4話
轟々と音を立て聖なる炎は魔物憑きと烙印を押された少女を包み込み無慈悲に焼いていく。
その光景を司祭は微笑みながら見つめ、周囲に漂う肉の焼ける匂いを胸一杯に嗅ぐと後ろに控える村人たちの方を向き両手を広げた。
「諸君、魔物憑きは聖なる水と炎で完璧に排除された!我々は神の力により守られたのだ!」
司祭の宣言に村人たちが雄叫びを上げたその刹那ー。
「ほう、神の力か」
氷のように冷たいその声に湧き上がっていたその場は水を打ったように静まり返り、声のした背後に人々が視線を走らせるとそこには銀色の肩の位置で切られた髪を風に靡かせ、黒馬に跨っている女性が立っていた。
「何だ貴様は!?」
司祭の怒りに震える声に女性は臆する事なく、馬から身軽に降り立つと司祭と村人たちには目もくれず人々の間を通り業火に焼かれる少女の前まで来ると苦虫を噛み潰したような表情をする。
「…来るのが遅かったか…」
女性は静かな声色で呟いた。
「おい!貴様は何者だ!」
無視をし続ける女性に痺れを切らし、司祭は肩を強く握りしめて怒鳴り声を上げた。
「黙れ!愚弄!!」
激昂して、女性は司祭の手を振り払い何も無いところから突然、槍を出すと地面に突き刺しそこから氷が現れ花を咲かせた。
人知を超えるその力に司祭を始め、村人たちが思わず後ずさる。
「そ、その力は…!」
「ローズ・オブ・ルミナス。神に祝福を授かりし者」
女性の凛とした声に人々が息を呑む。
「ロザリア、貴様隊長の癖に突っ走りすぎじゃ」
静まり返るその場に響く幼い少女の声がしたかと思うと二頭の馬が突然人々の背後から現れロザリアと呼ばれた女性の前まで来ると止まった。
「私に指図をするか、魅夜」
「指図では無い、クレームじゃ。馬鹿者」
「ふ、二人とも辞めましょうよ…」
「「ルフルは黙ってろ!!」」
二人に怒鳴られ濃緑の髪を持つ少年、ルフルは「ヒッ!?」と声を声を上げて馬から降りる。
それに続き腰まで伸ばした黒髪を揺らし魅夜も降りると燃え盛る炎の方に視線を向けた。
「これまた派手に…」
「燃えてる方は無理でも顔に火傷してる者を助ける事は出来るか?」
「…ふむ。出来る限りはしておく」
魅夜はロザリア達に背を向けて辛うじて息をしている方の女性の方へと歩いていく。
「後は魅夜に任せる。…さて、貴様ら誰の許可を得て魔物憑きの裁判をした?」
ロザリアは地面から槍を引き抜き、司祭達にその先端を向ける。
「誰の判断でかの者達を魔物憑きと判断した?」
「わ、私ですが…」
ロザリアは目を閉じ司祭の震える答えを聞く。
「そうか」
短く答え目を開く。
「…そ、その目…!」
彼女の目は青く輝いていた。
魔物憑きと判断された少女のように。
「貴様は何時から神になった!?神に成り代り人を裁くなど言語道断!恥を知れ!!!」
怒鳴るロザリアの肩にルフルが手を置いた。
そう言うルフルの目もオパールの様な色に変わっていた。
「ロザリア。彼らは人では無いですよ。少なくとも司祭を含め五人は魔物憑きです。後の村人は卵が孵りそうな危うい状態ですね」
「そうか。なら、五人は殺していいな」
「どうぞ」
ロザリアは獰猛な笑みを浮かべた。
「神に代わり私が魔物憑きの貴様らに裁きを下す!」