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dark&princess

――ふと、懐かしい夢を見ている。


時は1960年代のソビエト連邦。

冷戦真っ直中のこの時代は、世界中の人間がピリピリしていた。

今にも三度目の世界大戦、それも核を用いた大戦争が起こってもおかしくは無い…そんな時代だった。


「ハッ、こんなものかよ…」


雪原に、私はいた。

辺りには壊れた車や男達の無惨な死体が転がっている。

…全て、私がやった。


「な、何なんだ貴様は…!?アメリカの手先か…!?」

「アメ公のスパイじゃないんだよな俺は」


そう言い、私はゆっくりと男の元へと近付いた。


「た、頼む、命だけは――」


男の命乞いを聞く前に、私の影に潜む『獣』が男を喰った。


「…お前らは命乞いする人間を何人殺してきたんだろうなぁ?滑稽だぜ…ハハハッ」


真っ黒な『獣』は再び私の影の中に戻った。


…そうだ、この世界は歪んでいる。

歪んでいるから二度も馬鹿げた戦争を世界規模でやったんだ。

異常こそ、正常。

悪こそ、正義。

混沌こそ、秩序。


…クソッタレ。

どいつもこいつもクソッタレだ。


「……」


ふと、鏡に映る自分の姿を見る。

黒い髪で、右目が金色の青年――それこそ私、水無月渚本来の姿だ。


「いっその事、もう一度世界大戦が起こったら人類皆殺しとかも面白そうだよなぁ…!」


狂った様に笑いながら私はそう呟く。

世界中の人間を皆殺しにしたい…そう思うほど、この世界にはもう救いが無いと思っていた。

そしてその気になれば私は、それを実現するだけの力を持っていた。


「…さて、こんだけ殺しゃ、暫く軍隊の連中は静かになるだろう」


だから…休憩だ。

その為に私は街に向かって歩き出した。






世界がどうなろうと俺には関係無い。

俺は俺が存在し続ければそれでいい。


「…クソッ」


さっきの兵士が持っていたレーションの空容器を投げ捨てる。

あんなクソマズいもの、二度と食うか。


「……だっりぃな」


そう言い、俺はその場で横になった。

ここは町外れの廃教会。人も寄り付かないし雨風も凌げるから身を隠しながら休むには丁度良い。


「……」


薄汚れた壁画や割れたステンドグラスを眺めつつ、俺は今までを思い返す。

100年近く生きてきたが、ロクな事が無かった。

人間は殺し合いしかできないのか、と思わざるを得ない。

…だからこそ、俺は人間を躊躇い無く殺せる。

そうやって邪魔な奴は皆、俺が殺してやった。


「…ハンッ……」


くだんねぇ。

考えるのも面倒なので、俺は一眠りしようとした。


「にゃー」


そんな時、静寂を打破る鳴き声が聞こえてきた。


「……あ?猫?」


俺は起き上がり鳴き声の聞こえた方向に視線を移す。

祭壇の上に、一匹の白い猫がいた。


「何処からは行ってきやがったんだよお前は…」


このまま放っておくのもいいがここに住み着かれたらたまったもんじゃない。

猫を教会から摘み出そうとした時だった。


「…その子に、何をするの」


背後から、声を掛けられた。


「…あん?」


振り返るとそこには、銀髪の小柄な少女がいた。


「……いじめる?」

「いじめねぇよ。ただ、ここで寝るから出てって貰おうとしただけだ」

「…でもこの子、ここがお気に入り」


そう言い、少女は祭壇に上がり、猫を抱いた。


「…ったく、分かったよ…好きにしろ」


俺は椅子に横になり、少女に背を向ける。


「…ここで寝ると風邪を引く」

「引かねぇよ」

「身体が冷える」

「冷えねぇ」

「毛布取ってくる」

「そんなもんいらねぇ…って、本当に取りに行きやがった」


少女は毛布代わりになりそうなものを探して教会の奥に入っていった。


「…やれやれ…」


呆れつつも目を閉じて眠ろうとする。

数分後、俺の身体に何枚か薄い布らしきものが被せられた。


「……何だこれ」


見るとそれはテーブルクロスやカーテン、それに破れたソ連国旗などだった。


「…ソビエトは寒い。だから毛布代わり」

「……お節介な…」

「迷惑、だった?」


少女は心配そうな声色でそう尋ねてきた。


「…迷惑じゃねぇよ別に……」


…なんか、調子が狂う。

まるで何を考えているのかさっぱり分からないと言うか。


…これが、俺とパイラの初めての邂逅であった。





あの日から、パイラは俺が寝泊まりする廃教会に顔を出す様になった。

そしてよく、自分の事や猫の話を俺に話した。


…曰く、パイラは孤児で猫は彼女にとって家族と同じ様なものらしい。

彼女は猫を始めとした様々な動物の言葉が分かる様で、彼女もまた動物達に自分の意思疎通が可能だとか。

恐らく、能力によるものだろう。推測だが彼女の能力は召喚系能力か身体変化系能力だろうか。


「…なあ」


俺はパイラに声を掛ける。


「…?」

「お前は俺が怖くないのかよ?」

「…怖いの?」

「らしいぜ。他の奴等は俺の事を悪魔だの死神だのよく言うよ。むしろ上等だがな」

「…渚は怖くない」


そう言い、パイラは俺をジッと見る。


「…それに、渚は猫に優しい」

「それが何なんだよ…」

「動物に優しい人は、優しい」

「…変な理屈だな」


なんでそう安心できるんだこの小娘は…?

俺は誰かを『気に入らない』という理由だけでも殺す様な人間なんだぞ…

もしかしたら今この瞬間、お前を気に入らなくなって八つ裂きにしてしまうかも知れないのに。

…なのに、自分でもそれだけは絶対にするな、と無意識の内に自戒している。

何故だ…何故こんなにも、こいつは………優しいんだ。





ある日、パイラが廃教会に現れなくなった。

体調でも崩したのかと考えていたが、三日程経ってから妙な違和感を感じ始めた。

…この廃教会を、何者かが監視している。それも一人じゃない。


「……さてと、行くか」


おもむろに立ち上がり、俺は廃教会の外に出た。

次の瞬間、俺の頭目掛けて銃弾が飛来した。


「……アァン?」


能力を発動し、闇のバリアを発生させて銃弾を弾く。


「ご挨拶だなええ?出た瞬間いきなりぶっ放しやがってよ」


銃弾が放たれた方向に向き直り、右手に闇のエネルギーを溜める。


「…ま、目には目を、歯には歯をだ」


そう言い、俺は闇のエネルギーを放ち、銃弾が放った奴がいる所を薙払った。

地面は抉れ、草や木は一瞬にして塵となった。



「ハッ!狙撃すりゃ一撃で終わると思ったのかよ三下がぁ!」


両手に闇のエネルギーを溜めつつ、辺りに潜む敵のおおよその数を確認する。


「おーおーいるねぇ。一個中隊クラスに装甲車二台、オマケに戦車かよ…人独りに大袈裟な奴等だなぁ」


敵の用意した戦力に内心笑いながら、闇のエネルギーを球体にし上空へと放つ。


「――何人いようが、関係ねぇがな!!」


放たれた闇の球体は次の瞬間、無数の黒い光線となり辺り一面に降り注いだ。


「これ、レーザーってんだぜ?お前らにはまだ早過ぎたかもな、ハハハ!…さて」


俺はゆっくりと歩き、一人残った男に近付く。

…いや、正確には『わざと残した』、か。


「ひっ…バケモノ……!」

「俺の言う事に答えろ」


そう言い、俺は男の頭を掴む。


「ここを狙ったのは誰の差し金だ?」

「だ、誰が言うか…貴様などに……!」

「これは質問じゃない、尋問だ。何なら拷問にしてやろうか?」


そう言い、俺の影から刃の付いた腕が現われ、男の首に刃を近付けた。


「お、俺達はソビエト軍に雇われたんだ…ここにいる異能力者を消せば、何でもくれてやるって…」

「…なるほどな。お前ら、どうりでソビエト軍じゃないと…東洋人、それも朝鮮人か」

「貴様の知り合いを取っ捕まえれば、貴様は姿が現れると考えたのさ…!」

「…テメェ、あの小娘をどうした!?」

「知るものか…俺達はただ貴様を殺せと命じられてきたんでね……今頃上官殿の慰み者にされてるんじゃねぇか?」

「――ッ!!」


手に力を込め、男の頭を握り潰した。


「…ざっけんじゃねぇ」


俺は奴等の本隊の手掛かりを探す為、辺りを見渡した。


「にゃー…」


ふと、破壊した戦車の陰に一匹の白い猫がいた。


「お前、パイラの…」

「にゃー」


猫は俺に背を向け、歩き出す。


「にゃ」


猫は一度俺の方に振り返り、そして走り出した。


「…着いて来いって事だな」


何故か、そう俺は感じた。

この猫はパイラの居場所を知っている、と。

そう信じて、俺は猫の後を追った。





走って数十分の小さな広場に、キャンプがあった。

そこにいるのは朝鮮人の兵士達…恐らく、ここで間違いない。


「お前は離れてろ。流れ弾に当たったりでもしたらマズいしな」

「にゃー」


俺の言う事が分かったのか、猫はここから離れた。


「さて、問題は何処にいるかだ……見つかる前に暴れるのは得策じゃねぇ」


もしパイラを発見する前に兵士に見つかったりでもすれば、奴等は恐らくパイラを連れて逃げるか、その場で殺すだろう。


「チッ…本当はガラじゃ無いぜ、こんな事は……」


茂みに隠れつつ、辺りの様子を伺う。


「……あれか…?」


一際大きいテントを、俺は様子を伺う。

周りには見張りの兵士が二人。

他のテントには見張りは無い。


「…あれだな」


俺は先程拾ったスモークグレネードのピンを抜き、武器庫付近に投げ込んだ。

武器庫から白い煙が立ち籠める。


「なんだ?」

「暴発したのか?これだからオンボロは…」


テントの見張り以外の兵士の注意は何とか引き付ける事はできた。


「――!」


俺は音を立てずテントに向かって駆ける。


「ん?」

「寝てろ」


一気に近付き、兵士の喉元にナイフを突き刺す。


「お、おい!?」

「お前も寝ていろ」


続け様にナイフを投げ、もう一人の兵士の胸に突き刺した。


「…パイラ」


俺はテントの中に入った。

中には眠る様に横たわっているパイラと、今まさに彼女に何かしようとしている兵士がいた。



「な、何だお前は!?」

「――パイラから離れろクソ野郎!!」


闇の力を巨大な剣に変え、兵士を横薙ぎに斬り捨てた。


「パイラ!」


俺はパイラを抱き起こし呼び掛ける。


「ん…んんっ…………渚…?」

「パイラ…!」

「……おはよう…?」

「おはようって、お前なぁ…!」


今まで捕まっていた事もまるで自覚していない様な素振りに心底呆れつつ、彼女を抱き抱える。


「…飛ぶぞ」


地面を強く蹴り、テントを突破って空に飛び出した。

機関銃の弾丸や榴弾が飛来する中を掻い潜り、着地する。


「ここにいろ」

「あっ…」


俺は安全そうな物陰にパイラを隠し、近くにあった機関銃を手に取る。


「今度は一個大隊か…ハッ!」


物陰から飛び出すと同時に機関銃を撃つ。

物陰に迫っていた兵士数人を撃ち抜く。


「こいつめ…!」


兵士の一人がミニガンを乱射してくる。


「あぁ?」


闇でバリアを張り、更にバリアを飛ばして兵士を弾き飛ばした。


「クソッ、RPG持って来い!奴をバラバラにしてやる!」

「できるかなぁ!?」


一瞬で接近し、兵士の頭を掴んで地面に叩き付ける。


「まとめて片付けてやるよ…!」


闇の球体を作り出し、辺りに黒い光線を飛ばす。

兵士を焼き払い、装甲車を切断し、武器庫を吹き飛ばす。


「……はぁ…はぁ…」


少し、能力を使い過ぎた様だ…




「渚…」

「…パイラ…無事の様だな」


俺はパイラに近付こうとした時だった。


「う……うぅ…死ね……!」


一人、パイラを背後から狙う死にかけた兵士がいた。


「――パイラ!!」


刹那、俺はパイラを庇う様に抱き締め、

次の瞬間――俺は頭を撃たれた。


「グッ……!」

「…渚……?」


俺はその場に倒れた。

…身体が、動かない。

まだ思考できるだけ、軽傷か。

寸のところで能力を発動し、何とか大脳の大きな損傷だけは阻止できた…が、無理をし過ぎたか。

能力を使う為の箇所をやられてしまった様だ。

これは最悪、能力を失ったかも知れないな…


そんな事を考えていた時だった。

頬に、何か水滴が落ちた。


「…っ……渚…」


…パイラが、泣いていた。

彼女の涙が、俺の顔に落ちていたのだ。


「パイ…ラ…」

「…渚……死なないで…お願い……」


ギュッと、パイラは俺の手を握る。


「…死なねぇよ…幸い、弾はそこまで深く当たってない」

「でも…その傷……」

「…大丈夫だ、これぐらいな」


そう言い、俺はパイラの涙を拭う。


「…泣くなって」

「……うん…」

「……お前さ、笑うといいと思うぞ」

「え…?」

「無理にとは言わないが…まあ、個人的な意見だ」


女子供は、笑っている方が似合う…俺はそう思う。


「…どうして…こんな無茶をしたの…?」


パイラは目に涙を浮かべながら俺に問い掛けた。


「そうだな…」


何故、俺はパイラを助けたんだ?

こんな、能力を失うリスクまで負って…


…ああ、なんだ。

単純な事じゃないか。


「お前が好きだからだ、パイラ」


俺は、彼女を愛していたからだ。



「好き……?」

「ああ、お前が好きだ」

「……私は…」


パイラは少し顔を紅潮させ――俺と唇を重ねた。


「……ん…」


唇を離し、互いに見つめ合う。


「…渚……好き」


パイラは初めて、笑みを浮かべていた。

再び、俺達は唇を重ねた。





あれから、頭部の傷は回復し、能力に関しても一応使える事は分かった。

ただ、今まで通りには使う事はできず、何よりこの身体のままでは氣や魔力の消費量が多い。

そこで俺は、幾つか身に着けていた副能力を用いて自身の肉体に女体化と幼体化を施し、パイラと似た体格の少女となった。

身体が小さければ、普段から消費する氣も魔力も最小限で済む。

ちなみにパイラに「どうして女の子になったのか」と聞かれた時は「その方が愛敬がある」と私は答えた。

傍から見ればレズビアンかも知れないが…まあ、それも悪くないか。


私は、パイラの側に居続ける。

何があっても必ずだ。

…そう、私は誓ったのだからな。





「ん……」

「……渚…起きた?」


目を覚ますと、パイラが私の顔を覗き込んでいた。

…パイラは私を膝枕している状態だった。


「ああ…おはよう、パイラ」

「おはよう。でも、もう夕方」

「…寝過ぎたか」


昼頃に少し昼寝をする程度にしようとしたが…懐かしい夢を見てしまったからかもな。


「…渚」

「ん?」

「……大好き」


そう言い、パイラは微笑を浮かべる。


ああ、私も…ずっとお前が好きだよ、パイラ。

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