エピソード2 ― 12.ともしび
家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。
「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。
「加賀昭次」幼い頃の記憶がないまま兄はじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。義斗に会い段々と思い出してきている。
「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。姉を亡くし俊と二人で悲しみを抱えていく。
「大竹幸」成仁の姉、病気をわずらい亡くなる。俊と夫婦となった。
「神崎俊」幸と念願の結婚。母を幸と同じ病気で亡くしている。成仁と兄弟となった。
「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。
「相田武・武威直人」昭次の親友。
「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次とはじめの兄弟。小さい頃、昭次を連れ去る事件を起こしはじめとは疎遠となっていた。
「横井良」俊と昔暴走族のチームで一緒だった仲間。今も強さに慕っている。ケンカ早い。
「稲葉聡」俊の仲間。暴れる俊と横井のスットパー役だった。ケンカは強いがやさしい人。
「真田幸司」義斗の族仲間。冷静で落ち着いた性格。
「伊藤和弘」真田と共に義斗を支える仲間。ケンカが大好きで明るい人。
火葬場からそれぞれの移動手段で連なるように大竹家へ・・
一気に騒がしくなる静まっていた家、明かりが灯るように感じた。
「俊さん、お寿司きたよ。手伝って」
頼んでおいた食事が届き玄関先、成仁の大きな声が響くと駆け寄る昭次。
「オレ持ってく。中運べばいい?」
「昭次くんはいいって。オレ手伝うから」
手持ち無沙汰な昭次がなにかやりたくて動き回る、が足の調子が悪いためかばわれて拗ねてる。
「サンキュ。これ持ってって。もう食ってていいから、みんなにも伝えて」
「わかりました」
張り切ってかけていく忍を眺めため息をつく昭次。
「何でこんな時にケガしてんだろ、最悪。手伝えもできないよ」
「昭次、じゃま。座ってろよ、これ持ってって」
「邪魔はなくない?もう、わかったよ」
本当に邪魔そうなのであきらめて座り込む昭次を笑う声。
「追い出されたんかぁ、座ってたらいいのに」
まるで自分の家のようにくつろいでる稲葉たち。
「なんかしたかったんです、邪魔とか言われた。ひどいよなぁ」
「兄ちゃんに任せとったらええ。こっちの人は動こうともせえへんぞ」
出された料理をつまみながら義斗がオレに振るなと睨む。
「・・やりたいやつにやらせときゃええやろ。オレは客や」
「義斗が手伝ってたら怖いわ」
「手伝えるかよ、なんもできへんやろ義」
横槍の親しい仲間、伊藤と真田の突っ込みに蹴りを入れる義斗。
「やかましい、やらんだけや。それより足まだあかんか、昭次」
「まだ、ちょっとダメみたい。体重かけると痛いから」
松葉杖はさすがにもういらないくらいなのだが、普通には歩けない状態。
「どうしたんそれ。こけた?」
実はさっきから足の引きづりに気づいていた稲葉、話題に乗り出す。
「そんなドジじゃないですよぉ。稲葉さんたちみたいな人に絡まれてやられました」
笑いながら告げる昭次に、一瞬ぽかんとした稲葉が皆と顔を見合わせ吹き出す。
「わしらみたいなのってのはどういうことかの昭次くん、このやろっ」
首をつかまれ抱えられる昭次、笑いながら怒ってる稲葉。
「冗談ですって。ぶつかっただけで殴ろうとかしないですよね稲葉さんたちは」
どうですか?というように笑う昭次。
「そんなん、するわけないやんかぁ。オレはな、あいつらはやるかも」
指を指される義斗たち、思い切りその手をたたかれてる。
「そんで、大丈夫やったんか?ケンカして勝ったんか」
「オレはしてないよケンカ」
「どういうことよ、そういうのに絡まれてただで帰れるわけあらへんやろ。逃げたんやなぁ」
「逃げてないよぉ、やられたらやり返すくらいできてたと思う。たぶん」
おぉっと声を上げるみんな、根性あるやんと笑う。
「俊さんに助けてもらったんです。ホント偶然。そこで知り合ったんですけど」
「そりゃよかったわ。気をつけなあかんで。ずっと関か俊についてたらええわ」
俊らしい出会い方やと笑う稲葉、あいつはなんかそういうの多い気するわ。
「なんの話してんの、ついてたらって。ほら、はじめ作。うまいで」
お盆に料理を乗せて俊が運んできた、その姿に吹き出してる横井と稲葉を睨みつける俊。
視線をそらして苦笑いの横井。
「いやの、昭次くん守ったれ言う話。世の中危ないやつら多いからの」
「そりゃおまえらのことか?なぁ、昭ちゃん。気をつけなかんで、危険人物やからな」
「おまえだけには言われたないわ」
楽しそうににらみ合って笑ってる俊、その姿に昭次は心から笑った・・
ずっと気が張っていたと思うからみんな来てくれて本当によかったと思う、心を許せる関係って大事なのだと改めて感じた。
騒ぎの中、昭次の携帯が鳴り響く・・表示を見ると相田武から。
「もしもし、武?どうしたぁ」
席を立ち廊下に向かう昭次、それを見て相田の名に顔を引きつらせてるのは忍。
・・いろいろあって忘れるところだった、達也との約束・・半分くらいはいけてる気もするけど、今日は特別な気がする・・ちゃんと、しなきゃ。
そんな忍には気づかず、親友との会話を続ける昭次。
「もう学校終わる時間なんだ、気づかなかった」
『のんきな奴だな、サボりが。で、どこにいんの。今おまえの家まで来てるんだけど』
「えっ、オレんち?なんで。今日は友達のとこの葬式なんだよ。で休んだの、サボりじゃないって」
『マジか。そりゃ邪魔したか』
「大丈夫、一息ついてるとこ。近くだからちょっと来てよ」
『関係ないやつが行けるかよ。いいって今日は帰るし』
「家に来るくらいな用事なんだろ、気になるじゃん」
『・・話は大事だけど。武威も一緒だぞ、いいのか?』
「ちょっと待って、聞いてみる」
電話を押えて俊のところへ走った、キッチンで兄の手伝いをしてる様子。
「俊さん、今うちに友達きてるみたいなんですけど、呼んでもいいですか?」
「約束あったんか?ええから呼びな、食うもんなくなっちゃうぞ」
忙しそうな俊に遠慮がちに告げるとすんなり返ってくる声。
「約束してたわけじゃないですけど、すんません。ちょっとだけ話あるみたいで」
「そうか、ええよ。そうじゃ、迎えにいってこか?場所しらんやろ」
「いいですよそんな。教えたら自分たちでこれるから」
「自分は迷ってたのに、か。ええ、オレが行ってきたるわ」
ふいに義斗が話に入ってきた、昭次の後ろに立ちバイクの鍵を鳴らす。
『おーい、昭次。無理しなくていいって。明日でもいいから』
「あっ、悪い。いいって。あの、今からオレの兄が迎えに行ってくれるから。待ってて・・あっ、よし・・」
中途半端に電話を切られて、相田は呆然と携帯を見つめていた。
加賀家の玄関先、相田は武威へと困った顔を向けた。
「・・昭次の兄ちゃんが、迎えにくるって」
「マジで?オレあんま知らないんだけど、なんでそんなことに」
さぁと腕を上げる仕草。
「昭次には早く伝えたかったけど、そこまでしなくてもなぁ・・なんかごたごたしてるみたいだったぞ電話で」
言い知れぬ不安が小さく二人を包む、なんだか嫌な予感。
暇だったのか返事も聞かずにすでに玄関へ向かう義斗を追いかける昭次。
「義斗さん、ごめんホントにいいの?」
昭次の呼びかけに、一瞬その瞳を見つめ小さく息を吐く。
「・・好きに呼んでええから。よし、くんでもええし。おまえなら、許したる」
バイクにまたがりながら独り言のように呟く義斗、下を向いたまま上がらない頭は照れているのか・・そんな気遣いが昭次はうれしかった。
「・・気にしてくれてたんだ、ありがとう。じゃ義兄って呼んでもいい?」
気持ちのままお礼を言うと、考えていた呼び名を告げてみた。
少し驚いて顔を上げる義斗、伸ばす手が昭次の頭を撫でた。
「兄って呼んでほしかったんや・・願い叶ったわ、サンキュ」
小さく言うと走っていくバイク、その表情は・・うれしそうに笑っていた。
そんな顔を見れたことがすごくうれしくて顔の筋肉が緩んでく。
「よしにい・・うん、いい感じ」
上機嫌の昭次、行く先に待つ親友に大事なことを言い忘れている・・それさえも忘れていた。
加賀家の前、どうするよと嘆きながら帰るわけにも行かずおとなしく昭次の兄を待っていた。
ふいに相田たちの前で一台のバイクが止まった・・
じっと見ているそのバイクの男、何事かと顔を見合わせる二人。
「・・おまえら昭次の友達?」
知った名を告げられびっくりして後ずさる。
「・・えっ。そ、そうですけど。え?この人がお兄さん?」
武威は兄をあまり見たことがないようで、相田に問いかけるも違うよと小さく首を振る。
「昭次にお兄さん待っるよう言われてます、が」
この人は昭次の兄ではないのは見ればわかる、オレは結構一緒に遊んでもらってるし。
「それオレのこと・・昭次に頼まれた。しかし二人とは、乗れるか?」
後ろを見ながら体格と計算してるように呟く義斗を不振に見てる相田。
「お兄さんが来てくれるはずなんですけど、知ってます?」
「ああ、はじめのことか?あいつは忙しくてな・・代理。後ろ乗って、乗らんのなら歩いてついてくるか?」
ためらいながらもはじめさんのことを知ってるし昭次に頼まれたって言ってるし、なにより怖そうなこの人に逆らう気にはなれずおずおずとバイクにまたがった。
相田と武威はもっとつめろよとケンカしながらしがみついてる。
「しっかりつかまっとれ。ゆっくり行ったるからよ」
言う間もなく走り出すバイク、義斗にとってはひどくゆっくりなのだが・・
後ろの二人はそのスピードに硬直、必死に義斗にしがみつく、怖いなんていってられない状況。
一瞬の間にたどり着く目的地。
「ついたぞ。おーい、大丈夫かおまえら・・」
「・・ゆ、ゆっくり、って言ったのに」
「むちゃ早いって・・頼みますよ、もう。あーこわ」
しがみついたまま固まってる二人を笑ってる義斗。
「なに言ってんのや、むちゃゆっくりやったやろ」
「おかえりなさい、義兄。ありがとぉ」
バイクの音に気づいて出てきた昭次、三人の様子に少し驚いていた。
「おう。なんかつぶれてるからどうにかしたって」
さっきと変らない笑顔につられて笑顔の昭次、そんな昭次に二人は飛び掛る勢い。
「おいっ昭次!誰よこの人は。びっくりするだろがっ」
「おまえ、今この人のこと、よしにい、って呼んだ?兄ちゃん?」
二人の驚きは違う位置、どちらも驚いたことで言いながら顔を見合わせると昭次を見る。
昭次はなんでもないふうに言葉を告げた。
「兄ちゃんが迎えに行くって言ったよな。オレの兄ちゃん、義斗さん」
兄がもう一人いる、今までそんな話は聞いたことなかった相田は首を傾げた。
「混乱するから言わんかったのに。自分で言ってるし」
「いいんだ、こいつらには隠し事したくない」
「・・ならええけど、先行くで」
何か言いたそうな義斗、行ってしまう背中を見つめる昭次、はっと背後の気配に我に返った。
「本当に兄ちゃんなのか?聞いたことないけど」
「オレも」
昭次の同意に、は?と聞き返す二人。
「オレも知らなかったの。小さい時離れてそれ以来会ってなかったんだって。びっくりだよ」
「びっくりって・・簡単だなぁ昭次よぉ」
「簡単ってこともないけどな、まだなにも知らないし・・これから教えてもらう」
苦笑いの昭次に、それ以上聞くことがためらわれた。
空気を読み話を変える相田。
「そっちのことはわかったらまた教えてな、結構気になる」
そのやさしさに甘え小さく頷く昭次。
「とりあえず今日の用事・・おまえ今日井川と会った?」
「えっ、なんで?忍くんなら中にいるけど。亡くなった人つながりあってさ」
「え?ここに。いないと思ったら、でなんか話聞いたか?」
「え、っと・・聞いてない。なんか用あっただやっぱり。オレちょっと取り込んでて、とにかく中に入ろ。今聞くわ」
相田たちの少し神妙な顔に、大事なことだったんだと感じた。
自分のことでいっぱいだったといえ、オレのこと探してくれてたみたいだったのに・・
「あっ、いらっしゃい。昭ちゃんも早く食わな全部食われるぞ。君らもどうぞ」
優しい笑顔で迎えてくれる俊におずおずと頭を下げる相田と武威。
「・・あの人が亡くなった人の?」
「そう、俊さん」
部屋の中に入っていくと幸の位牌に気づく相田。
「オレ、お線香あげさせてもらうよ・・聞いてくる」
「あっ、オレも」
律儀な性格の相田、つられるように武威もついて俊のところへ走っていく二人。
昭次は忍を見つけ近寄った、側には義斗が一人。
「あれ、みんなは?」
「慣れないことに疲れたみたい、向こうでつぶれてる」
見ると隣の部屋で何人も転がっていた、思わず吹き出す昭次。
「そうか、たしかに疲れたかも・・」
「昭次くんは大丈夫なの?足痛いのにあんま歩かないほうが・・あっ、相田くんたち来たんだ」
ふと顔を上げ見つけた相田にピクリと体を震わす忍。
あいつらとなんかあったのか?それが話したかったのかもと連れて来たことを少し後悔。
「・・あっ、なんか話あったんだよね。ごめん、今頃。聞いていい?」
はっと目を見開く忍、一瞬静まる部屋。
気をきかせてか義斗が腰をあげたのを合図かというように、口を開く忍。
「あの。改めて、今頃言うのもあれなんだけど・・オレと、友達になってほしい」
忍の言葉に、一瞬何を言ってるの?と首を傾げてしまう昭次。
「友達って・・もう友達だと思ってたけど、違った?」
思わず聞き返してしまう昭次に、忍はその言葉にゆっくりと笑顔を見せた。
「うん、オレも思ってる。ありがとう」
友達と思ってくれてる、それだけでうれしくて満足してしまいそう。
「オレ・・兄弟っていないから憧れてて、そういう特別な存在になりたいって思って」
不安そうに続ける忍の言葉に、じっと見つめながら昭次は思う。
兄弟か、たしかにそういうの特別って思うのわかる・・今だからってわけじゃない、はじめ兄ちゃんとだってそうだったから。
でも、友達をそう感じたことはないんだよね・・武たちとだって。
ああ、そうか。深く考えすぎなんだって、きっと。
「じゃ、まず呼び方とかからでいいんじゃない?しのぶと、しょうじ」
「しょうじ?・・」
「そう、そういうのって自然にできてくものだと思うから。これからもよろしくな」
はい握手、差し出す手とオレの顔を交互に見て勢いよく両手が包み込む。
何度もうなづいてうれしそうな忍に、オレもうれしくなってくる。
「・・よかったな。今度は逃げられんように気をつけんとな」
窓の外を眺めていた義斗、事情を聞いていただけにふいに忍へ向ける意地悪な言葉。
「義斗さんっ、余計なこと言わないでよっ」
びくりと体をはねさせて反論の忍を笑いながら部屋を出て行く義斗。
そんなやり取りに首を傾げてる昭次。
「なに?・・もしかして、うわさのこと気にしてたとか?」
ピクリと肩を震わせる忍、悲しそうに顔を上げる。
「・・やっぱり、知ってたよね。けどそれ違うから、オレはそんなことしてないしっ」
必死に弁解する忍の手をもう一度強く握り締めた、強く頷く昭次の瞳は分かってるよと言ってくれてるような気がして・・忍はぎゅっと手に力を込める。
「昭次くんと本当に仲良くしたいだけで、俊兄と義斗さんみたいに」
「うん、それわかる。オレもあの二人みたいな関係好きだよ。ケンカはしたくないけど」
「ケンカは嫌だよね」
笑いながら泣きそうな表情の忍に、精一杯笑顔を向ける昭次だった。