第八十五話 刀
見せてもらってもよいか、と問うと、ゾウスイは気安くそれをアカシに寄こした。
それが武器であることは、すぐにわかった。
やはり、片側を、持ち手の部分を残して削り、刃物にしてある。大きさはズワイ族であるゾウスイにあわせてあり、アカシの槍ほどもあるのだが、それほどに重さは感じさせない。重みを上手く、各部に分散させているのだろう。
そして何よりアカシが注目したのは、刃の部分だ。
鋭く研がれている。集落にあるどの刃物を持ってきても、これほどに鋭いものは存在しないだろう。そう思わされた。
マ族が使う槍の穂先にも、刃がつけられている。だがそれは熟練の戦士の技量でもってして斬り裂き、貫き通すものであり、誰しもが刃を刃として使えるものではない。これは集落で使われている様々な刃物も同様だ。
だが、シオカラがつくったというこの武器はどうだ。戦士でない者が振るっても、殻を持つものどもに傷を負わせることができそうではないか。
こんなものがあるのか。アカシが感じたのは驚きと。それから羨望と嫉妬と憤りであった。
道具を扱うことにかけては、己たちが随一であろうと思っていた。もちろんケンサキ族のことは聞き及んではいたが、実際には言われるほどの差はないであろう。こころのどこかで、そう思い込んでいた。
だが今これを目にして、アカシはその差に絶望的なものを感じている。
これが。これが、ケンサキ族か。
「刀、と僕は呼んでいます」
シオカラが答えた。
刃よりもさらに鋭いもの、という意味を持つのだという。刀、と口の中で何度か繰り返した。
改めて、刀を眺めた。やはり、様々な思いが湧きあがってくる。
これがあれば。これが、マ族のもとにあれば。生き残れるものはもっと多かったのではないか。死なずに済んだものは、多かったのではないか。
多くの幼子のための餌を、獲ってくることが、できたのではないか。そのような思いに、アカシは捉われていた。
気持ちを押し殺して、ゾウスイにそれを返した。やはり流れるような所作で、ズワイ族の戦士は刀を納める。
シオカラに向き直った。
「我々にも、つくれるだろうか」
問うた。問わずには、いられなかった。
「研鑽を積めば」
シオカラは答えた。
二頭を促す。道の先には、アカシたちの集落があった。




