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testament




彷徨う。


宛も無く、俺は彷徨い続けていた。

手には、血塗られた大剣。

俺自身も、幾多の返り血で染まっていた。

だけど、ここには誰もいない。

敵も、味方も。


何故、俺はここにいる?


誰もいない世界で、俺は彷徨い続ける。

それはいつまで続くのか、自分にも分からなかった。





「ん…っ……」


目が覚まし、ベッドから身体を起こす。


「…また、この夢か」


誰もいない世界で一人、彷徨い続けるだけの夢。

俺は何度この夢を見た事か。


「…はぁ」


立ち上がり、上着を取る。

黒く、背には銀糸で十字架の刺繍が施されたロングコート…俺が所属する『教会』の支給品であり、制服でもある。


『教会』…正式名称は『ヴァチカン聖女教会』。

神の声を代弁する『聖女』…東洋風に言えば巫女と呼ばれる存在を崇拝する教会である。

…表向きには。


「……」


身の丈程ある大剣を背に収める。

これもまた『教会』の支給品である。


――『教会』の真の姿は、世界の管理者である。

世界の秩序を保ち、それを乱す存在を武力により抹消する。

『教会』より派遣され、戦いに駆り立てられる俺達は『使徒』と呼ばれる。

…世界には、『異能力者テスタメント』と呼ばれる人間がいる。

異能力者はその名の通り、様々な異能力を扱う事ができる。

念動力、発火能力、読心、超怪力…中には能力を二つ以上持つ異能力者も極稀に存在している。

そして、俺もその異能力者の一人である。

…一部の能力を持たない人間は異能力者を危険視しており、逆に一部の異能力者が能力を持たない人間を見下している。


人間は古来より、自分達と違う存在を容易に受け入れ難いのだ。




「やあブロッサム・ナイト、相変わらず不機嫌そうだな」

「…フン」


眼帯を付けた黒い髪の少女が俺に声を掛けてきた。

…彼女の名は水無月渚みなづき なぎさ、俺と同じく異能力者だ。

こんな身なりではあるが、実年齢は200を越えており、元々は男性だったとか。

前に誰かが「どうして小さな女の子になった」と渚に問い掛けた事がある。

その時、渚はこう答えたそうだ。


『小さな少女が好きだからに決まっているだろう』


…まあ、幼女偏愛者ロリータコンプレックスなのは自覚しているそうな。


「それより仕事だブロッサム・ナイト。今回は少し厄介な話だ」


そう渚は言った。

「…厄介な話?」

「無能力者共のテロリストだ。子供を人質に取っている」

「下衆だな…」

「奴等の立て籠もるビルの付近には警官隊が包囲しているが、人質がいるから何ともできん」

「だろうな…テロリストの要求は?」

「一億ユーロ、それと逃げる為のヘリを一機だ」

「…警察の対応は?」

「揉めてるよ。…しかしこれ以上待たせるのはマズいだろう。痺れを切らしてテロリスト共が人質を手に掛けるかも知れん」


…現実的に考えると一億ユーロなどすぐに用意するなど不可能だ。

だがこれ以上待たせるとテロリストは人質に手を出すかも知れない。

どの道、状況は最悪か。


「そこでだ、私とお前でビルに突入する」

「強行突破か?そんな事をすれば人質は…」

「まあ待てブロッサム・ナイト。私は子供に見えるだろう?」

「…人質役になると」

「ご名答だ」


渚は面妖な笑みを浮かべる。


「私が先行し人質を解放する。その後、お前は屋上から突入しろ。下は警官隊と私が包囲している。なら奴等は更に立て籠もるか、上へと逃げる」

「上下からの挟み撃ちか」


確かにそれなら確実にテロリストを追い詰められるだろう。


「行くぞブロッサム・ナイト。今は一秒でも時間が惜しい」

「…了解した」




ビル上空、高度4000メートル。


俺は教会所有のティルトローター機内で待機していた。


「確認の為もう一度言うが、そのランプが青く光ったら突入するんだ」

「ああ、分かっている」

「…しかしあんた、いくら異能力者だからって、せめてパラシュートぐらいは…」

「構わない。着地の衝撃は能力で相殺する」

「いや、そうは言ってもだなぁ…」


ティルトローター機のパイロットは困った風に言う。


「異能力者ってのはこう、変わり者だらけなのかねぇ…」

「…さあな」

「でも変わり者ったらあんたがダントツじゃねえか」

「俺が?」

「ブロッサム・ナイトって…それ、もう名前ですら無いだろう」

「…まあな」

「…本名は、あるのか?」

「…無い」


そう、俺には名前は無い。

ブロッサム・ナイト…この呼び名はいつの間にか定着した渾名の様なものだ。


初陣は10歳の時だ。

その時には既に一人前の異能力者として育てられ、紛争地帯に使徒として派遣された。

そして…双方を全滅させて紛争を終わらせた。

辺りに飛び散った血は、まるで花を咲かせた様に広がっていた。

夜に咲く、血の花…いつしか俺はブロッサム・ナイトと呼ばれ、尊敬と畏敬の念を集めていた。


「…あんた、まだ俺よりずっと若いのにねぇ…」

「…俺には、戦いしかないんだ」


丁度その時、ランプが青く光った。


「おっと、時間だ。…本当にパラシュートは必要無いんだな!?」

「ああ」

「分かった…グッドラック、ブロッサム・ナイト!」


その言葉と共に、目の前のハッチが開かれる。

そして――俺は大空へと飛び出した。




ティルトローター機から飛び出し、ビルの屋上が見えてくる。


「……」


大剣を抜き、屋上へと着地した。

同時に、身体に伝わる衝撃を能力で相殺する。


「……クッ…」


だが、全て相殺できた訳では無い様だ。

民家の二階から飛び降りた時と同じ衝撃が身体を襲う。

だが、これぐらいなら問題無い。


「…渚、状況は?」


耳に付けたインカムで渚と交信する。


『予定通りだ。人質は全員私が救出した』

「そうか…テロリストは?」

『まだ中だ。数は6、いずれもマシンガンやショットガンを持っている』

「…お前は交戦したのか?」

『まさか。こんなか弱い少女に人殺しをしろと言うのか?』

「…どの口が言う」


俺は大剣を屋上に突き立て、力を込める。

鈍色の刃が銀色に光り、次の瞬間、屋上が崩れた。

屋上だけでは無い。その下のフロアも続けて崩れていき、そのまま落下する。


「……っと…」


着地した場所はホールの様に広い場所だった。

…テロリストはここにいた。


「う、上からだと…!?」

「なんて目茶苦茶な野郎だ…ミュータントめ!」


テロリスト達は一斉に銃を撃ってきた。


「ッ…!」


大剣で銃弾を弾き、そのままテロリストの一人に飛び掛かる。

そして、縦一文字に両断した。


「はあっ――!」


続け様に、背後から迫るテロリストに大剣を投げ付ける。


「ガハァ!?」


腹部に大剣が深く突き刺さり、テロリストの男はその場に倒れる。


「ハッ!あいつは丸腰だ、ぶっ殺せ!」


三方向から同時に銃撃が来る。


「…それぐらい…!」


俺は落ちてるショットガンを拾い、銃撃を掻い潜る。


「フンッ!」

「ぐはっ!?」


テロリストの一人をショットガンで殴り倒し、そのまま頭部に銃口を突き付ける。


「や、やめっ――!」


引き金を引き、ショットガンを投げ捨てる。


「こ、このミュータント野郎め――!」


残ったテロリスト達は一斉に銃を乱射してくる。


「ッ――」


俺は死体に突き刺さった大剣を引き抜き、飛び上がって銃弾を回避する。


「クソッ!なんで当たらないんだ!」

「怯むな!異能力者だからって俺達と同じ人間なんだ!当たりゃ殺せる!」

「同じじゃねぇよ!あいつらはバケモン、ミュータントだ!」


テロリスト達の怒声と更なる銃撃が飛来する。

大剣を盾にしつつテロリストの一人を踏み付け、首をへし折る。

そのまま更に一人に接近し、横薙ぎに斬り裂いた。


「ひ、ひぃ……!」


残ったテロリストは怖じ気付いたのか弾切れになったマシンガンに引き金を何度も引きながら後退っていた。


「……」


俺はゆっくりとテロリストの男に歩み寄る。


「や、やめろ!来るな来るな来るな来るな来るな――!」

「――終わりだ」


そう告げ、大剣を一気に振り降ろした。





「やれやれ、また派手にやったな」


帰還中のティルトローター機内で、渚は呆れながら俺に言う。


「…先に撃ってきたからな」

「だからやむ無し、か。しかしビルはやり過ぎだろうビルは」

「…ショートカットだ」

「その理屈はおかしい」


呆れつつ渚は、窓から街を見下ろしながら言う。


「そういえば人質だった子供達はちゃんと親の元に届けられたぞ」

「そうか…」


それを聞き、俺はひとます安心した。


「過程はちょっと派手だが、まあ互いに無事、人質も全員救出に成功。上出来だな」

「…そうか」


そう言い、俺は窓から空を眺める。

俺達を乗せたティルトローター機はヴァチカンに向かって飛行し続けていた。



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