第九話 追われタラバ
顛末を聞いたアカシは、いくつか聞き出さねばならぬことがあると思った。
それはどのような姿をしているのか、と問い詰めようとして、やめた。逃げてきたはずの彼らが、こうして今も逃げている。
それはつまり、どういうことか。
「ここまで追ってきたのか、そいつらは」
タラバたちが頷いた。
槍を握る手に力がこもる。それは、渓谷の南北に居を構えていたタラバの一族が、負けたということではないのか。
あの強大なタラバの一族が、敗れる。そのようなことが、果たしてあり得るのか。
「大頭」
思案するアカシにタコワサが声をかけた。地面に触手をあてている。
敵が近付いている。そういうことだ。
「総員、構えよ」
掛け声とともに、戦士たちが陣形を組んだ。タラバたちを中心に、円をつくる。
海藻が揺れる。地も揺れる。
森が割れた。
巨体が飛び出してくる。若いタラバたちとは比べるべくもないほど大きい。その身体は、縦に細長い。その身体はタラバたちと同じく、堅そうな甲殻に覆われている。だが脚は、タラバとは違い小さな脚が、その腹に無数についているようだった。
一番手前の三対の脚がやはり、鋭そうなはさみになっている。あれがやつらの武器だろう、とアカシは判じた。
確かに、砂煙の中で見たならば、タラバ族と見間違うやもしれない。
こいつらだ。ミズ族の集落を襲ったのは、こやつらの仲間だ。
ふつふつと怒りがわき上がってくる。だが、今は怒りに身を任せるときではない。
「タコワサ」
命を飛ばすとほぼ同時に、タコワサが背から短い銛を抜き、投擲した。
水を切って飛んだ銛が、先頭の化け物の背に突き立つ。タコワサは投げ銛の名手だ。彼の銛が外れるところを、アカシはほとんど見たことがない。
タコワサの一撃を合図に、戦士たちが銛や槍を投げはじめた。訓練された投射は、過たず押し寄せる群れに吸い込まれていく。だが、化け物どもはひるみを見せず突撃してくる。