1話
あぁ…、なんでこんな目に会わなきゃいけないのだろう。
丸太に括り付けられ身動きが取れない状況で私は、憎しみのこもった眼で村の人に延々と演説をする司教を睨み付けた。
こいつが私を“魔物憑き”だと言ったせいで、唯一の家族である姉さんまで、丸太に括り付けられ拷問される羽目になってしまった。
「皆の者よ!この水を見よ!」
そう言って司祭が高く掲げたのは透明な瓶に入り松明の灯りで煌々と光る水。
「この水は我らを祝福してくださる水の女神、ウォルティスの涙と同じ力のある聖水である!これを“魔物憑き”に掛ければ皮膚は爛れ身を裂くような痛みに襲われやがては死に至る!さぁ、この者どもが“魔物憑き”かどうか見極めようでは無いか!」
司祭は神に仕えてるとは思えないような、下衆な笑みを浮かべて私たちを見る。
「さて、“赤眼の魔物”から試すか…それとも、匿う愚か者か…」
“赤眼の魔物”は私の事。
何故か感情が高まると、私の両目は赤く染まってしまう。
それは幼い頃で、死んだ父さんも母さんもそれがバレ無いように必死に私の前髪を伸ばして眼が見えないように隠したりして殺されないように守ってくれていた。
もちろん、姉さんだって私を守り続けてくれていた。
それなのに、私は迷惑しかかけてない…。
恩返しすることも出来ないまま殺されてしまう。
姉さんだけでも助けたいけど、それは無理。
姉さんの方を見ると、ぐったりとして生気がほとんど感じられない。
今までの拷問のせいなのは明らかだった。
口の中に広がる血を司祭に向かって吐き出してやる。
最後のささやかな抵抗だ。
「姉さんが魔物なわけないじゃない!愚か者はあんたの方よ!神様がいるんだったら、無実な姉さんを殺そうとするあんたに真っ先に天罰が下るわ!」
「ならば、天罰が下るのか見届けよう!まずはその女から聖水をかけてやろう!」
「なっ…!?」
まずい…!庇うどころが私のせいで姉さんが最初に訳のわからない液体をかけられてしまう!
縛られている紐を解こうと、もがくが全く解ける気配も無くただ皮膚が擦れて赤く血が滲むだけだ。
「姉さん!」
どうにも出来なくて、私はたまらず叫び声をあげた。
そんな私を姉はまるで女神の様な微笑みを浮かべて、一筋の涙を流した。
「ごめね、アルレイン。貴女を最後まで守ってあげられなくて」