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エピソード2 ― 13.友情

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないまま兄はじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。義斗に会い段々と思い出してきている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。姉を亡くし俊と二人で悲しみを抱えていく。

「大竹幸」成仁の姉、病気をわずらい亡くなる。俊と夫婦となった。

「神崎俊」幸と念願の結婚。母を幸と同じ病気で亡くしている。成仁と兄弟となった。

「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。

「相田武・武威直人」昭次の親友。

「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次とはじめの兄弟。小さい頃、昭次を連れ去る事件を起こしはじめとは疎遠となっていた。

「横井良」俊と昔暴走族のチームで一緒だった仲間。今も強さに慕っている。ケンカ早い。

「稲葉聡」俊の仲間。暴れる俊と横井のスットパー役だった。ケンカは強いがやさしい人。

「真田幸司」義斗の族仲間。冷静で落ち着いた性格。

「伊藤和弘」真田と共に義斗を支える仲間。ケンカが大好きで明るい人。

昭次の天然が忍の固さを紛らせてくれたよう、重い空気は和らいでいった。

そんな二人を後ろから見守っていた相田。

「なにやってんの、君たちは」


ふいにかけられる声にあわてて手を引っ込めたのは忍、またへんなこと言われたくないから。

「どーも・・話はすんだ?」

忍の困った表情に苦笑いしながら声をかける相田におざなり程度に頷く忍。

「なんか知らない間に通じてるよな話、オレだけなんか事情しらないじゃん」

相田と忍の間にいつの間にかできてる空気に首を傾げてる昭次。


「まぁちょっとなぁ。井川はそれでいいんだよな」

「それでってどういう意味だ武くん。いいよねぇ忍」 

「ね。いいんだ、昭次と友達になれるんなら、それで・・」

相田が達也のことを言っているのがわかった忍は自分に言い聞かせるようにつぶやく。


「ならもうなにも言わないけど・・」

相田は達也のことを言いたかったが、もう言う必要はない気もした。

後ろでじっと見ていた武威が、抑えられず言葉を発した。

「治まったのならいいけどよ、おまえ達也ってやつに連絡とろよ。気にしてんだから、まだ・・」

「おい直人、言わなくていいって」

「けど、なんかすっきりしてねぇじゃん。昭次は達也にはなれないんだからなっ」

達也の想いを知ってしまい、忍の態度に釈然としない武威

「な、わかってるよそんなこと。あいつと昭次はまったく違う、変わりになんかしてない。もういいって言ってるだろっ」


「・・もうやめたれや。忍が決めたことやろ、好きにさせたれ」

大きな声に集まってくる兄たち、義斗が割って入る。


「義斗さん・・聞いてたんですか」

「聞こえるわ、そんなでかい声で話しとれば」

「どうしたんや、ケンカはいかんで」

「おまえ武威ってったけ、騒ぐんならうちに帰ってからにしてくれよ」


ふいにでかい人たちに囲まれて後ずさる武威。

「・・すいません。でかい声出して。昭次、オレ帰る・・ごめんな」

「ちょ、なんで。まだいいじゃん、直人っ」

出て行ってしまう武威を追いかけようとしてつまずく昭次。


「大丈夫か、なにやってんだおまえらは。人のうち来てケンカしてんなよ」

「ケンカなんかしてないけど。どうなってんの忍。武もなんか知ってんの?」

巻き込むなよというように二人を見つめる昭次に、小さくなってる忍。


相田は小さくため息をつき忍を覗き込む。

「・・井川、昭次には言ってもいいよな。というより言うぞ」

無言のままの忍に、話を進めていくことにした相田。


「昭次・・こいつのうわさ知ってるよな」

「一応。けど違うって」

下を向いたままの忍を心配しながら、話は気になり小さく呟く。

「そう、違う。こいつがなにかしたわけじゃなくて離れてったのは相手のほうで。こいつは被害者ってこと、まあ井川も行き過ぎてたところもあったんだろうけど」

素直な感想を告げると睨んでる忍、昭次の視線にはっと動けなくなった。


「それから、怖くて友達作れなくなってたってわけだ」

相田がフォローするようにできるだけ軽く告げた。

「・・達也、あいつのことはもう今日解決したんだ、謝りにきてくれて・・オレの間違いだったから」

視線をそらすように小さくなる忍、小さな声で付け加える。


「あいつ、戻りたいって言ってたぞ・・自分が勝手なことしたから言えなかったみたいで。おまえの誤解は解けたんだ、井川のおまえの気持ちしだいでどうにでもなるってこと」

「え?」

相田の言葉に小さく揺れる忍の瞳。


「・・昭次、おまえどう思う?」

ふいに話をふられ、なんでオレに聞くんだよと思いながらもすがるような忍の目にしばし考えた。


「オレはよくわかんないけど、そいつと友達にもどりたいならそうするのがいいと思う。そんなに悩むことじゃなくない?友達は一生ものでしょ」


「・・オレは昭次みたいに器用じゃないから、たくさん友達なんてできないよ」

「なんで、一緒にいるのだけが友達と違うでしょ。辛い時に電話一本できるような人のことだよ。俊さんと義斗さんみたいになりたいって言ってたじゃん。そういうことだと思うよ・・オレはもうおまえが困ってたら助けに行ける」

「・・昭次」


昭次の言葉に小さく笑う相田、こいつにかかるとなんでも簡単にいくような気がしてくる。

そんな単純でもないんだけどね今回のは。

「まあそういうことだな、昭次が行くならオレも、直人だって行くだろうし。今一番困ってるのは、達也ってことになる。直人のことは許してやってよ達也の本音聞いて戸惑ってんだよ」


達也の書いたメールを見せる相田、じっと見つめてる忍の目にたまっていく涙・・


「オレは器用じゃないよ、なりたい人と友達になってるだけ。忍の入る場所くらい十分あるから。来たい時に来たらいいんだよ」

「・・うん、うん」


後ろで見守っていた大人たち、その笑顔にほっとしたように小さく微笑んでいた。

「昭次くん、すごいやん。はじめの教育のたまものか?」

「なんでよ、オレもあんなこと言えません。誰に似たんだか」

「こいつじゃないことはたしかじゃなぁ」

義斗を指さし笑う俊、無言のまま小突き合いが始まった・・


「おまえら、ケンカは外でやれ。まったくどこがいいんだか忍くんはこんなのの」

はじめがあきれたようにため息をつくと、反応するのは俊。

「こんなのって、オレも入ってるんかなぁそりゃ。おまえも来いや一緒につぶしたる」


「ちょ、オレはいいって。巻き込むなぁ」


はじめの首を引き寄せて義斗共々、隣で寝ているみんなの上に勢いよく飛んでいく。

なだれ込む俊たちに成仁もつぶされ飛び起きた。

「い、ったぁー・・なん、なに・・地震?」

きょろきょろと見渡す視界に暴れてる人たちの姿、なにしてるんだか。


「てめぇ、寝込み襲うとはどういう了見じゃっ!」

思い切りおなかをけられて起き上がる真田。

「・・いったぁ、関ぃやるんかぁこらぁ」

横井もうれしそうに立ち上がり騒がしい中へと入っていく。

稲葉は寝ぼけ眼で本能ではじによけ大きなあくびをしていた、被害を受けなかった伊藤うるさい中平然と眠っている。


「あっ、成仁くん。こっち、巻き添えにあうよっ」

ぼけっと見ている成仁を昭次が引っ張り騒ぎから逃げる。


「なにしてんだよ。はじめさんまで・・」

逃げ込んだ隣の部屋には学生たちがびっくりしながら見学していた。


「・・どうなってんの、誰よあの人ら」

「兄ちゃんは巻き添えみたい、かわいそうに。あの人たちは義斗さんと俊さんのケンカ仲間、かな」

いたそうと苦い顔をしながら昭次が相田たちに説明中。


「あれ誰?しかもなんか泣いてるし忍くん、どうしたの。オレが寝てる間にいったいなにが」

「あ、お邪魔してます。相田武です。昭次のツレで、ちょっとこいつらに話あってよらせてもらいました。大変な時にすいません」

「ああ、こちらこそ。昭次くん借りてました。オレ大竹、大竹成仁ね。ゆっくりしてってよ」


二人のやり取りに小さく笑う昭次、つながりができるってすごいなぁって思う。

自己紹介も終え、忍のことやケンカになった理由を説明すると納得したように聞いてる成仁。


「たしかにあんなケンカばっかしてる二人みたくなりたいってのは疑問だけど、ああいうのもありかな。忍くん、そんなことで泣くなよな男の子が」

「泣いてなんかないよ、それよりいいの、あれは・・」


いつの間にやらエスカレートしてる人たち・・家が揺れていた。

「いいかげん止めないと家が壊れる・・こらぁー、もうやめろって」

恐れなく俊たちの間に入っていく成仁、はじめも手伝って手際よくみんなをはがしていく。


「うわぁ、成仁くんも迫力。度胸あるなぁあそこに入ってくなんて」

「葬式に見えんなこの家は」

ぽそりと呟く武にホントだなぁと昭次は思う、あんなに沈んでいた世界が変っていく・・幸さんも喜んでくれてたらいいよね。


「・・井川、どうするんだ達也のこと」

ふいに戻る話、忍は難しい顔をしてため息をついた。

「わかんない。もう一回会って話す・・会ってみないとわからんないよ」

「会うのか?気をつけろよ、切羽詰った男はなにするかわかんねぇぞ・・」

相田の言葉に首を傾げてる忍、そんな姿に小さく吹き出してる相田。

「さすがに、ないかな。あいつに限って」

「なに言ってんだよさっきから。昭次、いろいろごめんな。今日はもう帰るよ、達也に電話する」


すっきりした表情で告げる忍に駆け寄る昭次。

「ホント。がんばって、戻れるように応援してる」

「うん、ありがとう。昭次のほうもすっきりしなよ、兄ちゃんたちのこと」

問題山積みなのはオレのほうかと苦笑いを浮かべて頷く昭次。


「そうだね・・お互い気合入れて、がんばろ」

「うん。俊兄たちにもよろしく言っといて。取り込み中みたいだからさ」

じゃあねと帰っていく忍、見送り外に出た昭次と相田。


「さっきなにを気をつけろって言ってたの?危ないやつなのかよ」

気になっていた言葉、暴力とか許せないよ。

相田は、一瞬間を置き・・小さく首を振る。

「・・おまえには、きっと理解できないよ・・そういや昭次って好きな子っていたっけ?」

「いきなりなんの話だよ、いないよ別に」

「いないよなぁ、やっぱりおまえには難しい話だしそれどころじゃないだろ。もう一人の兄ちゃんのことわかったら教えてくれよ。がんばるってそのことだろ?」


いまいち腑に落ちないが確かに他のこと考えてる余裕はないかも。

「わかった・・なに、帰るの?」

「おう。もう話もすんだし、おまえも元気そうだから。直人んとこでもよってく」

「そうだな、機嫌直せって言っといて」


相田を見送り部屋に戻ると、静かになっていた。

「ケンカすんだ?」


倒れこむみんなを眺めて笑ってる昭次にはじめがぼやく。

「もうケンカなんかにつきあわんぞ。昭次、なんかくれ水」

「はあ息上がっとんのかいな、おやじやのぉ。若さには勝てんか」

義斗の言葉に無言でケリを入れるはじめ。

「・・昭次。このおっさんケリよった、怒ったってくれや」

「はい、水。なに言ってんだよ、さっきまでケンカしてた人が。ああみんなすごい顔になってるよぉ」

よく見ると血が出てるし、腫れてるし・・そんな本気でやらなくても。

あきれてる昭次に苦笑いの義斗。


「はい、手当ては自分でしろよ。ふすまもちゃんと直して。今度からは外でやれよ」


「つめたいなぁ成仁。オレは巻き添えくっただけなのに」

「十分やってたよ。あきれてるよ昭次くん」

はっと昭次を見るはじめ、楽しそうに笑っていた。


「わかってるって、収まってよかった。けどこんなケンカならいいんじゃない、陰湿なのより全然いいよ・・」

義斗とはじめを見ながら思う、初めに会った時のこと思えばよくなったほうだと思う・・オレのせいでケンカしてるんと思うと余計辛いし。

男はぶつかったほうがいい、みんな見てるとよくわかる。


しばらく寝転んで休んでいた横井と稲葉が立ち上がり大きく伸びをすると、俊に声をかけた。

「ほんならわしらはそろそろ帰るわ」 

「まだええぞ。泊まってってくれても」

「そこまで図々しくできんし、また改めて寄らせてもらいます。今度は連絡くださいよ」

少し寂しそうに稲葉、そんな親友の二人に心から感謝し御礼を告げる俊。

「・・わかった、今日はホンマありがとう。みんなに紹介できてよかった・・」


「おまえらもよう来てくれたな、オレは明日帰るし。みんなに言っといてくれや」

それに習うように義斗も伊藤と真田に挨拶を交わすと、えーっとふててる伊藤。

「なんじゃ、わしらも帰るんかぁ」

「暴れたりんわ、神崎もたまには帰ってこいや。またやろうで」

真田が伊藤の襟をつかみ外へと押し出した、しぶしぶバイクへとまたがり騒ぐ。

「ホンマやで。こんかったらこっちから行くからな」

「おう。ゆっくりできたらな」

笑いながら答える俊、走り去っていくバイクを見送った。


バイクに乗り込み帰り際、真田が義斗に近づいて小さく呟く。

「・・おまえ気をつけぇよ」

「なにがや・・」

「気づいてへんかもしれんけど、おまえ昭次くんのことえらい目で見てるで・・ケンカする時の切れたような目で」

一瞬、わからない程度に息を飲み、なんでもないように答える義斗。

「・・気のせいやろ、なんでオレがそんな目で昭次見るんや」

「ならええが・・弟やるようなことにならんようにの。雰囲気おかしいで、おまえら」


遅れて走り出す真田のバイクの音を聞きながら義斗はゆっくりと、瞳を閉じる。

ちょっとしかオレたちのことを見ていない真田に指摘されたこと・・近くに居てはいけないのだろうか、静かに感じ空を仰いだ。


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