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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第九十九話 高台の上

 ゾウスイはともかく、カニカマまでが集落を守るために戦っている。確かに長き殻どもはカニカマにとっても怨敵だ。だが、あの若者を戦わせるのは難しいかもしれない、とアカシは思っていた。

 あの後。カニカマのいた場に戻ってみると、タラバ族の肉はなくなっていた。カニカマがそれを食べたのか、捨てたのか。アカシにそれを知るすべはない。だがあの若者の中で、何らかのこころのありようというものを決めることはできたのだろう、と。アカシはそう思うことにした。

 ゾウスイは、同じ殻持つものであるカニカマが集落にいることに驚き、それから色々と話をしていた。そういうものも、関係しているのだろう。

 いつか、アカシと対決することになるやもしれぬ。だが、今はそれでいい。

 六頭が抜けて薄くなった戦列を集合させて、押し返す力を強める。敵の頭数は、経る様子を見せない。クルマ族の群れは、後から後から湧いて出てくる。

 だがそれでも。集落前の戦いは、均衡を取り戻そうとしていた。

「ウスヅクリ。タツタアゲ。暫く隊を預ける」

 信を置く二頭の小頭に告げて、後方へ退く。珊瑚で組み上げられた高台へと泳ぎ近づいた。

 高台の上では、ミズ族一の舞い手、オドリグイが、その持てる触手すべてを用いて戦士を鼓舞している。これほどの激戦に関わらず、未だ集落が抜かれていないのは、疑いなくこのミズ族のおかげだった。

 オドリグイ自身は気付いていないようだが、戦士たちの中にオドリグイを慕っているものは、とてつもなく多い。その数はマリネやゴマミソアエに対するものとは比べ物にならぬほどで、あまりの多さに、オドリグイを慕う彼らは競合して壺仲間のようなものをつくり、だれかが抜け泳ぎせぬように約定を交わしているのだそうだ。

 そのオドリグイが、己たちの後ろで、力の限りに踊っている。

 オドリグイの舞いが与える力に加えて。彼女に危害を加えてはならぬと思う雄たちの思いが、さらにこころを奮い立たせるのだ。

 アカシは高台の下に取り付き、声を張り上げた。

「マリネ。ナムル。敵の一群がミズ族の集落の方角へ向かっている」

 マリネとナムルが、脇の舞いを止めた。オドリグイは、声が届いたのか届いていないのか、触手を止めることなく舞いを続けている。

「戦士の数が足りぬ。脚を借りたい」

 マリネはすぐさま頷いて、高台をするすると降りてきた。ナムルはマリネとオドリグイを順番に見て、迷いを見せている。

 戦がはじまってから休むことなく、オドリグイは舞い続けている。疲れは、相当なものであろう。それを抑制していたのは、マリネとナムル、二頭の脇の舞い手だ。

 二頭が一度に抜けてしまっては、オドリグイの身体が保たない。ナムルは、そう感じ取ったようだった。


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