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エピソード2 ― 9.再会

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないまま兄はじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。義斗に会い段々と思い出してきている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。姉を亡くし俊と二人で悲しみを抱えていく。

「大竹幸」成仁の姉、病気をわずらい亡くなる。俊と夫婦となった。

「神崎俊」幸と念願の結婚。母を幸と同じ病気で亡くしている。成仁と兄弟となった。

「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。

「相田武・武威直人」昭次の親友。

「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次とはじめの兄弟。小さい頃、昭次を連れ去る事件を起こしはじめとは疎遠となっていた。

「横井良」俊と昔暴走族のチームで一緒だった仲間。今も強さに慕っている。ケンカ早い。

「稲葉聡」俊の仲間。暴れる俊と横井のスットパー役だった。ケンカは強いがやさしい人。

「真田幸司」義斗の族仲間。冷静で落ち着いた性格。

「伊藤和弘」真田と共に義斗を支える仲間。ケンカが大好きで明るい人。

大竹幸を送るため、火葬の扉の前で立ち尽くす成仁と俊。


「・・行っちゃった」

小さく呟く成仁の声、静まる部屋に響く。

「・・そうじゃな」

受け取るように俊も呟く。


「これから・・オレどうしよう・・」

「そんな心配はいらへん・・今までどおり、おればええ」

小さく、しかし力強く語る俊、その手の中には忘れ形見の指輪が光っていた。


「これはおまえが持っててくれや・・幸もそれを望んでる」

涙が小さく光る、頷き受け取ると・・小指に嵌め、握り締めた。



火葬場の駐車場にバイクを並べて立ち上る煙を見つめている義斗たち。

複雑な表情で並ぶのは、電話で真相を知った地元の仲間。


「神崎さん・・えらいことになっとったんですね」

どこか悲しげに呟くのは俊と一緒に走っていた側近、稲葉聡。


「オレも知らんかったわ、こっち来て初めて聞いた。薄情すぎや」

タバコをふかしながら大きくため息をつくように煙を吐くと、小さく呟く義斗。


それに続くように怒りをあらわに大きな声が響く。

「そりゃわしらのセリフや、なんで敵のおまえに教えられなあかん・・まったく俊のやろう」

義斗を睨みながら、怒りをぶつける先がわからず拳を握り締める横井良。

それを沈めるように肩を叩く稲葉、俊を支えていた二人の親友。


「・・俊さんも大変やったんよ。母親亡くして、そのあとあの人の看病とかあったんじゃないんか。オレらと遊んどる暇なかったんやろ・・」

なだめられるが反発するようにその手を払う横井、気持ちはわかると苦笑いの稲葉。


「二、三回来てたんだがな、彼女に会ったことなかった。ずっと病院やったんやろ・・」

横井の荒れにも動じず落ち着いた様子の関に、何かを感じ取り小さくため息をつく稲葉。

隣で横井は小さく舌を鳴らしていた。



「オレらは来てもよかったんか義斗・・なんや人少ないからビビるで」

神崎とは敵対していた関の親友、伊藤和弘。

少しうろたえている伊藤の隣で義斗と同じくらい落ち着いて様子を伺っているもう一人の友、真田幸司。


「ええんじゃ・・騒がしいほうが。神崎もあいつらも、気が紛れてええ」

じっとどこかを見つめ呟く義斗、その先に数人の人影・・知らない顔だとぼんやりと真田は眺めた。



しばらくすると建物から出てくる人影、俊たちだった。

義人の視線につられるように4人が視線を向けると、それに気づく俊がうつむきながら足を向けた。


「・・おまえら、久しぶりや、な。悪い、来てもうて・・」

稲葉と横井の前に立つと小さく笑う俊。

その作った笑いに抑えていたものが溢れそうになる横井を稲葉が押さえるように腕を掴む。


ふうっと息を吐き、それでも抑えられず叫ぶように返す横井の声。

「なに言ってんじゃ、もっと早く連絡せんかや。急で驚いたわ」

「・・すまん。連絡もせんようになっとったし・・あかんやろ、こんな時だけ」

プチンと切れる理性、俊の胸倉を勢いよく掴む横井・・今度は止めに入らなかった。


「本気で言っとんやったら、覚悟せえよ。わしらそんな小さい繋がりやったんかぁ、いつもみたいにドンと構えとけや」

「・・良。オレはもうおまえらの上やない・・勝手なこと言えへんやろが・・」


握った拳は俊の頬へとぶつけられた・・殴られる俊にびっくりして成仁が駆け寄る。

「なにしてんだよ、おまえっ」

ケンカ早い成仁が戦闘体勢で俊をかばうように前に立つと、睨みつけてる横井と視線がぶつかり合う。



あまりかかわりたくないと遠くで見ていたはじめ。

俊たちが合流した辺りから集団に近づき一歩引いて昭次と様子を見ていたが、


今にも手が出そうなにらみ合う二人の間へ飛び込む。

「おいっ!なにやってだ。時と場所考えろよっ」


突然入ってくる見知らぬやつにさらに機嫌を悪くする横井。

「なんやおまえらぁ、関係ないやつが入ってくるんやないわ。わしは俊と話しとんじゃ、邪魔やぁ」

挑んでくる瞳が気に障ったのか突き飛ばされるのは成仁。

「おいっ」

はじめが睨みつけ飛び出そうとすると止める手は俊のもの、成仁を受け止めると後ろから怖い顔をして立ち上がる。

「・・オレになにしようがかまわんが、こいつらに手出しするんやないわ」


「神崎さん・・変わってへんのぉ」

おだやかに割って入るのは稲葉、二人を止めるのはいつもの役目。


「自分のことより人なんよね、神崎さんは。良さんもわかってるやろ、やめとけって」

「こいつが悪いんやろが、遠慮なんかしよって・・上とか関係ないやろ、おまえはわしらのことダチや思っとらんのか」


「そんなこと聞かなきゃわかんねぇのかよ。迷惑だと思ったから連絡しなかったんだよっ」

突き飛ばされてそのままでいる成仁ではなく、横井の言葉に反論し怒鳴りつける。


「・・成仁、いいから」

今にも飛び掛りそうな成仁を抱え、やんわりと止める俊。


俊のあまり見ない表情に首を傾げる横井と稲葉。

「俊、こいつなんじゃさっきから。弟か?そんなんおるの聞いたことないが」


少し間をあけ、俊が口を開くと、

「こいつは、幸のおとう・・」

「弟だっ。オレは俊さんの弟だよ、悪いか」

言い終わる前に成仁が大きな声を出しさえぎった。


「なにムキになってんねんこいつは」

ぼそりと呟く横井に蹴りを入れながら稲葉が成仁に笑いかけた。


「神崎さん弟おったんですね、はじめまして稲葉聡です。この人は横井良、機嫌悪いんはさみしかったからやで。気にしんでな」

「な、そんなんやないわい。アホっ」

稲葉の言葉に緩和していく雰囲気、はじめはいぶかしげに見渡し小さくため息をつく。


「・・俊も、そっちもあとでちゃんと話しろよ。今は幸さんのこと送る時だろ?もう終わる頃だ・・迎えに行ってこい。オレたちはここで待ってるから」

火葬場の煙を見上げて「悪い」と呟き背を向ける俊、じっと視線をぶつけていた成仁もおとなしく後を追う。


残された場にはどこかおかしな空気が流れていた・・


大きなため息が静まった空気に響く。

「おとなしくしとけいうたよなぁ。真田ぁ、なんであいつ連れてきたんや」

義斗が、ふてくされて背中を向けてる横井を見ながら呟く。


「知らんわそんなん。けどこいつでしょ来るなら。神崎の一番近くにおるやつやし」

そうだろうけど・・おとなしくしとるわけないわな、この状況で。

義斗はまた小さくため息をつく。


「誰も文句言えへんからなぁ、良が行くいうたら。勘弁してや、オレが押えるためについてきたんやし」

義斗たちとも顔見知りで関係性を知っていた横井と稲葉に、納得するほかない状態。


「みんな俊さんの友達なんですよね、来てくれてありがとう。俊さんも成仁くんも大変だったから、オレもうれしいです」

ふいに笑顔で間に入ってくる昭次の言葉に、固まるみんな。


あわててその前に身体を乗り出すのは、義斗。

「ちょ、昭ちゃん出てきたらあかんって」


自分たちとは明らかに雰囲気の違う昭次の姿に、視線は集中していた。

「誰やこの子、神崎さんまだ弟おったんか?」

さっきの子とはまた違うタイプやなと首を傾げながら呟く稲葉、その声に反応して顔を上げる昭次にたじろぐ面々。


「違いますよ、オレは義斗さんのほう。はじめまして加賀昭次です」

頭を下げている昭次に、顔を見合わせる真田と伊藤・・義斗は背を向けてタバコをふかしていた。


「こっちは俊さんの隣人の忍くん、でこっちが兄のはじめです。ちょ、どこ行くのあいさつしてよ」

逃げるように離れていくはじめの腕を引く昭次、ため息をついて留まるはじめと、後ろに隠れたままの忍。


「・・どうも、加賀です。今日は急にすいませんでした、むちゃな誘いを」

大人気なく逃げてる場合でもないとしっかりと挨拶をかわすはじめに、真田が疑問をぶつけた。

「義の弟・・と、その兄。いうことは義とも兄弟?・・おまえ兄弟おらん言うてなかったか」

詰め寄る真田に黙ったままの義斗。


なにかあると感じた伊藤がしつこく聞こうとしてる真田を止めた。

「まあええやんか、義斗は義斗なんやし。兄弟くらいおるやろ」

「別に隠すことちゃうやん」

「・・べつに騙してたんと違うし、ホンマに関係なかったんやオレには・・それだけのことや」

視線を外しながら呟く義斗。

「・・関係ない、って・・」

「昭次・・いいから」

義斗の言葉に疑問を感じ、昭次が言葉を挟もうとしたが・・はじめが止める。


「・・義斗さん、紹介してよ」

機嫌悪気に呟く昭次にばつ悪そうに顔を向ける義斗、その様子に広島組四人がめずらしそうに見て笑う。


「こっちが伊藤で、こっちが真田。ええぞ覚えんでも」

伊藤に蹴られる義斗、負けじと蹴り返しじゃれてる二人を他所に真田が乗り出す。


「なんちゅう紹介や、失礼な。オレは、透。真田透。義斗とは一緒のチームなんやで、知ってるか?こいつ族の頭はってるんやで」

伊藤とケンカしていた義斗があわてて真田を突き飛ばす。

「おまえっ、余計なこと言うんやない」


「頭って・・え?それって、すごくない?」

おもわず見渡すみんなの姿、一見普通の人なんだけど言われてみれば。

それにしても義斗さんがそんなことしてる人だったとは、言われれば納得。


「おまえそんなことやってんの?どおりでガラ悪いわけだ」

はじめがポツリと呟く、それに反応するのは横井。

「兄ちゃん、ガラ悪いいうんはわしらのことか?失礼やないか」

「ああ悪い。あんたたちのことじゃなくて、こいつ・・義斗のことな。もしかして、俊もそうなのか?」

「神崎さんはうちのアタマしてました、もう二年くらい前になるけど」

「マジで・・」

この仲間を見れば、わかりそうなものなのだがちょっとそこまでには見えなかったから。

まさか族の頭をやっているとは、思いもよらなかった。


「なんや、文句でもありそうやなぁ兄ちゃん」

はじめの納得いかないという表情になにか気を悪くしたのか横井が口を挟む。

「べつに、義斗はわかけど俊がなんでって思っただけだ。あの温厚なやつが」


ふっと噴出す昔を知っている人たち。

「温厚って、昔はえらい悪かったんよ神崎さん。あばれまくりやったで」

「暴れたら止められんかったわ、関くらいや俊とはれるのは」

以前の俊を思い出し誇らしげに笑ってる稲葉と横井、ふいに笑顔を止める。


「俊、変わったよな・・母親の病気に気づいて」

「親子二人やったからな、それどころじゃなかったしな」


敵対する義斗も事情を知っていた、自然と絡まないようになり衝突も止み・・


「俊が引っ越して腑抜けやったよなあっちもこっちも。関なんぞケンカしにこっち来てるくらいや」

ふいに横井から出る自分の名に、睨みを利かす義斗。

「うるさいわ、おまえらが相手にならへんからやろが」

「なにいってんだぁ、なんなら今から相手んなったろかぁ」


火花散る二人の間に稲葉が割って「また怒られるで、兄ちゃんに」ちらりと見た先には、はじめが睨んでいた。


そんな空気をかき消すように高校生二人の会話。

「二人ともそんなに強かったんだ。俊さんもちょっと怖いとこあったよね、忍くん」

「うん。オレ二人のケンカ見たことあるから、怖かったよ。そうか義斗さん俊兄のこと気になって様子見に来てたんだあの時も」


天然の二人に小さく笑うみんな、義斗は心外だとばかりにほえる。

「ア、アホ言いなや。なんでオレが気になんかするんや、うっぷん晴らしに来てただけや」

「こんなとこまで?ええやんけ、素直に言やぁ」

わかってんだからと義斗をからかう真田。

うるせぇと睨む義斗、そんなやりとりに昭次が小さく笑う。

ばつ悪そうにタバコに火をつけた。


「ホンマやで。一人で行きよって、わしらも連れてけや。そしたらもっと早く知れたのに」

伊藤が呟き視線をぶつけるのは、はじめ。

「なぁ義斗の兄ちゃん、あんた強そうやなぁ、勝負せんか?」


構える伊藤の頭をすかさず殴る義斗。

「いった、なんなんよ」

「やめとけや、怒られるで神崎に。大事なお友達さんなんやから」

とげのある言い方の義斗を睨むはじめ。


睨みあう二人の空気の悪さに気づくのは、気遣いのうまい稲葉。

「さっきから、ピリピリきてんでこの辺。仲ようせんとあかんよ兄弟は」

なんでオレたちが、と聞こえそうなほど視線を外す二人に苦笑いの人々。


空気の読めなかった横井が地雷を踏んだ。

「あっわかった、俊やろ?一緒のダチに偶然会って取り合ってんと違うんか、そういうんやきもち言うんやで」

稲葉は思わず後づさっていた・・横井を睨む義斗とはじめの視線に耐え切れずに。


「・・はぁ、ホンマ兄弟やわ。そっくりやで凄み方・・」


そっくりと言われて驚き顔を合わせる二人、すぐに視線を外しはじめが輪から外れ歩いていく。


笑いながらホンマ似てるわぁと真田。

「図星指されて怒るんも同じや。神崎は一人しかおらんぞ仲良くせえや」

「仲良くしてどうすんや。取り合ってへん」


「素直じゃないからなあんたは。あの兄ちゃんもそうらしい。神崎おらんくてよかったで、また暴れられるとこや」

伊藤はそんな二人を見ながらため息をついた。

オレらはわかってるし、ケンカしててもあきれるくらい気合ってたおまえら。

そこに入ってくるやつが嫌なんも・・兄いうんが余計になのかもしれん。


・・それにしても、空気悪すぎんかあいつら・・この子だけなんか違うよなぁ。

昭次のなごやかな空気に首を傾げる伊藤だった。


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