びに来てもいい?」
「いつでも来てや、待ってるから。はじめもお疲れさん」
どことなく生気を取り戻しつつある俊、騒いだかいもあったということか。
「なんかあったら呼んでくれていいからな、おつかれさま」
「ありがとう。気をつけてな」
「先輩、オレも明日はいけると思うから。またよろしくお願いします」
「おう。頼りにしてる」
ぽんと成仁の頭をなで、手を振る昭次たちを晴れやかに見送る。
お互いに、新たな出発には最適の気持ちのいい朝だった。
「昭次。おまえ、大丈夫なの、か?」
昨日倒れたこととか記憶が戻っておかしなところはないのかと、改めて聞くはじめ。
「全然。なんで?」
「おまえ、昨日話聞いてたら倒れたんだよ・・思い出すのきつかったか」
「そんなこと、ないよ・・みんな優しくて、うれしかった」
少し切なそうに笑う昭次の肩を抱く。
「・・事故のことは、どうだ・・」
「うん・・なんとなく。いいんだ、両親と兄ちゃんと一緒にいた記憶は思い出せる・・それで十分だよ。また家族と暮らせるもんね」
大きく首を振って笑顔を戻す昭次。
辛いことを思い出す必要はないから・・少しづつ感じていけるほうが昭次も楽だと思う。
「そうだな。今度こそ、仲良くな・・」
「うん。っていうか、兄ちゃんとよしくんのが心配なんですけど?」
指摘され、苦笑いのはじめ・・徐々に、やってくしかないと思います。
「そうそう、たぶん倒れたって時だと思うけどね・・オレ、お母さんに会ったよ二人の」
は?どういうこと?首を傾げてるはじめに、昭次が笑う。
「夢だと思うけど、兄ちゃんたちのこと頼むって言ってたよ」
「・・そうか。弟にそんなこと頼むなよなぁ」
どこかうれしそうに疑いもなく聞いてるはじめ、小さく笑った。
「兄ちゃん全然疑ってないね」
「うそなの?」
「ホントだよぉ。義斗さんのこと謝りにきてくれたみたい・・」
「ああ、なるほど・・許してやった、か?」
「許すもなにもないよ、謝られてあせっちゃった。でも、よくわかんないけど会えてうれしかったなぁ・・夢なのに、すごく覚えてるとこが現実っぽいんだよね」
「そうだな・・最近、なんかおかしなこと続いてたからな。あってもおかしくない・・もう大丈夫って伝わったかなぁ」
はじめは空を見上げ母に微笑んだ、今度はオレのとこ来てよ・・謝るのはオレだよ、弟のこと守ってやれなくてごめん。
やり直すから、許してくれよなかあさん。