3話
顔が火傷を負ったかのように爛れ、煙を上げさせながら声にならない悲鳴を出し続けている姉の姿を目に焼き付ける。
忘れない。…この地獄のような光景を私は決して忘れない。
死んでも忘れない。
「赤眼の魔物に天罰を!」
耳障りな声で視線を司祭に戻した。
司祭の高らかな声を合図に松明を持っていた村人が数人前に出て松明を足元まで持ってきた。
あれが私を焼く“アリスの聖火”なのだろう。
ただの火じゃない。結局、裁くのは神などではなく人間だ。
「畜生…」
思わず零れた言葉なんて誰の耳にも入っていない。
村人が高く煌々と輝く松明を高く掲げて、司祭の合図を待つ。
私のつまらなくて無慈悲な人生もこれで終わり。
憎しみのこもった目で司祭を睨みつけるが、笑顔で返されてしまった。
「裁きを!」
その簡単な一言で私の足元に松明が投げられた。
私を焼き尽くそうと燃える足の先に伝わる熱は、私に死を嫌でも感じさせる。
さっきまでの威勢なんてどこかに吹っ飛び、私は迫り来る死の恐怖に冷水を浴びたかのように身体を震わせた。
死んだらどうなるの?
本当にこの事を覚えてられる?
私が私だってちゃんと理解できる?
夢を見ない時のように真っ暗で何もわからなくなるの?
私は無になってしまうの?
怖い…怖いよ…!
死について考えるのはここまでだった。
私の身体を括りつる丸太はあっという間に炎で覆われ足に火が移った。
「ひっ!ぎぁぁぁぁぁぁぉぁ!!!あ、熱い!熱い!!」
己の足を焼く炎の熱に頭が真っ白になる。
あまりの熱さに天を見上げ仰け反りなんとか逃れようとするが無駄だった。
熱は一瞬で痛みとなり私の身体をどんどん舐め尽くす。
正気なんて保っていられない。
熱と痛みと己の肉が焼けていく臭いに狂いそうだ。
「あぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁあ!!!!…っゲホゲホ!ヒュー」
せり上がってくる炎の熱は私の喉の声帯まで火傷を負わしたようで悲鳴をあげるどころか、息すらまともに出来ない。
死にたく、ない…!
死にたくなんて…。
視界は霞み、もう何も見えないし聞こえない。
あるのは痛みと熱と匂いだけ。
それもついには感じなくなり無が私を迎え入れた。
私は死んだのだ。