6話
「ロザリア、もう時間がありませんよ」
少し離れて見守っていたルフルが静かに告げる。
その瞳もまた、先ほどと色を変えオパールのように虹色に輝いていた。
「…救済のしようがない、か」
「ええ。司祭様はもうすぐ理性を失います。そして、他の者たちも異形へと変わり果てます」
ロザリアは頷くと、獰猛な笑みを浮かべた。
「手加減しなくて済むなっ!」
槍を握り直すと、ロザリアは大蛇達の方へと斬り込み先頭にいた村人を一人串刺しにする。
「魔物憑きは私が一人残らずこの手で殺す…!」
神に祝福を受けた者とは思えない事を言い放ちながら、槍に刺さる村人を振り払い背後から襲ってきた別の村人の攻撃を身を翻して避け、すれ違いざまに背中を貫く。
「ひぎゃあぁぁぁっ!」
その悲鳴にルフルは眉間に皺を寄せた後、ハッとした顔をする。
「ロザリア!下からきますよっ!」
その言葉に反応してロザリアは横に大きく飛び退き、それと同時にさっきまで立っていた場所から大蛇が勢いよく地面から飛び出してきた。
「その力は使うなと言っているだろう!ルフル!!」
「使わないと貴女は無茶ばかりしますからねっ…」
左目を押さえながらルフルはニッと笑う。
「今度は口から毒を出しますよ!」
「…たくっ!」
今はこれらを倒すのが先決だ。
ロザリアは自分に向かって斧を振りかざしてきた村人の胸ぐらを掴むと、大蛇の方へと突き飛ばした。
その村人は大蛇が口から吐き出した透明な液体を身体全身で浴びると、悲鳴をあげながら溶けていった。
「彼女はこれにやられたか…」
魅夜が治療している女性を思い出し怪訝そうな顔をして、人の姿を保つ最後の村人の首を掻き切る。
顔についた返り血を拭うと、大蛇を見つめた。
「さて、後はお前だけだな」
「神は我らを裏切り地に落とした許さん!許さんぞ!」
あの司祭はとうとう自我まで魔物に乗っ取られたようだった。
一瞬だけ、ロザリアは哀れんだような顔をした後、槍を地面に突き刺す。
「すぐ楽にしてやる」
そう言って身体の中に眠る神の力を呼び覚ました。
身体を駆け巡る冷たい力を槍の中へと流し込む。
「どうか、彼らに祝福を…。全てを終わらせろ!!天氷の花よ!」
叫んだ刹那、大蛇の下から突然氷柱が言葉通り花を咲かすかのように地面から突き出し大蛇を串刺しにした。
氷に青い血を滴らせてのたうつ大蛇の前に来るとロザリアはその額に槍をつき刺す。
「…眠れ」
ロザリアの一言で、大蛇は目から光を失うと絶命した。