第五章 その二ー二
バンに戻ると、幡谷の怒鳴り声が出迎えた。
「おい、どうなってんだ!?何も聴こえなくなったぞ!?」
後部座席で田ノ中と共に通信機器を弄っていた幡谷は、スライドドアが開くなり噛みついてきた。ただでさえ苛立っている安藤はカチン、と来た。
「何よ…私だって、頑張ってきたのよ。少しぐらい労って…」
それでも、か細い声で抗議するのが精一杯だった。
「知るか!それよりどうなってんだ、盗聴器は!」
「いい加減、怒鳴るのは止めてくれないか?頼むから」
安藤の身より盗聴器の方が大事な幡谷と、困り顔で宥める田ノ中。安藤は辟易した。これ以上、この連中とやっていけるのか?二人を押し退ける様に乗り込むと、スライドドアを乱暴に閉めた。キッ、と幡谷を睨み付ける。
「私で不満なら、貴方が接触すれば!?あの人ヤバい、こっちで魔術を開発してる。私の知らない魔術で、盗聴器も壊された!」
「何ッ、魔術の開発なんて出来るのか!?それじゃあ、力量なんて未知数じゃないか!」
田ノ中の悲鳴じみた声。自分達は、とんでもない相手にちょっかいを掛けてしまったのではないか、という不安が背筋を走る。
「…で、何か話してたのか?」
幡谷も同様だったのか、かなりトーンダウンする。いい気味、とばかりに胸中ほくそ笑む安藤だったが、ほんの数分前に受けた仕打ちが脳裏を過ぎり、気分は台無しになる。それどころか、自分はものの見事、してやられたのだ。相手は全てを最初から知っており、鴨がネギを背負って来たものと見なしていただろう。それについて、上手に誤魔化しながら説明出来るだろうか?
「それは、大山さんも含めた所で。出してくれる?」
少々不機嫌そうな声で言った。
「…ちっ」
忌々しげに舌打ちし、幡谷はスライドドアを開け車外へ出た。運転席へ移った幡谷は、バックミラー越しに安藤を睨み付けた。
「次の集会で、全部話して貰うからな!」
その一言に内心、安藤は竦み上がった。幡谷がキーを回すと、エンジン音が車内の空気を震わす。ヘッドライトを点灯し、バンは走り去って行った。




