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350 寝たふり ☆
先程までケージで寝ていた猫がわたしのところへやって来た。ごはんの催促に違いない。わたしは咄嗟に寝たふりをした。
まずはベッドの木枠に手をかけてベッドの上に顔を出す。そうしてわたしの様子を窺うのだ。わたしは寝たふりを続けた。すると猫が鳴き出した。
「くぅ」
「くぅ~」
寝たふりだ。ごはんの催促に決まっているのだから。
猫はわたしの枕元で鳴き、出窓へ行って鳴き、壁で爪研ぎを始めた。だがここで起きては猫の思うつぼ。わたしは必死に寝たふりを続けた。すると静かになった。やれやれ、諦めたか。とわたしがそっと目を開けたら、目の前に猫の顔があった。どうやらわたしの顔の匂いを嗅いで起こそうとしたらしい。
ああ、せっかくの寝たふりは失敗に終わった。




