第九十五話 分断
その答えは、アカシにはわからない。長き殻どもが現れたことで多くの種族が触手を結んだのと同様に、マ族が一度目の襲撃を弾き返したことで、長き殻どもがそれに応じた策を示した。それらはどれも繋がり、回り、巡っていることだ。その渦巻く潮流を泳ぎ切ったものだけが、最後にこの環に残るのであろう。
ならばまずやるべきは、敵が成した策に、さらに応じて動くことである。
長き殻どもの軍勢が迫って来る。前面にいるのは、クルマ族と呼称する大きな種族だ。
タラバ族の殻を盾代わりにして、飛び道具を警戒しつつも速度を落とさず突撃してくる。
よくよく見れば、盾代わりの中には同じ長き殻どものものと思われる縞が混ざっている。
必要とあらば同胞の死骸さえ利用するのか、やつらは。アカシは敵の危うさに対する認識を即座に改めた。その徹底ぶりは、マ族のそれを上回っているのではないかと感じたのだ。
赤珊瑚の槍を振る。投げ銛を持つ戦士たちが、得物を構えた。
「放て」
合図とともに、水を切って銛が飛ぶ。それらの多くが、クルマ族が掲げた殻盾に弾き返されている。
もとより効くとは思っていない。これは、敵の突進力を削ぐためのものだ。
敵の先群が北壁を越える。北壁の幅にあわせて素早く群列を整えたクルマ族が殺到してくる。だがその速度は、道に配された岩に阻害され、遠目にもわかるほどに落ちている。
先頭の二十頭ほどが北壁を抜けた。アカシは含んでいた小石に墨を纏わせ、高く吐き上げる。
左右の北壁の上から、それが落とされた。
先の戦で使ったタラバの脚。その残りをすべて、北壁の下へと落としたのだ。
水の抗いを受け、波と泡を立たせながら、重く大きなタラバの脚が次々と落ちてゆく。その下を通過するクルマ族は、すでに留まることはできない。
砂煙を盛大に上げ、タラバの脚が地に突き立ち、あるいは跳ね、転がる。何頭かのクルマ族をうまく巻き込んだのを、アカシは認めた。
「槍」
すぐさま指示を飛ばす。前列の長槍を構えた戦士たちが、突撃を食い止めるため穂先を並べた。
潰れた同胞を無視して、クルマ族が集落に迫り来る。その数は二十を少し越える程度だ。後方のクルマ族は堰き止められた北壁の道を越えるのにもたついている。一回り小さなクロトラ族たちが、北壁に取り付き、またあるいは泳ぎ出でて、北壁の上を守る戦士たちに襲いかかるのが見えた。
二十頭ほどのクルマ族がひと固まりとなって集落前の坂に到達する。だがそこで、速度が鈍った。
アカシは、僅かに笑みを浮かべた。




