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エピソード1 ― 1・加賀家と成仁 

家族・兄弟愛・友情がテーマな少し謎めいたストーリー。人物紹介です。

「加賀はじめ」加賀家の長男、弟を支えてきた。いろいろ過去を抱えている。

「加賀昭次」幼い頃の記憶がないままはじめを頼りに、時折記憶の断片に悩まされている。

「大竹成仁」はじめの働き先の後輩、姉の病気がわかるまでは荒れていた。

「大竹幸」成仁の姉、重い病気で入院している。

「神崎俊」幸の恋人、母を病気で亡くしている。成仁に兄のように慕われている。


一ヶ月・・短いと言える時間の中、長く深い時間が過ぎていった―――


オレ、加賀はじめ・・それに弟、昭次を取り巻いていた穏やかな世界は、まったく違うものと――変わって、いく。




―――十二年前、家族で旅行へと出かけた加賀家、父の運転する車に母と子供一人。




「なんで兄ちゃんいないの?」


「兄ちゃんな野球の試合があったんだって。ごめんね知らなかったのよ」

「あいつの野球好きにはなにも勝てないからな。父ちゃんの予定が今日しかあいてなくて。昭、兄ちゃんいないとつまんないか?」

「そんなことない。父ちゃんと母ちゃんいたらいいよ、早く遊園地つかないかなぁ」


5才だった昭次を連れ遊園地へと出かけた、兄のはじめは予定がつかず留守番をしていた・・

一緒に行けなかったことは残念に思っていたが遊んでいるうちにさみしい気持ちもなくなり楽しいひと時。


その帰り道、連日の仕事の疲れが溜まっていた父の運転が・・もうすぐ家に着く、その油断が・・事故を起こしてしまう。


「・・あ、あぶないっ」


一瞬、目を離した・・その瞬間、目の前には壁が迫っていた。


衝突事故・・絶望の中、とっさに昭次をかばって身体を覆う母―――大きな音と共に、車が横倒しとなった。



しばらくして、消防や救急のサイレンが鳴り響く。


そんな中・・昭次がゆっくりと目を覚ました。          

「・・・母ちゃん、なに、どうしたの?重いよ、どいてよ・・」

母の下、這い出すように置きあがると様子のおかしさに気づく、

「母ちゃん・・?どうした、の・・」

母の額に流れ出る血を触る・・何が起こっているのかわからず固まる昭次。


「要救助者三名、子供が一人気づいてます。ぼうず、手伸ばせ、動けるかっ早くっ」


「な、なんでっ・・母ちゃんも!母ちゃん、起きて、なんでなにも言わないのっ!父ちゃん、も・・起き、て・・」

父を振り返る、父も同じく起きてはくれなかった・・怖くて怖くて泣き叫ぶ昭次。


「ダメだ、早く出さないと車がもたないぞっ。そっちのドアから出せるだろっ、早くしろっ」


強引に母から離されると、意識を失いそのまま外へと飛び出した・・瞬間、車は大きな音を立て・・燃え出す。



それから、しばらくの間目を覚ます事はなく・・目を覚ました昭次に記憶はなくなっていた。

オレのことさえ忘れていた・・兄のオレのことも、事故のことさえも―――あれからもう、十ニ年。




「兄ちゃん、遅刻だよっ。いつまで寝てんだよっ」

勢いよく布団を剥ぎ取られ、寒さにやっとで目が覚める。


時計を見ると、まだ十分ほど寝てられる時間。

「まだ、寝れるよぉ・・兄ちゃん疲れてるの、布団返せよ」

「もうごはん作ったんだよっ、冷めるだろっ。オレもう行くから早くしてよ」

布団を放り投げると慌しく階段を降りていく音、一気に目が覚めるってもんで。


「はぁー。あいつはホントしっかりしてるな。母さんにそっくりじゃん。なぁ父さん」

枕元、いつものように写真へあいさつを交わす。


ごはんを作ってもらっておいていつまでも寝てられるほど薄情ではないのだ、兄としての威厳が。



「おはよ、昭ちゃん。朝からご苦労さん」

感謝の言葉を言いつつ、大あくびで椅子に腰掛けるオレを笑顔で迎えてくれる昭次。

「おはよ。んじゃもう行くからね。かたづけといてよ。いってきまーす」


「おう、あっ昭次。今日早く帰ってきてな。みんなで飯食うからよ」

「わかってるよー。ご馳走楽しみにしてるから、がんばってよぉ」

じゃあと言い残し駈け出す昭次へ「当然だろ」と叫んで返す。


「一年に一度の腕をふるうからな、まかしておけ」

笑い声と共に玄関を抜ける音、一瞬に静まる部屋。

温かく用意された朝食、両手を合わせ頂いた。

          


いつのまにか習慣となっている家族四人での食事・・

当然、両親の姿はないが結構感じるもので、その時ばかりは戻ってきてくれているのだと思わせる――昭次には感じられてもつらいだけなんだけど・・親の事は、覚えていない。


「もう何年たってると思ってるんだよ。いいかげんなんだよあの医者も、藪じゃねぇのか治らんぞ」

時がたてば自然と思い出すとかなんとか適当なことを言われた記憶はあるが、現実はうまくいかない。


怒りにかき込むようにごはんを食べていると、ふと時計が目に入る。

「げっ、もうこんな時間かよ。遅刻しちまう」


ゆっくりしすぎた、片づけの時間も考えるとマジでやばい・・

速攻で食事を済ませてお皿を洗い、着替えながら歯を磨き、あちこち駆け回りながらついでに戸締り確認。

「よし。いってきまーす」



オレは本屋で働いていた、小さな本屋で店長をまかされている。

以前の店長は大きな書店に移動してしまい、後を任されたというくらいここでは長く働いている。


「おっはよーございます。なんかうれしそうっすねぇ」


大慌てで店の前まで着くとすでに玄関は開いていた、荷解きをしながらどうしたんですかと笑ってる。

小さな書店なので社員もオレともう一人だけ、大竹成仁。


こいつも昔からバイトで一緒だったんだけど続けてくうちに社員としてオレの下で働いてくれている。


「おはよーさん。なんで?オレ笑ってる?」

「えーなんか、うれしそうに見えたんで。今日はなんかいい日ですか?」

確かに楽しみにしていた日では、ある・・けど、顔に出るとは。


「なんでもねぇよ。ほら、早く仕事仕事」

「先輩遅いからもうやっちゃいましたよ、オレ掃除してきまーす」

「・・それはすんませんです。って、おまえに言われたくないんですけどっ」

笑いながら逃げてく成仁に遅れて叫ぶオレ。


「いつも遅刻してくるやつが言ってくれるものだ。まぁ、今日は助かったけど」


成仁はしっかりもののくせに遅刻だけは昔から直らないやつで、もう諦めている。

アットホームなうちならではのことだけど、ちなみにオレは遅刻したことはない・・今日も、一応時間内だし。

あいつが早く来すぎ・・珍しいことに、雪でも降るんじゃないだろうなぁ。



「成仁ー、ちょっと手伝って」

人もまばらになってくる昼過ぎ時、伝票整理を始める・・いうなれば、ちょっと休憩。


「はぁい。あっそうだ、先輩今日終ってからの予定は?帰り一緒しません?」

「悪い、今日はちょっとダメなんだよな。うちで大事な食事。準備しねぇと」


「なにがあるんですか?そういえば弟さんいましたよね、弟さんの誕生日?」


「ん?そうじゃないけど、似たようなものか。親のっていうか・・毎年、今日はみんなでって決めてんだ、といっても実際はオレと昭次しかいないけど」


「なんで?両親と先輩と弟さんで四人でしょ?」

オレの言葉にいまいちわからないと言ったように首を傾げてる成仁。

「あっ、もしかして、ご両親って・・」


なんとなく雰囲気で気づいたのか急に静かになる成仁、気を使わせてしまったようだ。

「そう、いないのよ。べつにもうずっと前の話だしそんな顔はしなくてよし、気にすんな」


「そうだったんすか・・でも、すごいっすね、先輩作るんすか」

「オレは結構やるほうよ?まぁ、たいしたことしないんだけど今日はそういうことで、悪い。そっちはよかった?」


そういえば成仁は帰りすぐ帰ってくから誘われたことは珍しい、今日朝早かったのもその流れなのでは・・悪い事したかも。


「あっいいんです、今日じゃなくても。姉ちゃんとその恋人さんなんですけど。会ってほしかっただけですから」

思いがけない人々の名に正直驚く、姉がいるのは知ってるが会った事はない・・しかも恋人?


「なんで?オレ?」


「オレがいつも話してるからかな。お世話になってる人でしょとか言って呼んで来てって。親みたいな人たちだから、オレも会ってはほしいような・・うるさいのよそういうことが」


いつも話してるってなに話してるんだか、姉ちゃんの恋人とも仲よさそうな感じで。

「そんなこと言いながら顔笑ってるよ成仁くん」

照れて睨んでくる、照れ隠しにすごまなくてもいいんじゃないですか?


「おまえが懐いてるって、いい人そうだなその人。姉ちゃんの彼氏ってことは兄ちゃんになりそうか?」

「そうなんだ、けど。やっぱ姉ちゃんの病気悪そうで。どうなるかわかんね」

「・・そっか、まだ悪いのか・・・」


成仁にも親がいない、オレたちと同じで・・ちょっと前まで悪いことばっかしていた悪ガキで。

ここにバイトに入るようになったのは姉の病気がわかったからだと言っていた。

オレが無理させていたからと・・たしかにその気持ちはわかる。


オレも親がいなくなってから無理しどうしだ、成仁の姉も同じ気持ちだったと思う。

そこにきてあの悪ガキの弟だ、その点オレより苦労してるはず・・同情するよ。

そりゃ改心もするだろう、いくら悪ぶってるあいつでもたった一人の肉親なのだから―――


「わかった。じゃ明日にでも会わせてもらおうかな、予定ついたら教えて」

「うん。予定聞いとくから、お願いします」


「オレもお世話になってるしおまえには、よろしく言っといて」

「世話になってるのは、オレのほうだから・・」

なぜか逃げるように本の整理を行ってしまう成仁・・


前の店長もとてもいい人で礼儀の知らないあいつを根気よく世話してた、それに便乗してただけなんだけどなオレは。


「オレも、おまえのこと兄として見てたつもりなんだけどな・・本物には勝てないか」

苦笑いのはじめを振り向いて笑ってる成仁へ、聞こえないように呟いた。


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