第九十四話 対峙
砂煙が上がっている。
岩と珊瑚とタラバ族の甲殻でぐるりと囲まれたマ族の集落の北門は、周囲より小高い場になっている。北門より先はなだらかな下り坂になっており、その二泳ぎほど先に、やはりマ族が丹念につくり上げた高い防壁がある。
防壁にはいくつかの切れ目がある。最も大きいのは集落正面のもので、マ族の戦士が触手の数ほどは横に並び、隊列を組めるものだ。他の切れ目は小さいものが多く、それらは現在、すべてを岩で塞いでいる。
正面の切れ目も、いくつかの大岩を転がし、侵入を阻害するようにしている。完全に塞がなかったのは、それが困難であるためと、ここを戦場として長き殻どもと対面したいとアカシが考えたからだ。
集落の外に、マ族側の戦士は少ない。配置しているのは、北壁の上にいる四頭だけだ。マ族の集落自体を防壁として用いる。それがこの度の群略であった。
北門の内側にはマ族と、その他様々な種族の戦士が集っている。ワモン族の戦士たちだけは、すでに探索と伝達のため、八方へ散っていた。彼らのまとめ役は、もちろんツクダニだ。
前列。タラバの甲殻や大貝の殻でつくられた盾と長槍を持ったマ族の戦士たちは、横一列に並び、敵を待ち構えている。その後方には銛を持った戦士たちが待機していた。
集落中の投げ銛が、この場に集められ、砂場に突き立てられている。これらをすべて使ってでも、長き殻どもの突進を止める腹積もりであった。
遠く向こう側に立つ砂煙。その中に紛れているのは、恐ろしい巨体と力を持った、殻のあるものどもの一群だ。
目を凝らして見れば、やはりあちらも整然と列を成して向かってきているのが見える。その前列に見えるあれは、こちらが用いているのと同じタラバ族の甲殻か。どうやら前回の戦を踏まえ、飛び道具への対処をしてきているようであった。
やはりタラバ族を相手にするのとは違う。そのことを、アカシは思い知った。
タラバ族の若者カニカマはマ族の集落へ来て、棒を使うことを教え込まされた。ズワイ族の鋏客シメノ=ゾウスイはケンサキ族のシオカラと出会ったことで、刀というものを知った。
そして長き殻どもはマ族と出会ったことで。道具を用いることの有用性を知ったのだろう。
道具を使うことは、弱きものである柔らかきものどもの、生きてゆくための知恵であったはずだ。だが、強き存在であるはずの殻持つものどもたちが今、様々な道具を用いはじめている。
これもまた、環による巡りというものなのだろうか。
ならば環は、俺たち柔らかきものの優位を取り上げ、滅ぼしたいと願っているのか。そういうことなのか。




