第九十八話 助脚
何の気負いも見せず、積んである岩場までゾウスイが出た。
敵の先群はほぼ動けなくなっているが、後群は次々と北壁を越え、侵入してくる。それはどれもクルマ族ばかりで、クロトラ族の姿は見えない。
北壁の上に、マ族の戦士たちの姿は見えない。皆喰い果たされたのか。それともうまく逃げたのか。どちらにせよ、もう戦うことはできまい。
敵の二頭が新たに登って来る。
ゾウスイが刀を振るう。一頭が両断され、落ちてゆく。
隣に進み出たカニカマが力任せに棒を振る。速度が落ちたクルマ族のもう一頭は避けることもできず、水中を跳ねて、やはり坂の下まで落ちていった。
「ここは、任せよ」
ゾウスイの言葉に、小さく頷いて了承を返した。戦士たちに指示を出し、列を組み直させる。
この助脚はありがたい。長く戦いを続けてきたゾウスイだけあって、戦の大事な勘どころを心得ているようだ。
敵にクルマ族よりさらに大きな種族がいると聞いてから、ゾウスイはそれを食い止めるために働いてもらうつもりであった。だが、ここを抜かれては、それどころではない。
そして、敵の大頭格と戦えないことは、ゾウスイにとっても残念なことなのだ。
だから、ここに出てきた。そういうことなのだろう。
ゾウスイが刀を振るい、カニカマが棒を振り回すことで、敵の勢いを押し返しつつある。その隙に、アカシはマ族の戦士たちを立て直す。
その傍に、斑の体表を持つ一頭が寄って来た。ワモン族のツクダニだ。
「伝令。敵の一群が、ここに向かわず集落の周囲を巡っている。クロトラ族という小さなものばかりで、数は三十ほど。おそらく、別の侵入口を探っている」
まずい、と即座に思った。表の攻勢に気を引きつけている間に、別の場所から侵入し、喰い荒らす腹積もりだろう。
わかってはいたことだが。殻盾の使い方といい、群れを分ける考え方といい。敵の中にも、群れでの戦い方をよく知るものがいるようだ。
この別群れは、何とかせねばならない。鋏討ちにされるのがまずいのはもちろんだが、それより何より、ミズ族の集落が見つけられるのは、もっとまずいことだ。
「タコワサ。六頭を引き連れてゆけ。アヒージョと、ジェノベーゼの脚を借りよ。ツクダニ。ワモン族の助脚を願えるか」
「もちろんだ」
ツクダニと、マ族の戦士を六頭連れたタコワサが素早く消えた。
戦列に目をやる。何とか、敵の群れを押し返しつつある。殺到している敵の数は増えているが、ゾウスイとカニカマの奮闘が凄まじい。種族の力の差、というものを、アカシは改めて味わっていた。




