innocence
――異能力者には二通りある。
生まれながらに能力を持った先天的異能力者と、『グリモア』と呼ばれる魔導書によって能力を習得した後天的異能力者だ。
先天的異能力者は生まれながらに能力を持つ故に、その能力に関しての精度が非常に高くなる傾向がある。
他にも、『氣』と呼ばれる生命エネルギーを使った能力も先天的異能力者しか扱えないという。
後天的異能力者は主に『グリモア』によって能力を習得した存在だ。
素養さえあれば無能力者の誰でも異能力者になれるのだが、能力を身に着けるには常人では早くて三ヶ月は掛かり、素養の無い者だと一生掛かっても習得できない事もある。
『理論上』では、『グリモア』によって得られる能力は複数同時習得が可能である。だが、それを実現した人間は今のところ五人よりも少ない。
また、『グリモア』によって習得できる能力は『魔力』と呼ばれる自然界のエネルギーを使った能力である。
『氣』は自らの生命力や精神力を糧に爆発的な力を発揮できるが、使い過ぎれば命に関わる諸刃の剣でもある。
『魔力』は自然界のエネルギーを用いた能力の為、リスクはそれほど存在しないものの、場所や環境に左右され易く、能力にムラができやすいのだ。
※
仕事の無い日はずっと地下の書庫でグリモアを読んでいる。
完全に習得できる訳では無いが、必要な部分だけ抜き出して習得する為だ。
衝撃緩和、水中呼吸、体温調整…グリモアから得られる能力は基本的に補助能力を主に抜き出して身に着けている。
「本の虫だな、君は。折角の休みだから外に出ればどうだ?」
グリモアを読んでいると、不意に声を掛けられた。
白衣を身に着け、眼鏡を掛けた長い白髪の少女。
『教会』に所属する科学者…というべき存在だ。
「時間があるならそれだけ力を付ければいい。仕事に活かせるからな」
「やれやれ、息抜きする事だって立派な仕事だぞ?」
白衣の少女は呆れながらそう言った。
白波杏華…僅か17歳にして博士号を修得した天才少女。
異能力者のメカニズムを知る為に教会の傘下に属し、己の研究の為だけにしか動かない有る種の奇人…そして、その知恵によって異能力者の新しい可能性を編み出し続ける奇才とも呼べる人物だ。
「…睡眠は取っている。あまり必要は無いが」
「そういう事では無い。人間らしく息抜きをしろと言う事だよ」
「…お前が気にする必要は無い」
「私の言葉では無いのだがね。教皇代理の言葉だ」
教皇代理…彼は無能力者であるが異能力者に対して理解を有しており、無能力者と異能力者の相互和解を望んでいる、有る種の人格者とも呼べる人物だ。
ただ、一部の人間からは理想家と呼ばれているが。
「放っておけ。あいつは心配性なだけだ」
そう言い、俺はグリモアのページに視線を移した。
「にゃー」
そんな時、何かの鳴き声が聞こえた。
「…猫か?」
「猫だな」
俺と杏華は互いに鳴き声の聞こえた方向に視線を移す。
そこには銀の鈴を付けた一匹の黒い猫がいた。
「…迷い込んだのか」
「らしいね。あと、この銀の鈴は…」
「ふむ、ここにいたか」
その声と共に、渚が現れた。
…その後ろには、渚の身長と同じぐらいの銀髪の少女が立っていた。
「渚…それに、パイラも」
「…ハリス、おいで」
パイラは猫にそう呼び掛けると、猫はパイラの方へと歩み寄った。
そっと、パイラは猫を抱き抱えた。
「…いい子」
「なーお」
パイラは猫を優しく撫でていた。
「すまんな、パイラが猫を探してくれと言ってな」
「…そうか。見つかって良かったな」
「うむ、彼女も嬉しそうだ」
そう言い、渚は優しい眼差しでパイラを眺めていた。
…こいつがこんなに優しい目をするのは、パイラにだけだ。
付き合いは長いらしいが、どういった関係なのかは詳しくは知らない。
恋人だとか、そんな噂はたまに耳に入るが。
「…外、出ないの?」
パイラは猫を撫でながら俺に話し掛けてきた。
「…別に必要が無い」
「健康に悪い」
「健康管理はしている」
「…少しは日光浴びないと身体に悪い」
「浴び過ぎると身体に悪い」
そんな会話を繰り返していると
「いいからパイラの言う通りにしろ」
渚は俺の読んでいるグリモアを取り上げて言った。
「何をする」
「外に出ろと言っているんだよ引き籠もりめ」
「渚、喧嘩はダメ」
「大丈夫だパイラ、別に私はこいつと喧嘩しようって訳じゃないさ」
そう渚はパイラに言った。
…パイラに言われなければこいつ、多分一発は俺に殴り掛かっていたと思う。
「無邪気だな、君は。無垢故に、猫も心を許すのだろうね」
杏華は軽く笑みを浮かべつつパイラに言った。
「さて、君はこれでもまだヒッキーに成り果てるかい?」
「人を社会不適合者みたいに言うな」
そう答えつつ、俺は椅子から立ち上がる。
「外だろ?行くぞ」
「フッ、話が早くて助かるぞブロッサム・ナイト。お前のそういうところは好きだぞ?」
そう言いながら渚はパイラを抱き抱える。
「一番はパイラだがな」
「…みゃあ」
…幼い少女が幼い少女を抱き抱える構図というのは少々シュールな感じがするな。
「そういえばそろそろ昼食の時間だったな。四人でどうだい?」
「それもそうだな、杏華。たまにはまともな意見を出すじゃないか」
「渚君、私はいつでもまともだよ」
「おっと、それは失礼」
そう言いつつ渚は苦笑を浮かべた。
…こいつらは賑やかだな。
それぞれやりたい事をやって、楽しく生きている。
…正直な話、俺はこいつらが羨ましいと思う。
俺には…そんな楽しみなどが存在しないからだ。




