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エピソード2 ― 1・義斗

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。

「大竹幸」成仁の姉。病院で療養中、悪化し死亡した。

「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。

「井川忍」昭次の同級生、俊とは家が隣同士で慕っている。

「関義斗」俊のケンカ仲間、昭次やはじめとの関係は?

病院から帰宅し、すぐに横になったはじめだったが。


「・・はぁ、寝れないわ、さすがに・・」

はじめにとって今回のことは、いろいろと思い出させる出来事で目を閉じると昔のことが蘇り眠れなかった。

早々に起き出して、外へ出た・・こういう時は走るのが一番だと知っている。


「あいつら・・大丈夫かなぁ。一回りしたら連絡してみるか、昭次は今日も休みだっ」

勢いよく走り出すはじめの前方・・バイクがゆっくりと横を通っていった。


ちらりと気にしたものの、はじめは気づかずに走ってく。



バイクは加賀家の前に止まり、ちらりと振り返って小さくため息をついてるのは・・こちらも眠れずにバイクを走らせていた、義斗。


「・・知らんうちに、来てたんか・・」

見上げる家は昔よく遊びに来ていた・・昔、住んでいた家。


素直に懐かしいと思えてる・・オレも大人になったんかな、さっきすれ違ったの・・あいつ、やった。

気づかれずにホッとしてる、はじめとは相容れない・・気がした、あの子がいるかぎり。


ふと顔を上げた時、二階の窓から覗く影が見えた。

おもわずメットを外して見てしまう義斗、今思っていた人物な気がして・・

「・・昭ちゃん?か・・」


呟く声は宙に消える・・確実に視線を合わせたはずなのに奥へと入っていってしまう影。

「覚えて、へんか・・」

今のは、きっと昭次だった・・面影は、変わらない。


メットをかぶり直しアクセルを吹かす、二度と会えないと思っていた・・少しでも姿が見れて、よかったかもな。

小さく笑い、走り去る・・ここまで来たんや神崎のとこでも行こう、うさ晴らしに。

頭の片隅に小さな昭次を思いながら、振り切るように走った。



目をこすりながら寝ぼけてる頭が少しずつ覚醒してく昭次。

バイクの走り去る音に、もう一度外を眺めた。


大きいな音で目覚め・・何気なく窓開けた時下にいたバイクの人と目があった気がした・・知り合いだっただろうか?

知り合いにバイク乗ってる人は、いないと思うから気のせいだと思うけど・・家の前にいるってちょっと怖い、な。

寝不足がたたっていつの間にか寝てた、あんなことあった後なのに・・薄情なのかなオレ。

「はぁ・・どんな顔してたらいいのか、わかんないよ・・」

ため息をついて一人うな垂れる昭次、昨日はうまくできただろうか・・二人に変な思いさせてなければいいんだけど。


「兄ちゃん、起こしてこよ」

松葉杖をつきながら隣の部屋へ、覗くとベッドにはすでにいなかった。

「あれ、どこ行ったんだろ。もう起きてる・・」


そういえば、さっきバイクに気とられてたけど走っていく人がいたような・・きっと兄ちゃんだろう。

「悩むといつもああだから・・今回は重症だろうな、きっと」

小さくため息をつき、部屋へと戻った・・まだ時間はかなり早い。


オレより全然二人に近かった兄ちゃん、人の死には異常に敏感な兄はテレビのニュースを見ても辛そうな表情を浮かべてしまうような人で・・こんな身近な人となると、心配だ。


両親を亡くしてるが全然実感ないオレ、そんなオレにできることはみんなを元気づけることくらいだけど。

なにかおいしいものでも作くろうかな、俊さんたちにも持っていってあげればいいし。


思い立ちキッチンへと向かった、きっと心こめたらみんな喜んでくれるだろう。

それぐらいしかできないから・・




病院では、なにかと思い入れのあった院長が様子を見に来てくれていて・・好意で送ってくれることとなった。


「・・じゃ、がんばるんだぞ」

一言だけ残して帰って行く、最後に幸を寂しい表情で見送った。


・・がんばれなんて。何度となく経験したことだがまったく慣れることはない・・かける言葉さえいつも見つからないまま。

大切な人を亡くす、辛いとわかっててもあいつらの気持ちなんてわかってやれる力はない・・無力だな。

人の命を助ける仕事だというのに、がんばれとしか・・言えない―――


俊たちの必死に作ってる静かな笑顔を思い出しながら、命運を祈った。

「がんばれよ・・・」

病院へと戻る車の中、静かに呟いた・・




三人で戻った家には、寂しいほどの静けさが漂っていた・・いつもと同じはずなのに。

静まる部屋に幸が横たわる、眠っているように。


「・・成、おまえ少し寝え・・オレ、見とるから・・」

「なんで、大丈夫だよ・・お茶でも入れるし」

立ち上がろうとする成仁、瞬間視界が揺らいで座り込んだ。


「素直に休め。なんかあったらすぐ起こすから」

力なく座り込む成仁の肩を抱き、頭をなでる俊。


「俊さんも、同じでしょ・・姉ちゃん、もう見てなくて、大丈夫だから・・ふとん出してくる、一緒に休んでよ・・」


成仁の言葉に素直に頷いた・・もう、心配はいらないのだ。

強がって笑う成仁を元気付けてやる言葉も出ない、自分を保とうとすることでいっぱいで・・幸、おまえの死はオレたちの時間止めていったみたいやわ・・


静かに横たわる幸の眠るベッドへ頭を傾けるとどっと疲れが押し寄せ、意識を失うように眠る俊。

「・・俊さん、持ってきた・・」

寄り添うように眠ってる二人の姿に視界がにじむ・・そっと肩に毛布をかけた。


いまだに、信じられないよ・・もう動かないなんて・・もう「成」って呼んでくれないなんて。

こうして並んでるとこも、もう見れない・・二人の邪魔したくないけど、最後だから・・一緒にいさせてよ。


俊の横へ座り目を閉じる、病院でも眠ったはずなのに一向に途絶えない眠気・・それは俊も同じだった。





バイクが大きな音を立てて止まった、玄関の前で部屋を見上げてるのは義斗。

神崎の家の前、呼び鈴を鳴らすが・・出てくる気配がなかった。

「留守かよ・・」


その様子を隣の家から覗いてるものがいた、俊のことを兄と慕う井川忍。


あの人・・ずっと前、俊兄とケンカしてた人だよね・・俊兄いないのかなぁ、寝てるとか。

バイクと家を行ったりきたりする困ってる姿に意を決して玄関へと走った。

何年か前に見たきりだもん、きっと久しぶりに来たんだ、それなのに会えないなんて辛いし。

俊兄きっともうすぐ帰ってくると思う、たぶん。



大きなため息をつく義斗、タバコに火をつけ煙と共にまたため息を吹き出した。

なんや今日はまったくついとらん・・こういう時は出直したほうがええのかな、神崎にケンカ売ってすっきりしよう思うとったのになぁ。

この動機があかんかったか。


タバコをもみ消しバイクにまたがると、エンジンをかけようとした瞬間動きを止めた、なにか聞こえた気がして。

「・・あ、のぉ」

「へ?」


もう一度聞こえた声に振り返る義斗、そこには弱そうな男の子が立っていた。


「今、オレのこと呼んだ、か?」

「あ、はい。あの、俊、さん・・のお友達、ですか?」

「俊?・・ああ、そうだよ。いないみたいやから帰ろう思っとたとこや、なんで?」

なんだこいつ、オレは気軽に声かけられたことなんかない、ましてやこんな清純そうなガキに。

思わずマジマジと見つめてしまった、そいつは逃げ腰のわりに話を続けてる。


「オレ、隣の家なんで・・よかったらうちで待ってます?なんか困ってたみたいだったから。俊兄すぐ帰って来ると思うよ」


・・オイオイようわからんやつ家にいれてもええんか、自分でいうのもなんやけどあやしいいやろオレ。

驚いて固まってしまう義斗、少し考えてから口を開いた。

「え・・っと、それはホンマありがたいんやけど・・ええの?親に怒られへんか」

「あっ、大丈夫。俊兄の友達だって言えば、そうなんでしょ?」


「まあ、そうやけど・・」


頭を掻きながら首を傾げる義斗。

神崎はここでどんな暮らししてんねん、友達だからって警戒しないなんて・・ありえへんは昔を思うと。


「オレ、忍って言います」

「あ、関義斗」


名を言われとっさに返すと小さく微笑む忍に、つられて引きつった笑顔を見せる義斗。


ほっと胸をなでおろす忍、おもわず誘ってしまったのは気になったから。

俊兄の昔を知ってる人・・この人は昔の俊兄に一番近い人だろう。



「すんません、こんなに早く。ちょう早く来すぎまして、おらんなんて思わんかったんで」

「いいんですよ。神崎さんの知り合いなんでしょ?せっかく来たんだから。連絡はしてないの?」

「番号なんかしらんのですわ。久しぶりにびっくりさせたろう思ったんやけど、失敗や」


母と笑って話してるその人を見て首を傾げる忍、なんか普通の人に見えて。

雰囲気からして、ケンカするような感じでもないような。


「忍。母さんもう行くから。関さんにお茶でもお出ししてあげて」

どたばたと慌しい母、忍はまだ不思議顔。

打ち解けてる母とずっと笑顔の義斗に少し不信を感じてしまい、玄関へ走っていく母を追い小さく問う。

「ちょ、母さん。まだいいじゃん、もうちょっといてよ。オレどうしたらいいの?」

「あなたがあげたでしょ。すごくいい人よ?付き合ってあげなさい。きっともう帰ってくるだろうから、頼むわよ」

言うだけ言って行ってしまう母に呟く忍。

「いい人って・・なにを根拠に言ってんだ、あの人は」


たしかに、あの人辺りのよさそうな感じ・・あの時の人なのか、自信なくなってきた。

そろーっと義斗のいる部屋を覗くと、気づいて笑いかけてくる・・違うかも。


「忍くん、言うたか?ありがとな、待たせてもらうだけで十分やから、なにもいらんよ」

「いえ。ちょ、待っててください」

バツ悪く、慌ててお茶を運ぶ・・母といた時と変わらない雰囲気にほっとした。


「サンキュ。座れば?オレおったら気使うか・・悪いな、怖いわな」

離れて立つ忍に小さく笑いながら聞いてくる問いにびっくりして口ごもる忍。

「・・あっ、えと・・」

「ええよ。得体しれんし、無理ないわ。おまえ学校あるんやろ、一緒に出るし」

すでに立ち上がると出て行こうとしてる義斗を思わず止めてしまう忍。

「違います、別に今怖いとかじゃないし、そういうしゃべりも俊兄で慣れてるから・・まだ時間大丈夫なんで、お茶飲んでってください」

早口にそういうと、自分の分も持ってきていたお茶を飲み干し、隣に座った。


「ほうか、ならええんやけど」

どこかムキになってるその子に小さく笑いながらお茶をいただいた。


「神崎んこと、よう知っとるみたいやな。仲ええの?」

「よく遊んでもらってたから仲いいですよ。最近は遊んでないけど、彼女さんが病院入ってるみたいでいろいろあるみたいです」

「彼女・・か。病気なんか?・・」


神崎の現状を初めて知った義斗は、昔のことを思い出していた。

また、病院か・・なんや神崎、えらい恋愛しとるんちゃうやろな・・


考え込んでしまってる義斗に話を変えるように聞く忍。

「あ、あの・・あなたと俊兄は、友達なんですか?」

「は?あー、なんていうんか。友達ではないなぁ。くされ縁?仲悪いんよオレら」

ふと頭に浮かんだのは殴り合ってる二人の姿。

「すごいケンカしてましたもんね、友達ってのもおかしい」

納得したように頷いてる忍に義斗は小さく首を傾げた。


「ケンカって、なんで知ってるん?オレこっちじゃ神崎とケンカしてへんけどなぁ」

じっと見てくる義斗になんかへんなこと言ってしまったのではと固まってる忍。


「神崎に聞いたとか、か?」

「・・ずっと前、夜ケンカしてたでしょ?そこで、夜中」

外を指差し小さく呟く声、記憶を辿る・・ここに来た事は一度しかなかった。


かなり前の話やな、オレが始めてここ来た時やないか・・この子もよう覚えとるはそないなこと。

あんま周りなんか見てへんから、迷惑かけとったのかもしれんわ。


「見られとったんか。けど、そんなん見とったのによう声かけてくれたな。サンキュ」

どこか独特な笑顔に、照れながら呟く忍。

「なんか・・困ってたし、俊兄の知り合いだから。怖かったけど・・いい人でよかった」

笑い出す義斗。

「ええ人?そんなこと言われたんは初めてや。そんなんと違うわ」


意味深に小さく笑ってる義斗に首傾げる忍。


違うのかな・・オレも母ちゃんと同じにいい人だと感じてる。

こうして俊兄のとこへ遠くから来てるってことはやっぱ仲いいんだと思うし、ケンカするほどっていうもんな。

笑ってるのに、さみしそうな顔・・俊兄がこっち引っ越して来たことがその理由なら、気持ちわかるよオレ・・・


「知らんほうがええこともある。忍の中ではええ人でおるわ」

「オレもなんか怖そうだから聞かなくていいや。見た目やばいし、でも直感でわかる言い人だって」

にこりと笑ってそう告げる忍に、引きつる顔。


・・どこからでてくれるんやろこいつのこの自信。

ええ人やないわ、どっちかいうたら悪いほうやし・・調子くるうっちゅうのこいつ。


お茶を飲みながらなんだか居づらい視線を外し立ち上がり、窓の方へと歩き外を見つめる。

遠くから見えた人影に、にやりと口の端を上げる義斗がいた。


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