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dreadnought

「……ここか」


とある鍾乳洞の入口前に、俺はいた。

勿論、仕事でだ。


「破壊行為を繰り返した異能力者の説得、又は抹消、か」


今回の仕事は対象の説得か抹消。

その対象はこれまでに何度も破壊行為を繰り返し、多数の重軽傷者を出してきたそうだ。

そしてここ最近、その対象は人を殺したのだ。

それ以降の被害報告は聞かれていないが、教会はこれを危険と判断し、俺をここに派遣した。


対象は町外れにあるこの鍾乳洞に住んでいるとの情報だ。


「さて…鬼が出るか蛇が出るか」


俺は周囲に警戒しつつ鍾乳洞の中に入って行った。


鍾乳洞内は明るく、今のところトラップらしきものは存在していなかった。


しかし…妙だった。

地面や壁、天井のあちこちが破砕された跡がある。

それも、外側から砕かれたものでは無く、まるで内側から力が加わり砕けた様な感じだった。


「…恐らく、能力によるものか」


そう予測しつつ俺は先に進む。

その時――突然足元の石灰岩が砕けた。


「ッ…!」


飛び退き、破片を回避する。


「誰!?何しにここに来たの!?」


続けて、声が聞こえてきた。

…女、それも若い。

今の言葉からすると恐らく、今回の対象だろう。


「…姿を見せろ。俺は襲いに来たんじゃない」

「そんなの信じられないよ!みんな私の事、ミュータントとか、エイリアンって…!私、能力が使えるだけで他はみんなと同じなのに…なのに…!」


…異能力者という理由で差別され続けていたのか。

だから、誰も信じられず、ここに隠れ住んでいたのだろう。


「…俺もお前と同じ異能力者だ」

「えっ…?」

「ただ話がしたい。信じてくれ」


いきなり信じてくれ、なんて信憑性は薄いだろうが、今は少しでも相手の警戒を解かさなくては。

でないと、説得などまず不可能だ。


「………」


暫くすると、石灰岩の陰から一人の少女が現れた。

見た感じは渚やパイラみたいな、亜麻色の髪の小さな少女だ。

ただ、彼女の場合は見た目通りの年齢だろう。


「……」


少女は警戒しつつ俺をジッと眺めていた。


「…何もしないよね?」

「何もしない。ただ話がしたいんだ」


彼女の問いにそう俺は答えた。





その後、俺は少女から話を聞いた。

彼女の能力は物体を膨張させる能力であり、岩や鉄、生物にも有効だそうだ。

元々は一般の学校に能力を『ゼロシルバー』の指輪で封じながら通っていたらしい。


『ゼロシルバー』は異能力者の能力を弾いたり封じたりする力が込められた特殊な銀だ。

何故銀にこの様な力が込められているのかは分からない。

ゼロシルバーは装飾品などに加工して主に異能力者が自分の能力を隠す為に身に着けたり、無能力者が異能力者の能力対策に身に着けたりしている。


だがある日、教師からその指輪を外す様に催促されたそうだ。

少女はそれを拒否した為、教師は無理矢理指輪を没収した。

その時、少女の能力が暴発し、辺りの物が膨張して破裂し、その破片で教師を含む多数の怪我人を出してしまった。

その後、少女は自宅に引き籠もったらしいが、毎日少女の家族に人々が罵倒を浴びせたそうだ。

そしてある日、少女の家族が殺された。

犯人は少女のクラスメイトの親族であり、子供を怪我させられた報復で少女の家族を殺したのだろう。

少女は我を忘れ、その人物に自身の能力を使用し、殺害してしまった。

だが、人間が膨張して破裂する様は幼い彼女にとっては非常にショックなものだっただろう。

その後彼女は町から離れ、この鍾乳洞に一人で過ごしてきたそうだ。



「…辛かったんだな」

「うん…」


そっと、少女は俺に寄り添う。


「…寂しかった……パパもママも死んじゃって…友達もいなくなって……独りぼっちだった……」


そう言い、少女は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。


…独りぼっち、か。

俺は物心付いた時から家族がいなかった。

孤児として街を彷徨っていた時に教会に保護され、教会最強の異能力者として育てられていた。

だが、俺には何も無い。

命じられるままに戦うだけの存在だ。


「…私…どうしたらいいんだろう……」


この少女には帰る場所が無い。

しかもこんな子供だ、一人で生きていくには酷過ぎる。


「…着いてこい」

「えっ…?」

「ここよりもっと良い場所がある」

「う、うん…」


少女は大人しく俺の後に着いてくる。


鍾乳洞を出ると、複数人の男達が立っていた。


「…何だお前達は?」


俺は男達に呼び掛けた。


「おいあんた、その小娘をこっちに渡しな」


男はそう俺に言った。


「…何故だ?」

「その小娘…いや、小娘の姿をしたバケモノは俺の兄貴を殺したんだよ」

「っ……」


少女は俺の後ろに身を隠し、震えていた。


「この人の姿をしたバケモノめ…お前なんかいなければ…!」


そう言い、男の一人が拳銃を取り出した。


「…子供相手に随分と物騒な物を」

「物騒なのはそのガキの方だ!それともあんた、そのガキの肩を持つのか!?」

「…だったら?」


俺はそっと身構える。


「痛い目に遭って貰うしか無いな!」


数人の男達が俺に殴り掛かってきた。


「…馬鹿が」


俺は殴り掛かった男の人の手首を掴み、そのまま背後に回って肩の関節を外した。


「うぐあぁぁぁ!?」

「こ、この野郎!」


もう一人はナイフを取り出して俺に斬り掛かった。


「…フンッ!」


俺は予め入口付近に隠してあった大剣を掴み、ナイフを防ぐ。


「なっ……!?」

「…真っ二つになってみるか?」

「こ、こいつもバケモノかよ!?」


男はナイフを投げ捨てて何処かに走り去っていった。



「バケモノめ…!」


残った男は銃をこちらに向けてきた。


「…バケモノはどっちだよ」


俺はそう言うと同時に男の銃を弾き飛ばした。


「……っ!?」

「本人は能力を隠し、皆と仲良く過ごせる様にしていたんだ。なのに…異能力者という理由だけでこんな扱いか?」


ゆっくりと男に近付き、俺は男の胸倉を掴む。


「…ふざけるな。バケモノは…人の皮を被ったバケモノは貴様らの方だ…!」


男を叩き伏し、大剣を突き付ける。


「さっさと失せろ。さもなくば、貴様の髪の毛一本も残さずこの地上から消し去ってやる…!」

「う、うわあああああ!!」


男は恐ろしい形相で俺達の前から去っていった。


「……いなくなった…」

「ああ。もう大丈夫だ」

「……うん!」


少女は初めて、笑みを浮かべた。

…渚じゃないが、やはりこの年頃の少女は笑顔がよく似合っているな。





その後、俺は少女を教会へと連れ帰った。

教皇代理に事情を話すと教会で保護する事を快く承諾してくれた。


「君が女の子を連れて戻ってくるのは正直驚いたよ。まさか君に渚君の悪癖が移ったのかと」

「移るか。…それで、彼女は?」

「渚君とパイラ君と一緒に猫と戯れているよ。ああ、彼女の名前はセレナというそうだ」

「そうか」


杏華から少女の事を伝えられ、内心では安心しつつグリモアを読み耽る。


「…顔ぐらい見せてやればどうだ?少なくとも君は、彼女にとって恩人だ」

「恩とか、そういうのは俺には必要無い。ただ…」


これ以上辛辣な扱いを受けると思ったら、いたたまれなくなった。それだけだ。


「…いや、何でもない」

「ふむ、そうか」


杏華は机に積まれたグリモアの一冊を手に取る。


「これを読めば、私も君達の様に異能力者になれるのかな?」

「…さあな」

「ふふ…だが、私はあくまで学者という立場で君達の真理を解き明かしてみせるよ」


軽く笑みを浮かべ、杏華はグリモアを元の位置に戻した。


「私からとやかく言うつもりは無いが、せめて顔ぐらい見せてやるんだぞ?」

「…気が向いたらな」


そう答え、俺はグリモアのページをめくった。

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