第八十六話 集結
二頭を長老のもとに誘い、挨拶を交わさせた。
長老は二頭の逗留を快く受け入れた。多少は渋るかと思っていたアカシであったが、ここまで通した者たちの判断を信じたものかどうか、長老の対応は終始穏やかなものであった。
集落のおかれている現状を、改めて二頭に話す。シオカラは不安そうな体表をし、ゾウスイは嬉しそうな体表を見せた。
「それほどに嬉しいか、ゾウスイ殿」
「おうよ。ここにいれば、強き者どもが攻め寄せて来るのであろう。これほど嬉しいことが、あろうか」
なるほど、シオカラの見立ては、誤っておらぬようだった。
戦に協力することを、二頭は了承した。ゾウスイが率先して戦いに加わってくれるなら、これほど心強いことはない。いかに使うか、ということは考えねばならぬだろうが、取り得る道すじが増えるであろうことは疑いなかった。
小さな歓待の宴が開かれた。族民は皆、やはりズワイ族である鋏客を恐れている。だがそれでも、多少なりとも緊張を緩和する効果はあったようだった。シオカラははじめからもう、八本足のマ族とミズ族に馴染んでいる。若い雌たちは、特に何やら馴れ馴れしい。
宴を終えるとすぐさま、長老はゾウスイから聞き取りをはじめた。このズワイ族は、数多くの戦いをくぐり抜けてきたであろう戦士である。その話から得られるものは戦のことに限らず多かろうと、長老は考えたようだった。
シオカラはジェノベーゼに触手を引かれて、匠頭たちが集う方へと去っていった。寄って来る雌どもを、ジェノベーゼが邪険に払っているのが遠目に見える。少し前までは己を慕っていたようであったのに、雌というのは移り気なものだ。と、半分方呆れ、また一抹の寂しさを感じつつも、それを見送った。
一頭で泳ぎだしてから、水がやや重いように感じた。
水の濁りが増している。撒きあがった砂や様々なものが、水に薄く混じっているのだ。先ほどまでものどもの出入りが多かったのであるから当然といえば当然なのだが、果たしてそれだけなのか、とアカシは思った。
長き殻どもが動き出したのではないか。不意にそう思い当たった。
やつらが捕えた餌をすでに食い尽していても、おかしくはない。そう考えさせるだけのうねりは過ぎていた。
来るか。それは確信に変わった。戦士としての勘といってもいい。アカシのこころの奥底にある何かが、それを感じ取っているのだった。
進み行く先がまた、騒がしくなっている。やはり南の門の辺りだ。
族民たちが再び集まっている。門の向こう側から、触手を持つ一団が泳ぎ、集落に近づいてくるのが見える。
別の方面に旅立っていた使者たちが、帰還したのだ。




