第八十九話 マ族とワモン族
敵を見たい、と言い出したのは、ワモン族の若長、ツクダニだった。
アヒージョとカルパッチョ、そしてオドリグイとナムルの帰還は、集落を大いに沸かせた。しかもそれぞれが、ワモン族、棘持つものどもの族民を連れている。交渉が上手くいったであろうことを、何よりも表していた。
本来であれば大がかりな宴が開かれるところであった。が、アカシはそれに先立って長老に己の懸念を伝えた。
長老も、族民も、そして新たにやってきたワモン族も現状はよく理解している。棘持つものどもが何を考えているかは、引き連れているオドリグイにしかわからない。いや、オドリグイですら、わかっていないやもしれない。
宴は敵を打ち払って後、ということになった。
そしてツクダニが言ったことが、宴よりも敵がどのようであるものか一目見てみたい、ということであった。
「これは、我らワモン族の総意でもある」
マ族とミズ族が対峙している敵がどのようなものであるかは、もちろん伝えてある。それだけでなく、会合の場ではオドリグイが、棘持つものどもの集落で見せたのと同じものを一さし舞ってみせた。
だがその上で、見てみたいという。
「危ういぞ」
「わかっている」
そこまで言うのであれば、否やはなかった。
ツクダニは己を含め、何と十頭もの戦士を引き連れてきた。誰もが凄まじい手練であるという。
互いの力を測るため、いくつかの技を見せてもらった。ツクダニとその配下たちは、マ族の誰よりも早く静かに砂に潜り、岩と体色を同化させ、素早く岩壁を登った。
「なるほど、凄まじいものだ」
同じ力を持つマ族であるからこそ、その技量の高さはわかる。
ふと思いついて、ツクダニに集落で使われている小さな刃物を贈った。
受け取ったツクダニの体表が一瞬で明るくなった。早速それを用いて、砂を掘り、岩壁を登ってみせる。
小さな刃物は、ワモン族の力を存分に引き出していた。
アカシはワモン族の戦士たちすべてに、貴重な刃物を配ることにした。見せられてはもう、そうせざるを得ない。
戦士たちは喜び、アカシに礼を返した。皆体表が堅すぎるきらいはあるが、こころ清々しい雄たちだった。
刃物を海藻で身に括りつけた戦士たちを引き連れ、アカシは集落の北へ赴く。自ら案内役を買って出た。
ツクダニとは話し合いたいことも、あったからだ。




