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エピソード1 ― 2・大竹姉弟と俊

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。

「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。

「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。


「加賀さんがよろしくって、今度こっち来てくれるって言ってたから頼むよ。ホント世話になってる人なんだから」


病院の一室、オレの姉大竹幸の部屋、ベッドに横たわるその人へと今日のことを報告。


「わかってますよ。私が会いたいって言ったんだから、あいさつくらいしっかりできますから姉ちゃんだって」

「どうだかね」


姉は心臓が悪く、今は落ち着いているのだが発作を起こすとかなりやばい状態で・・あまり長く生きられないと告げられていた。


こんなに普通にしていられるのに、病室ではけして沈まないと決めていても時折・・沈んでくる気持ち。


そんな気持ちをかき消すようにドアをノックする音が部屋に響いた。

「あっ。俊さんじゃない?はーい、どうぞ」

「こんばんわ。遅くなった、今日具合はどう?」


顔を覗かせるのは神崎俊、姉の恋人でオレの事もよくしてくれるやさしい人だ。

こうして毎日のようにお見舞いに来てくれていた、ここでしか会えないのだからしかたないのだが。


「全然平気。遅いからもう来ないのかと思った。成仁のが早いなんておかしいでしょ、いつもおっそいのに」

「なんか文句でも?失礼なやつ、ねぇ俊さん」

「こら、姉さんのことやつなんて言うんやない。まったく口悪いやつやで」

「そんなの姉ちゃんもだろぉ。そういう俊さんも十分悪いと思うけど」


関西の人で、オレたちとはまた違った意味で口調は厳しかったりする、オレは好きだけど。

「・・しかたないの、そんな簡単に抜けるもんやないし。とにかくもう少し考えてしゃべるように。幸もやぞ」

「このおしとやかな私を捕まえてなにいってますの、二人とも」

無言で顔を見合わせ首を傾げるオレたち、どの口が言ってるんだか。

「失礼しちゃいますわ」

元気な笑い声が部屋に響いた。




いつも部屋に入る時は緊張してしまう・・元気そうで、よかった・・今日も。


神崎俊が幸と会ったのは三年くらい前の病院。


オレの母がこの病院に入っていた、ここの治療がいいと言われて大阪の病院から移ってきたんやけど・・もう遅かったらしい。

同じような環境にあった幸がよう話かけてきてた、どこが悪いとかわからんくらい元気で。


初めはうろうろされるのが面倒でどっかいけやと怒鳴ってばかりいた。


それを気にもせず話しかけてくる幸とおるうちに・・いつの間にか笑っとった。

わからんけど笑えてきて・・きっと幸の能天気さが気を紛らしてくれてたんやと思う・・



「どうしたの、ぼんやりして。仕事お疲れ?」

思い出し物思いにふけていると覗き込んでくる幸。

「姉ちゃんが疲れさせたんだろ、今のは」

瞬間突っ込みの成仁に、小さく笑った・・ホンマこの子らは。


「幸は会った時からオレのこと疲れさせる天才やからな」

「天然な姉をもって大変だよオレも、俊さんはもっと大変だろうけど・・なんで選んだの姉ちゃんなんか・・いたっ」

「失礼だなさっきから」

すかさず手が出る幸に、まぁまぁとなだめ見てた・・二人のやり取りを見てるのは好きだった、子犬のじゃれ合いみたいで。


「俊くんが私を選んだのは運命なの、俊も疲れるとか言わないでよ、本気にするでしょこの子」

ふいに、すごいことを言い出す幸に一瞬固まる・・運命、確かにそれは感じてはいるけどそんな面と向かって・・よう言えるな。


「ごめんごめん、おもわず本当のことを」

照れ隠しにおどけると怖い顔で睨んできた・・やば、ごまかして笑ってみるとそれ以上に爆笑してる成仁。

「きゃはは。いまさらそんなの隠せるかよ、天然が。加賀さんまで疲れさせんなよマジ」


「あっ、勤め先の人?」

よく出てくる名前に反応、成はホンマにその人のことが好きらしい。

話を聞いてるとオレまで気に入ってくるからおかしい。


「そうそう、今度俊さんにも会ってもらうからよろしくな。姉ちゃんだけだと心配なんで」


いつの間にそんな話に、びっくり顔のオレに成が心配そうに見つめてくる。

幸と顔を合わせる、お願いと同じように見つめてきた。

成仁が世話になってるんやったらオレも一言あいさつしたいような、気もする。


「オレなんかでよければ会うけど・・ええんか?」

「なにが?オレがお願いしてるんじゃん。なんか心配?加賀さんいい人だよ」


相手の心配やなくて・・オレのなんやけどな。

「その加賀さんがええ人なんは聞いてたらわかるから。知らんでオレなんか会わせて、関係壊すなんてイヤやで」

キョトンと見てる二人、瞬間吹き出してる・・なんなんや。


「どうしてそうなるのよぉ。俊なにか嫌われるようなことするの?それなら私のが心配じゃない」

「全然平気だよ。俊さんに悪いとこなんてないじゃん、姉ちゃんも心配ない・・かな?大人しくしててくれたら」

「あぁ、ひどくないそれ。いいのかなそういうこと言って」

楽しそうにからかいながら「いろいろ言ってやろうね」と空気を変えてくれる。


オレが悪かったこと、気にならんのやろか・・もちろん今は更正したつもりやし心配ない思うけど、そんな大事にしてる人に会うとなるとなんやすごく不安やで。

オレだけが心配してるようで、二人はそんなことどうも思ってない様子・・ありがたいことや。


「なんだよ、よけいなこと言わないでくれよ。仕事に響くだろ。で、明日大丈夫か俊さん」

「明日も見舞い来るし、その時でいいんなら」


「じゃ明日ってことでお願いしとく。そろそろ時間だよね?帰るわ姉ちゃん」

「オレも帰るわ、おとなしく寝てろよ幸」


成仁も気づいていたのか、幸の顔色が少し悪くなってきてること。

幸は結構かたくなにオレたちの前では弱さを見せない・・だから、辛そうにしてると気づいたら席を外そうと二人で約束をしていた。


「うん明日ね・・来る前に連絡ちょうだい」


じゃあと病室を出て行く二人・・それを見送った後、咳き込む幸。

掌には、血が滲んでいた・・病気は静かに進行していく。




「顔色、悪かったな姉ちゃん・・」

やっぱり気づいてたか、目に見えて弱っていくのがわかる分・・毎日会ってるのも辛いもんや。

「・・悪かったな、きっと無理して笑ってるんやろ」


寂しそうに夜空を見上げてる成仁、不安が手にとるようにわかる・・けど。

「そういう顔、幸に見せんかったんわえらい。けど今もしたらあかんで。おまえが笑ってるだけであいつ元気でおれるんやから」


たった一人の兄弟、成仁のためにがんばったっていつも言っている。

そんな幸をオレも誇りに思う、力になりたいと思う。


「姉ちゃんの元気の素は俊さんだろ、自覚ないの?オレから言うのも変だけど、傍にいてやってね」

「・・あたりまえや。さきとおりたいからおるんやで。変な気使うなや、気持ち悪い」

「なにそれ、ノロケ?」

憎たらしい顔して覗いてくる、いらんこと言った。

反撃されると思ったのかさっさと遠くに逃げてる成仁、あかん絶対変な顔してるわ今。


ノロケ、言われてもしかたない・・あいつとおるのはホンマに落ちつくし、それは成仁のことも同じでいつまでもあの空間で一緒に過ごしたいと思ってる。


・・幸の、病気―――母と似ていると思うのは、気のせいだろうか・・気のせいであってほしい。


夜空の星に願う、いつまでも一緒にいられますように・・


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