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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第九十一話 三角地帯

 渦が一つ巻き、解けるほどの間をおいて、アカシの前にツクダニが戻ってきた。触手を一本も欠かすことなく、八体満足であるようだ。無事なツクダニの姿を目にしてアカシは安堵し、それから安堵できるこころを持ち得た己に感謝をした。

「お主の判ずるとおり、動き出しておるようだ。戦速ではなかろうが、微速でこちらへ向かっている。数は、二十頭ぶんの触手ほど。後方に、やけに大きいものが一頭、いた」

 やはりか。アカシは槍の石突きで地を打った。

「すぐに集落に戻る。詳報に、感謝する」

 ツクダニは軽く頷いて、アカシの礼を受けた。ツクダニが触手を一本上げると、やはり音もなく配下のワモン族たちが集まってくる。

 一頭が、欠けていた。

「捕まったのか」

 泳ぎ出しながら、後方に問う。ワモン族の若長はすぐに追いつき横に並んだ。

「やつらを見たが、いくつかの種族がいるようだな。最も小さなやつらは、厄介だ。なかなかに勘がよい。それ以外のものは、あまり探索には長けておらぬようだが」

 そこで言葉が切れた。互いに視線は前に向けている。泳ぎながら、二頭は言葉を交わしていた。

「あれは、恐ろしいものだぞ。マ族の大頭。勝てるのか、あれに」

 戦士であれば、見ればわかる。あれはそういうものだ。群れで動くところを見たのであれば、尚更だろう。だが。

「戦わねばならぬ。勝たねばならぬ。それしか、我らが生き残れるうねりも、巡りもない」

 暫くの躊躇いの後、言葉を継いだ。

「ツクダニ。お主、マリネと結ぶのであろう」

 うむ、と、こちらも躊躇いの混じったふうな肯定が返ってきた。

「好いているのか。マリネのことを」

 重ねて問うが、返答はない。もう一度繰り返そうと思ったときだ。

「信じてもらえぬやもしれぬが。はじめてあの雌を目にしたときから、思っていた。俺の壺に迎え入れるのは、あの雌しかおらぬ、と。俺はワモン族だ。ワモン族の雌を好むのが道理であるとは、わかっておる。だが」

 ツクダニがアカシの方を向く。

「己ではどうにもならぬものはある。そういうことなのだろう。そして俺は、この機を逃すつもりはない」

 その一言で、アカシにはもう充分だった。

「マリネと俺とは壺姉弟なのだ。あいつを守りたいと、俺は思っている」

 アカシは語る。ツクダニの目は見ない。見ることはできない。

「守るためには、勝たねばならぬ。やつらを、打ち払わねばならぬ。それしかないのだ」

 ツクダニが頷いたのを横目に認めた。これでいいのだ。その言葉は、己に向け、それから腹腔のうちに閉じ込めた。


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