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エピソード1 ― 12・兄と弟

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。

「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。

「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。

神崎の眠る部屋へゆっくりと入っていく成仁、布団の隅へそっと座る。


「・・俊さん、姉ちゃん・・大丈夫なんじゃないの?」

眠ってる俊を覗き込んで呟く・・神崎の目の端が小さく光った。


「なんで、涙なんか見せるんだ・・不安が、消えない、だろ・・」

布団の端を握って、なにかを必死に押さえつける。

俊さんの表情は暗くてはっきりとは見えないけど、苦しそうに見える・・まだ夢見てるの?


「・・さ、ち。行かんで・・・」


ふいに聞こえた小さな声に思わず神崎の身体を揺らしていた。

「俊さん・・姉ちゃんがどこ行くっての、どこも行かない・・夢だ、それは。起きて・・くれっ」

揺り起こしてるうちに我慢していた涙が零れ落ちた。


「・・ん?あれ、成?・・なにしとるん」

「アホ・・それはこっちのセリフだ・・」


成仁の様子のおかしさに目を凝らす俊、周りを見渡し首を傾げた。

「どこやここ・・オレって、なにやってた?なんで・・泣いとるんや、おまえ」

「泣いてないって・・もう、いいよなぁなにも覚えてないんだろ、どうせ・・」


はっと口を閉じる、さっきの昭次の顔を思い出して・・言っちゃダメなんだ。


「なんやねん、自分・・しかたないやろ覚えてへんもんわ、起き抜けになんや文句でもあるん?」

起きあがりながら機嫌の悪い俊さん、確かにオレの言い方が悪かったかもしれないけど・・

今は、そんなこと思いやっていられなかった。


「文句なんかないよ、けど・・俊さん、自分の状態わかってないよね・・」

「オレ?オレはここがどこかわからんだけや、で・・あ、れ?」

ふいに自分の手のひらに落ちた雫に気づき、それが・・涙だとわかるのに、数秒かかる。

自分の頬へ手をかざし呟く。


「・・なんで、泣いてるんや、ろ・・」

なぜ泣いているのか、自分でわからない・・だけど胸に重いものを感じていた。


「知らない・・俊さん、夢・・見てた?」

「夢?」


成仁の問いに思い出すその夢・・泣いていたのは、そのせいだと気づく。

オレ、幸とおかんの夢見てたわ・・考えたくもないことなのに、なんで夢なんか見てるんやろ・・


はっと、成仁の顔を見て青ざめる・・あかん、こんなとこ見せたら、あかんかった。


「・・姉ちゃんのこと、なんか知ってるの、か・・」


ふいに幸のことを言い出す成仁に動揺は隠せない、もう泣いていた理由はわかっているかのような視線。

「え・・?なんも、知らへんよ」

「うそ言うなよ・・わかったんだよ今ので、俊さんが姉ちゃんの病気のこともっとしっかりわかってるって・・泣いてたのもそれのせいだろ?教えてよ、オレ大丈夫だから・・」

「・・だから、なんも知らん言うてるやろ」

言えるわけなかった・・たとえオレの涙を見られていたとしても、それはどうにでもいいわけ出きることだと思うから。

言うわけには、いかない・・口を閉ざしていると小さく告げる言葉。


「オレも姉ちゃんに聞いてるよ・・」


目に見えて身体が跳ねる、なんで・・幸が・・それしか頭に浮かばない。

「えっ!なんで幸がそんなん知ってるんや、オレにしか言わへんって先生言うたのに・・・」


じっと見つめる成仁、オレの動揺に・・小さくため息をついてた・・うそ、なんか?

「やっぱり・・聞いてたね。ごめん、姉ちゃんは知らないと思うよ・・なんか、わかってるみたいだった、けど。オレは信じてない」

今にも泣き出しそうにそう小さく告げる成仁に、だまされたことよりもその成仁の表情に胸が痛んだ。

幸に、なにか言われたんか・・


「さち・・なんて、言ってた?」

辛そうな成仁の頭を撫でる、落ち込みそうな時いつもこうしていたから。


「・・無意識に出てるってかんじだったけど・・成仁には頼りになる兄ちゃんが二人もいるから大丈夫よねって・・消えちゃうみたいな、気がした」

「・・・そうか、自分の身体のことや・・自分が一番わかってる、オレの母親もそんなこと言って笑っとったわ」

小さく微笑む俊を突き飛ばす成仁、びっくりして後ろに手をつくと睨んでいる瞳を受け止める。

怒ってる理由はなんとなくわかる、オレも母の態度に怒ってたもんや。


「なに笑ってんのっ・・俊さん、姉ちゃんのこと大事じゃないのか?なんでそんな顔できるんだよ、いなくなっても平気な、の」

「痛いなぁ・・アホなこと言いなや、大事に決まっとるやろ」

じゃあなんで、といいたげな瞳。また、小さく笑う。


「成仁・・オレ、怖いんよ、ホンマは。幸が笑ってくれるたび・・平常をたもてんくなってきとる・・こんな顔あいつには見せるわけにいかんやろ。笑っとりたい・・いつも」


またうつむいてしまう成仁の頭をなでる、何度も・・元気になるように、思ったが小さく震えていた。

がまんすることはないと思う、泣きたい時は泣いたらええ。


「しゅん、さんの・・知ってること、教えて・・」

その眼差しに、もう黙ってることは・・できなかった。

オレだけが背負っていた重荷を、こいつにも背負わせてしまう・・だけど、成仁はそれを受け入れられると信じている、たった一人の姉なんやから。


「幸は・・もう長くもたんて言いよった。移植もできんくらい弱ってる・・次の大きな発作にたえられんかもしれんって」

目を見開き、無言で涙を流している成仁の頬を両側手のひらでそっとはさみ込む。

覗き込む視線がぶつかると、少し強くなる視線。

そうや、強くいかなあかんぞ・・オレたちは。


「オレたちにできることは幸を元気づけたることだけや・・おまえの支えがあいつには必要なんやからな、オレもがんばる・・幸と一緒に戦おうや」


「あたりまえ、だろ・・」


泣き崩れる成仁を抱き寄せた、一緒に戦っていける・・大事な人のために、長く一緒に過ごすために。

一度はなくした希望を、今度こそ・・三人ならきっと・・




はじめの大きな隠し事を問い詰めていた昭次、それも吹き飛ぶような二人の会話が聞こえてきてしまい問い詰めは途切れたまま。


あまりのことに、動揺を隠せない昭次・・なんで、お姉さんそんなに悪かったのか?

苦しいくらい押さえたような泣き声に、思わず涙ぐむ。


「義斗のことは・・時がきたらちゃんと教える。今は、やめよう・・おまえまで泣いてんなよ。あいつらが気にしないように、普通にしとけ」

「・・よしとって言うの?なんかはぐらかされた気がするけど、オレも今はやめとく。あっちのが大変なのわかるし・・大丈夫かな」


昭次のこういう素直なところ、助かってる・・昔から、いつも。

根本的に、性格は変わってないから・・小さな頃と。


「大丈夫、ではないだろうけど。二人で話せれば、どうにかなるよ・・オレたちは見守るくらいだろ。おまえは、もう寝ろ。足、平気なのかよ」

普通に立っている昭次に、はじめも今気づいたように驚いてる。

思い出したように、ストンと椅子に座る昭次・・痛みはさすがに引いてないようだ

「いたた・・忘れてたし。明日は学校行きたいんだよね、先に寝るよ。二人のこと、頼むよ」


それだけが心配だと向こうの部屋を覗き込み、心配顔。

「心配するなって、そんな弱いやつらじゃないよあの二人は」

「だよね。余計なこと言わないように、兄ちゃんは」

にこりと笑う昭次に、小さく微笑む・・心配なのは、それだけじゃないはずなのに・・笑ってる、すげえなホント。

「うるせぇよ・・おまえのほうも、心配ないから。無理して思い出さなくても、ちゃんと教えるからよ」


オレの言葉に一瞬、表情が固まる・・少しぐらい自分の弱さ見せてもいいのに、その一瞬で元の笑顔。

「約束、な・・」


指きりの変わりに昔からよくやっている決まりごと、大事な時にはいつもこうしていた。

右手を合わせて、近づけた二人のおでこの間でお互いのおでこに手の甲をつける仕草。

ぎゅっと手を握りお願いごとをするように。


「おやすみ」

「なにも考えずに寝ろよ。おやすみ」

階段を上がってくのを見送り奥の部屋を見つめるはじめ。


「なんて言ってみても、普通でいられるほどオレも無神経じゃないけどな・・」

小さく呟きソファーへ転がった、いろんなことが一気に押し寄せいろんな顔が頭を駆け巡る・・幸さんや、義斗・・母や父・・昔の思い出・・・

ぎゅっと目を閉じて、心を落ちつかせた・・どうしたもんかな。

 


泣くだけ泣いて少し落ちついたようすの二人、リビングへと足を運ぶ。

ソファーで上を向いて目を閉じているはじめがいた。

「・・加賀さん?寝ちゃった?」

覗き込む成仁、瞬間目を開けるはじめにびっくりして後ずさってる成仁に俊が小さく笑った。


「寝てないよぉ。大丈夫だったか俊は」

「・・う、ん。って・・大丈夫ではないけど、俊さんもオレも。けど話したらちょっと落ち着いた」

二人の目の赤さに振れてはいけないと思っても、隠せるレベルではなく・・どうしていいものやら。

とりあえず笑っている二人に、ホッとはしているはじめ。


「・・ごめんな、なんや知らん間に家押しかけとったみたいで。帰るからよ」

「なに言ってんの?いいよ、泊めるつもりで連れてきたんだから。成仁も泊まるし」

「そうそう。遠慮なんかいらないって」

「おまえが言うなっ。たしかに遠慮なんかしなくていいし、そんな状態で帰れるのか?明日仕事あるんだろ俊は。風呂入りたかったら入って来い、そして寝なさい」

「あっ、オレ入りたい」

「だから、おまえに言ってません。俊、顔洗ってすっきりしてきたら?」


ごつんと手をおでこにぶつける俊、情けなくて苦笑い。

「・・どうやら見られん顔になっとるみたいやな。じゃ、遠慮なく借りるわ」


おう行ってこい、さっきの部屋の前だからと教えられ、その後ろで成仁とケンカし出すはじめ。

オレだってすっきりしたいのにとか、おまえは少し遠慮しろとか。


おかげで固くなっていた表情が少し緩んだ気がした。


とぼとぼと教えられた洗面所へ、扉を開け鏡を覗く俊は・・青ざめた自分の顔にびっくりしていた。

「うわっ・・ホンマ最悪」


お風呂場の蛇口から水を勢いよく出し、服のままで頭からそれをかぶる俊。

「さち・・すまん」


成仁に・・ばれた、言ってしまった・・幸も、知ってるんか?オレ顔に出とったんか、あいつもそんな素振りなにも見せず大丈夫やって笑って・・見抜けんのが、未熟っちゅうことなんか・・


「ちょ、俊さん。なにやってんのっ、風邪ひくだろっ」

「・・ちょう頭冷やしとるだけや。気にせんでええから、ちょっとほっといてくれや」


成仁が驚いていたが、今は自分の情けなさを消したくて余裕なく静かに怒鳴る俊。

後ろではじめが小さくため息をついていたのを聞く・・呆れられてもしかたないわな。


「着替え、置いとくから。風邪ひかない程度にしとけよ、ほら成仁」

「しっかりしてよ・・ねっ、俊さん」

成仁が俊の肩をぽんと押した、よろける俊が溜まった水の上へ倒れ込む。


「・・なるぅ。なにやってんだぁ・・」

睨み上げると成仁は笑っていた・・まったく、なんちゅうことするんかねぇこの子は。

はじめも一緒になって笑ってたけど、心配そうに見てたのに気づいた。


「頭だけじゃ物足りないかと思ったからさ、素直に温ったまれよ。なあ加賀さん」

「そうだな。もう十分冷えただろ?ほら、お湯出しとくから」


これ以上心配させるわけにいかないから、素直に言うことを聞くことにした。

ホント・・オレって、情けねぇ。

「・・そうする。ほら、出た出た」

二人を追い出し、小さくため息・・いいかげんちゃんとしないと、シャワーから流れる温かさに冷えていた身体、心も・・ゆっくりと落ちついていく気がした。



「まったく、どうしたのかと思った・・ごめん、なんかいろいろ迷惑ばっか」

「今更、遠慮か?気にするな。お茶でも飲むか?」

うんと大きく返事を返す成仁、笑っていられる自分にホッとしながら。


リビングへ移動し、テーブルにつくと疲れが出たのかうつ伏せてる成仁。

「・・どうした?」

「なんでも、ない・・それより、昭次くん怒ってなかった?」

「なにも。自分も悪かったって言ってたし、へんな夢と寝不足でおかしかったんだってよ」

「寝不足か・・オレも今日から寝られなくなりそうだよ・・」


ポンと頭をなでる、成仁の辛さはわかってもかける言葉はない・・気持ちだけでも届けられればと何度も軽く叩く。

「ちょ、なんなんですかぁ。痛いっての」

よける成仁に小さく笑う、照れているのがわかって。


「俊さんはちゃんと寝られると・・いいんだけどなぁ」

「落ち着いてたじゃん、さっき」

ふいに飛び起きると大きなため息、首を振ってる成仁。


「あれを落ち着いてるとかいうかな、おかしいでしょどう見ても。加賀さん変?」

「そうか?」

たいして取り乱してるふうではなかったと思ってたはじめ。

頭を冷やす、よくやることだよな?


「なんの話や、成仁くん・・悪かったな、おかしくて」

ふいにかけれれる声に二人で振り向くとさっぱりとした表情の俊が立っていた。


「おかしかったもん、マジで。大の大人が酔っ払ってむちゃしてさ、ばらすぞ姉ちゃんに」

「うるさいわ。言ったら許さへんぞ」


どうしようかなぁと逃げていく成仁、じゃれてる二人を見て微笑むはじめ。

ホント、すごいなこいつらは・・あんな話の後に、自然で。

オレのほうが動揺してるし、まぁ心の中まではわからないけど・・


成仁が交代でシャワーに向かい、俊がテーブルの横に立ち尽くしたまま。

「どうした?座れよ。今、お茶入れるからさ」


「ホンマすまん。なんやいろいろ迷惑かけたみたいで・・おまけに夜中に押しかけて、ホンマすんません」

ふいに頭を下げる俊にびっくりしてポットを持って固まってるはじめ、瞬間笑い出した。

「いいって。オレも似たようなもんだったし。謝るなら成に、な。かなり酔ってって迎えに来てもらったし、覚えてるか?」


小さく首を振って苦笑いの俊、大きなため息とともにうなだれてる。

「オレ、へんなことしてへんかった?ホンマ、失態や・・」

「しかたないだろ、こんな時は・・もう、酔いは覚めたか?」

「ああ・・さすがにな。成仁に泣かれたら・・」

「・・悪い、聞こえてた・・」


アレだけ騒いでれば聞こえるよと笑う俊、辛そうに湯呑を握って俯く。

小さな沈黙・・それは気まずいものではなく、言葉を待っている優しい沈黙。

はじめの、こういう雰囲気は落ち着くわ・・だから、今日はこんなに酔えたのだろう。


「・・あいつに知られるのが、一番怖かったんや」


成仁の気持ちは痛いほどわかる・・肉親を亡くすことがどんなに辛いのか、その病状を知った時の苦しさ悔しさ・・なにもできない悔しさは、オレも同じやけど。


「俊が一人で抱えてることに、それのが辛そうに見えたよ。確かに簡単に言えることじゃないけど、伝えられたことは、よかったとオレは思う」

「オレは、ええんや。辛いのはあいつらなんやから、抱えるくらいなんてことない。だけど、今はどう接したらええかわからんくなってきた」


「アホなこと言うなよ。今更気使いすぎだ。弱気になるな、それのがまずいだろ?」

間髪入れずに怒ってくれる言葉に、胸が痛い・・でも心地いい。


気使いすぎか・・気を使わない、それは簡単そうで難しいこと。

オレは幸に対してそういう感情をもってないんじゃないか思う、いつも気を使ってる気がする。

母で後悔しとるから、同じことは絶対やりたなかった・・やから、知らん間に使ってて。

最低なんや・・結局、あいつにも気使わせとった・・いつも元気だと笑ってくれてた、そんんなはずないのに。


「ここは・・なんや、楽やなぁ」


心に秘めていたものが声に出てしまった・・瞬間はじめに睨まれる。

「そんなこと・・言うもんじゃない。重荷になんかするなよ」

小さく頭を叩く手、もっと罰してほしかったのかもしれない・・自分の非道さを。


「事実や、から。・・あいつのこと重荷にするつもりないんも事実や、けど成仁やはじめたちとおれて今はホンマ助かってるんよ・・夜が、怖い」


静かに沈黙が流れた。

夜が怖いと言う俊の表情は、その怖さを物語る・・


「担当医の先生に聞いたんや・・夜遅くなると具合が悪くなるって。オレの連絡先言ってある、万が一のため・・おちおち寝てられん。できることならずっと病院におりたいわ」


テーブルにうつぶせる俊、疲れているのが目に見えていた・・きっと眠れないでいたのだろう、ずっと一人で。

「・・ちゃんと寝てるのか、おまえ。今日はオレたちいるんだから、寝ろ・・大変だったな、ずっと」


「こんなもん・・平気や、そんな弱ないし・・心配すんなや」

ふいに優しくかけられた言葉に不覚にも揺らぐ、これ以上優しくしてもらうのは危険と察した・・弱くなってく自分、今はムリにでも強くいかなければ。


「わかってるから、無理すんな。眠ることは大事なことだろ?おまえが倒れたらどうする、余計な心配させるだけだぞ?おとなしく寝ろよ」


いつの間に入れたのかコーヒーカップに暖かな湯気。


「なんや、気使わせてるなオレ」

「ああ、これ?これは、おまえ、優しさってやつでしょ?」


「お先でしたぁ」

成仁が来るのを見越してか、おまえらというはじめ・・コーヒーカップは二つ並んでいた。


「なんか盛り上がってる?また飲んでないよね?」

「この家じゃ酒は厳禁なの。おまえもこれ飲んで早く寝ろ、オレは風呂入る。布団引いておくから勝手にどうぞ。あと、朝昭次起こしにくると思うけど容赦ないからよろしく」


じゃぁおやすみと、奥へと歩いてくはじめを見ながら俊が小さく笑った。

「なぁあれもはじめいわく、やさしさか?おもいきり気使ってるやんけ」

「ああ、これとか?あの人のはただの世話好き。気なんか使ってないでしょ」

いつものことだよとうれしそうに出された飲み物を飲む成仁、慣れているのだろう・・小さなはじめのやさしさに。


素直にその優しさを受け取り、飲み干した。


「昭次くん、なんだろね。なんか怖いな」

「容赦なく起こされれるってことやろ、おとなしくもう寝るか。遅いしな」


布団へ移動し、並んで寝転がる・・おやすみと小さく聞こえたかと思うと、すぐに小さな寝息が聞こえてきた。

成、疲れてたんかな・・ゆっくり休み。


こんなふうに誰かと並んで寝るんは・・久々や。

昔は母ちゃんと並んで寝てた・・仲間と雑魚寝もようしたわ、ケンカ疲れやったけどな。


静かな空気、すーっと眠気が襲う――ゆっくり、寝れそうや・・・ここでなら。


眠れなかったことが嘘のように、深い眠りに落ちていった・・



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