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blossom night

「要望通りのものを短期間で作るとはな…流石だよ、平賀姉妹は」


日本にいる知り合いが持ってきた物…一振りの白銀の大剣を眺めながら私は呟いた。

この剣は彼…ブロッサム・ナイトと呼ばれる彼の為に用意した新しい剣だ。

彼ならば、この剣に満足してくれるだろう。


「けほっ…こほっ…」


ふと、私は咳き込んでしまう。


「……そろそろ、私も限界かも知れんな」


苦笑を浮かべつつ、私は掌に付着した血を見ながら呟いた。





「日本に?」

「そうだ」


渚に呼び出され、俺は新しい『仕事』の話を聞いていた。

内容は日本の何処かにある聖遺物と呼ばれる物の一つ、『翠玉の碑文』の回収だ。


『翠玉の碑文』…その名の通り、莫大な魔力と氣を孕んだ翠玉の石板に神と異能力に関する事が記されたものだ。

ただ、『翠玉の碑文』はずっと昔に砕かれ、今は欠片しか残っていないと聞く。


「その『翠玉の碑文』の欠片が見つかったのだよ。それも、過去最大のものがな」


今まで発見されたもののその殆どは良くて米一粒程の大きさだ。

今回見つかったものは赤子の手程の大きさだそうだ。


「だが、日本の何処かにある、とは?」

「私には分からん。それにこの仕事は外注だしな」


外部からの依頼…?


「まあ、詳しくは依頼主に聞くといい。もしデマでは無かったら大事だしな」


そう言い、渚は膝に乗せた猫の背を撫でた。


…確かに、な。

過去最大の『翠玉の碑文』が発見されただなんて大々的に公表されてみろ、各国がそれを我が物にしようと思い、最悪戦争にまで発展する危険性がある。

世界のパワーバランスを覆す訳にはいかない。


「依頼主はお前と話したいそうだ。この場所に行け」


渚は俺に地図を投げ渡した。

地図の一角には印が付けられていた。





地図に印がされていた場所は少し小さな古城だった。

少し警戒しつつ俺は中に入る。


「ようこそ、ブロッサム・ナイト。会えて光栄だよ」


古城の中にはまるで中世の貴族の様な姿をした男が待っていた。


「私はジルベール。君と同じく私も異能力者だよ」

「…話はなんだ?」

「そう急かさないでくれたまえよ。先ずは、共に会えたことを喜び合い、称え合おうではないか」


そう言い、ジルベールは指を鳴らす。

その時、ジルベールの周囲に光の球体が幾つか現れた。

…光属性の魔力系異能力か。


「そんな事より答えろ、『翠玉の碑文』に関してだ」

「ああ…それも大切な話だったな。良いでしょう」


ジルベールはそう言い、おもむろに階段を降りてきた。


「『翠玉の碑文』のある場所は判明しているのだよ。より正確な場所までは流石に分からなかったが」

「何処なんだ?」

「ああ、教えようとも。しかし君は大変素晴らしい力の持ち主だ。このまま野放しにするのは惜しい、惜しすぎる」

「…何が言いたい?」

「私の騎士にならぬかブロッサム・ナイトよ?私は君を優遇し、君の願いの全てを叶えよう」


…最初からそれが目的か。


「断る」

「悪いが君に拒否権は無いのだよ」


そう言い、ジルベールは再び指を鳴らした。

次の瞬間、俺の周りに銀色の柵が現れた。


「ッ…これは…」


突如、虚脱感に襲われる。

異能力を弾き封じる銀…ゼロシルバーの檻か。


「如何に君が優秀な異能力者だとしても、これは破れまい」

「貴様…」

「君がイエスと言うまでこの檻は開かんよ。それにこの檻はゼロシルバーとオリハルコンの合金だ。君のその剣だろうと壊せんよ」


ジルベールは勝ち誇った表情で言った。





「…戻って来ない」

「ふむ、確かに遅過ぎる…」


渚君とパイラ君の二人も彼の身に何かあったのだと察したのだろう。


「迎えに行くかい?」

「そうだな…パイラ、留守番は頼むぞ」

「…任せて」


私と渚は部屋を出て、滑走路に向かった。


「渚君、すまんが私のセスナで行く。いいか?」

「構わないが、何故だ?」

「渡したいものがあるのだよ、彼に」


そう、セスナに積み込んだあの大剣を、彼に。





「はぁ…はぁ…」


大剣で何度も柵を叩き付けるも、柵は傷一つ付く事は無かった。

その上、大剣の刃にヒビが入り、今にも折れてしまいそうだった。


「諦めたまえ。この檻は私の財産の半分を注ぎ込んで作った特注のものだ。君の為に用意したのだよ」

「…クソッ!」


もう一度俺は大剣で柵に斬り掛かった。

だが、柵はびくともせず、遂に大剣は折れてしまった。


「諦めたまえ。私の騎士になるのだ」

「誰がお前の騎士になど」!

「そうだ。返して貰うぞ、我々の騎士を」


突如ひびきわたる声。

聞き覚えのある声だった。


「渚…それに、杏華!?何故お前がここに!?」

「あまりに遅いからな、迎えに来たのだよ」


そう杏華は答えた。


「く…私の計画、邪魔させませんよ!」


そう言い、ジルベールは光弾を二人に飛ばした。


「ハッ…」


渚は闇弾を放ち、相殺する。


「早くブロッサム・ナイトの元に行け!」

「そうしよう…!」

「おのれ…好き勝手させませんよ…」


ジルベールは指を鳴らすと、四方八方に光弾を放った。

光弾は天井や壁に命中し、瓦礫となって辺りに飛散する。


「クッ…!」


杏華は飛散する瓦礫の中を掻い潜り、俺のいる檻の前にまでたどり着いた。



「はぁ…はぁ……」

「無茶をする…」

「だが、結果オーライだろう?」


そう言い、杏華は白衣から何かの液体が入った小瓶を取り出し、檻に振りかけた。

すると、ゼロシルバーとオリハルコンの合金で出来た檻は一瞬で酸化した。


「これなら…!」


俺は酸化した檻を壊し、外に出た。


「礼を言う、杏華」

「何、気にする…な…」


突然、杏華はその場に倒れた。


「――ッ!!」


杏華の白衣の背中には瓦礫の破片が深く刺さっており、そこを中心に赤い染みが広がっていた。

「杏華――!」


俺はすぐさま杏華を抱き起こした。


「杏華…お前…!」

「ハハッ…君達みたいにはいかないなぁ…」


杏華は苦笑を浮かべながらそう言う。


「待ってろ、今治癒する!」

「いや、いい」

「なんでだよ!?」

「今この怪我を治癒しても、どのみち私は助からん」

「な、何を言って…」

「…私は白波杏華の、クローンなんだ」


クローン。

複製人間。

技術的には可能ではあるが、クローン人間を生み出すことは世界で禁じられている。

それに、クローン人間は普通の人間とは違い、テロメアが短くて、短命だ。


「保って後数日の命なんだ、私は…」

「そんな…」

「だから、君はもうすぐ死ぬ私を救うよりも、これから奪われるであろう多くの命を救うんだ…君が、『守りたい』と思える人物を、見つけだんだ」


杏華は先程まで抱えてい

た物を俺に渡した。

それは、白銀の刃を持つ大剣だった。


「君ならできるさ…きっ

と……いや、必ず…」

「杏華…」

「私は……そう…しんじ…て……る…よ……」


そう言い残し…杏華は、俺の胸の中で事切れた……。


「杏華……」

「戯れは済みましたか?では、続きをしましょうか!」


ジルベールは光弾を生成し、俺に放った。


「――」


俺は光弾に大剣を振りかざした。

大剣の刃に触れた光弾は消滅した。


「な、何だと!?私の光弾が、防がれた…!?」


なるほど、この大剣…少しずつ特殊な構造になっているようだ。

恐らくゼロシルバーが使われているのは間違いない。だが、それも能力使用を両立できる仕組みになっているようだ。

…杏華亡き今、それを知る術を失ったが。


「…悪いが、お前だけは許さない」


大剣の柄を強く握り、力を込める。

刹那――大剣の刃が白銀の光を放ち、巨大な光の刃に変わった。


「な、何なんだその力は…!?君は、何者なんだ!?」

「俺は…」


ひ光の剣を構え、ジルベールに向かって駆ける。

ジルベールは光弾による迎撃を行うも、全ておれには当たらない。


「ブロッサム・ナイトだぁぁぁ――!!」


光の剣をジルベール目掛けて降り下ろす。

瞬間、ジルベールの肉体は粒子レベルにまで分解され、消滅した。

更に、大剣から光がは放たれ、古城の屋根を吹き飛ばした。


「………」


俺は大剣を背に納め、杏華の亡骸を抱き抱えた。


「ブロッサム・ナイト…」


渚は俺に声を掛ける。


「……『翠玉の碑文』の詳しい在処が判明した、戻るぞ」

「………ああ」

「…すまない、私はお前にどう言葉を掛ければいいのか…」

「………」

「…泣いている、のか?」

「……多分、雨だろう」


ああ…視界が滲むのもきっと、雨のせいだ。

こんなにも空は曇っているんだ、雨が降っているに違いない。


「…そう、だな」


渚は何か言いたげな表情を浮かべ、空を見上げた。


「その雨は、お前にだけ降っているのだろうな…」





彷徨う。


宛も無く、俺は彷徨い続けていた。 手には、血塗られた大剣。 俺自身も、幾多の返り血で染まっていた。 だけど、ここには誰もいない。 敵も、味方も。


何故、俺はここにいる?


誰もいない世界で、俺は彷徨い続ける。 それはいつまで続くのか、自分にも分からなかった。


…分からない、筈だった。


俺の目の前を、誰かが横切った。

…あの白い髪は、知っている。

俺のよく知る人物だ。


気が付くと、俺は彼女を追っていた。

ただひたすら走り続ける。

どうして俺は彼女を追うのか、自分でも分からない。


だけど…だからこそ、俺は彼女を追っていた。


やがて、彼女は立ち止まり、ゆっくりとこちらに振り返った。


一瞬、彼女は微笑んだ気がした。

次の瞬間、彼女の姿は掻き消えていた。


それと同時に現れる、別の少女。

赤い髪の少女はゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる。

俺は、その手に触れようと手を伸ばした。






「…ん……」


目を覚ます。

…またあの夢だが、今日のは何か違っていた。


「……杏華…なのか…?」


あの白髮の少女は杏華なのかも知れない。


…俺は彼女を、守れなかった。

多分、後悔しているのだろう。


だけど、もう一人…夢の中で杏華に導かれて巡り合ったあの赤髪の少女は一体……


「…誰なんだろうな…あの少女は」


…考えても仕方無い。

夢は夢でしかない。

そう思いつつ、俺は起き上がった。





昨日、『翠玉の碑文』の在り処が判明し、教会の方は慌ただしい事になっていた。

そんな中、俺は教皇代理に呼び出されていた。


「…白波博士の事は確かに残念だった。しかし、彼女に拾って貰ったその命、決して粗末にしてはいかんよ?」

「…はい」

「すまないが君には新たに使命を与える。…君ならば、もう察しは付くだろう?」

「碑文の回収…ですか?」

「ご名答。君にばかり頼るのも私は心が痛むが…今の君ならば、私の使命が無くとも独断で動きそうだったからね」

「…お見通し、って訳ですか」

「ええ。君は無茶をするからね。だが、今度は無茶をしないでおくれ」


そう言い、教皇代理は聖女像の前で祈りを捧げた。


「…了解」

「君に神と、聖女の加護が在らん事を。Amen」





「…行くのか」


教会の出入り口で、渚に声を掛けられた。


「ああ」

「そうか」


互いに顔を合わせず、俺達は会話をする。


「…生きて帰ってこいよ?でないと、杏華に呪われかねんぞ?」

「そうだな…」


俺は一度だけ渚の方に振り返り、問い掛けた。


「渚…お前の大切なものは何だ…?」

「パイラだ。それしかあるまい」

「そうか…よっぽど大切なんだな」

「ああ。世界とパイラ、どちらかを選べと言われても私なら躊躇わずにパイラを選ぶだろう」


そう言い、渚は笑みを浮かべた。


「だから、お前も見つけてこい。かけがえのない、大切なものを」

「…ああ」


俺は振り返り、歩き出した。


「生きろよ…ブロッサム・ナイト」





その後、バチカンから日本までの便に乗り、俺は日本に到着した。


…異能力者の数はバチカンを除けば最多となる近代国家、日本。

ここはあらゆる技術が発達し、今では他に類を見ない巨大な国となっている。


「……」


『翠玉の碑文』があるのはこの街の何処かだと、教会れ連中は言っていた。

だが、それ以外は相変わらずノーヒントだ。


「街を割り出せただけまだマシか…」


そう呟き、俺は街を歩く。


しかし数時間後、突然の大雨に晒された。

俺は街外れにある神社で雨宿りをしていた。


…色々調べたが、碑文は街中にある確率は低い事が分かった。

なら、次は街の周辺を探すしか無さそうだ。

そう思いながら俺は降りしきる雨を眺めていた。



…気が付くと、眠っていた様だ。

だが、まだ日は昇っている。

どうやら眠っている内に晴れたようだ。


「……」


ふと、人の気配を感じ取り俺は警戒する。


「……あ…」


現れたのは、巫女服を着た赤髪の少女だった。

所謂、ツインテールと呼ばれる髪型に、気の強そうなつり目の少女だ。


「――!?」


それは、夢で出会ったあの赤髪の少女に似ていた。

偶然かも知れないが、内心俺は驚きを隠せなかった。


「…人の神社で雨宿りかしら?」


少女は俺に声を掛けてくる。


「ここしか…場所が無かったからな」


そう、俺は答えた。




To be continue...

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